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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第二十一話 Bridge to NEXT

 颯斗は自室でパソコンに向かっていた。
 遠足のあった日と言えど、日課の新曲確認は怠らない。デイリーランキングの上位を中心に、新しい曲の数々、仲間の歌い手の動向の確認をしていた。
 睡魔は迫りつつあったが、それにも負けず指を動かしては、画面をスクロールする。
 と、画面の右端に『やっほー』とメッセージが表示された。
 スカイプからの通知だった。
 差出人のところには、〝WitCherry, Mina〟とある。
 通知部分をクリックして、スカイプを起動する。
『ハーイ、麗音♪ 元気してる?』
『元気だが……何の用だ?』
『今度の日曜日、エイミーとお忍びでコミギャ行こうと思うんだけど、麗音も来る?』
『今度の……って明後日じゃんか』
『うん。エイミーと話してたら、折角だし麗音も誘おう、って話になって』
『どういう理由で折角誘うことになるんだよ』
『さーねー。あの子麗音のファンだから?』
『まあ、暇だが……コミギャって、どこでやるんだ?』
『えーと……、あ、ここ見て。その方が速いよ』
 ポン、とURLが表示される。颯斗がそのリンクを踏むと、さっきまで見ていたブラウザに、コミギャの告知サイトが表示された。
 コミックギャザリング、通称コミギャは、同人系の即売会の一つで、同人漫画から同人CD、同人ゲームなど、様々なジャンルが集うイベントだ。
 歌い手ももちろん多く参加しているが、颯斗はコミギャには出たことが無かった。
 今しがた颯斗に声をかけて来た〝WitCherry, Mina〟とは、二人組の歌い手ユニット、〝WitCherry〟のミーナのことで、彼女のチャットの中に出ていたエイミーと言うのが、パートナーの名前だ。歌う魔女二人組、というのがコンセプトで、ユニット名は魔女を示す〝Witch〟と、二つで一つ、の象徴、さくらんぼを示す〝Cherry〟を合わせて、〝WitCherry〟となっている。
 麗音と〝WitCherry〟はコミギャとは別の同人イベントで出逢い、それからネットでやり取りをしながら、コラボ曲を投稿したり、即売会で交流したりと、なかなかに密接な繋がりを見せている。
『へえ。意外と会場、俺の家から近いんだな』
『来れそう?』
『まあ、行ける、と思う』
『良かった。エイミーにも言っとくね。集合場所とか時間は、また後日伝えるね』
『分かった』
 そこで二人のチャットは終わった。
「コミギャ、か……」
 正直な話、颯斗にはそれほど興味心があるわけではなかった。
 少なくとも、この時には。

 ほぼ同刻、夕葉は中学時代の同級生と電話をしていた。
『ありがとね、入稿無事出来たよ』
「良かった。明後日だっけ、コミギャ」
『うん』
「お昼ぐらいに行くつもりだから」
『はーい。待ってるね』
「ふわあ……」
『ああ、夕葉、今日は遠足だったんだっけ。もう寝ても良いよ』
「ごめん、そうさせてもらうね」
『おやすみ、夕葉』
「うん、菜々も。おやすみ」
 夕葉は耳元から携帯を話すと、終了、をタップした。
 彼女が話していた相手、菜々とは、〝NaNaNaNa〟と言うハンドルネームで活動している絵師で、現実でもネット上でも夕葉とよく活動を共にしている。今回彼女がコミギャで頒布する同人誌にしろももが一枚絵を寄せたため、その報告も兼ねての電話が、今しがた行われていた。
 夕葉は菜々と異なり学業にもかなり大きなウエイトを置いていることもあって、参加するイベントはそれほど多くない。コミギャに関しても、友人や知人に寄稿することはあっても、自身が出展することはまだ無かった。
 大学生になったら、もっと多く参加してみたい。そう思いながら、夕葉は目を閉じた。
 遠足の道中のバスでもかなり眠っていたはずなのに、それでもすぐに眠りにつくことが出来た。
 それはきっと、遠足での出来事が、彼女に不思議な安らぎを与えていたから、なのかもしれない。

 颯斗と夕葉。またもこの二人は運命に導かれたようにして一所に集うことになったのだが、やはりそこには、もう一人、彼の姿もあった。
「やっと。やっと会えるな。詩織に」
 彼は机の片隅に置いてある写真立てを見て、そう呟いた。
 そこには、今より幾分幼い容姿の彼と、隣で笑顔を浮かべる髪の長い女子が写っていた。
 彼が創作を始めた理由。彼がどれほどもてはやされようと、誰にも傾かない理由。
 全ての根底にある、一人の少女。
 コミギャに行けば、彼女に会える。
 今やほとんど会うことが出来ない、彼女に。
 だから彼もまた、明後日を待ち遠しく願っていた。
 そのことは、御崎薫もまた、運命の輪の中にしっかりと入っていることを、示していた。

 彼らを取り巻く運命は、徐々に加速して行く。
 まるで、世界が刺激を求めているように。
 あたかも、誰かがそうなる通りのシナリオを書いて、その行く末を、離れたところから眺めているように。
 だがきっと、結ばれる二人の物語は、よく出来たお話だと思ってしまうほど、運命的だ。
 事実というものは、何よりもフィクショナルだから。
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