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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第二話 しろもも、麗音を知る。

 榊原夕葉は鷺沼颯斗が嫌いだった。
 ファーストコンタクトが酷いものだったことから嫌悪感が生まれ、それからの何度かのやり取りでも好きになれないようなものが続いたこともあって、今ではクラスで一番嫌いな男子と言えば間違いなく颯斗の名を上げるほどだった。
 ついさっき少し身体をほぐそうと左右に捻った時、後ろの席の颯斗が目に入った。その時の颯斗は、携帯を弄っていて、それがまた夕葉の気を悪くさせた。
 何なのこいつ。ほんと。授業受けたく無いんなら来なきゃ良いじゃん。
 夕葉も別に目立って真面目な優等生というわけではないが、それでも人並みには真剣に授業を受けようという気が有った。
 もちろん、彼女にも授業を受ける中で手持ち無沙汰になる時はあるし、そんな時彼女は絵を書くのが常だった。しろもも。それがネット上での彼女のハンドルネームで、彼女がイラスト投稿サイトに絵を投稿すると、たちまちランキング入りするほどの人気絵師だ。まだ商業で大規模な活動はしていないが、様々な場所でそのイラストが使われており、その名を知る人は少なくない。
 そんな彼女でも、自分は学生をすることが一番の務めだという想いが強いし、責任感や自制の念が占めるところが大きいため、学生の本分を苔にするような行動を見せる颯斗には腹が立って仕方なかった。
 授業が終わり、昼休みになった。
 夕葉は友達と楽しく会話を交えながら昼食を取り始める。
 一方颯斗はと言うとイヤホンを耳に差し、音楽を聴き始めた。
 足を組んで菓子パンをかじりながらリズムに合わせて小刻みに身体を揺らせている。
 颯斗がそうするのは、次に投稿する【歌ってみた】に使う曲を覚えるためなのだが、夕葉にはそんなことは当然分からず、周りを意識しない傍若無人な振る舞いにしか見えない。
 とは言え、昼休みの過ごし方なんて人それぞれ。別段そこに文句を言おうと思うほど、夕葉も身勝手ではなかった。
 ただ、それを好ましくは思えない。そう思う程度だった。
 ところが、夕葉の心に積もり行くイライラは次の授業でいよいよ限界に達する。
 またも似たような状況で颯斗が携帯を弄っているのを目にした。しかも、今度はツイッターの画面まで目に入った。
 授業終わり、夕葉は一言文句言わずにはいられないほど苛立っていた。
「あのさあ」
 ん? と少しだけ顔を上げて夕葉の方を見る颯斗。その仕草がまた夕葉の心を逆撫でた。
「授業中にツイッターするのどうにかなんないわけ? モチベーション下がるんだけど」
「なんでお前の席から俺が携帯触ってんのが見えてモチベ下げることになんだよ」
 前向いて授業聞いてたらどうだ? と言いかけて颯斗は抑えた。そこまで言って余計に夕葉の気を荒立てても仕方ない。ここは適当に流して帰ろう。颯斗は何事にしても過度の高まりを好かない性格だった。至って冷静に、それでいて確実に。颯斗は理知的なことが好きだった。
「ちらりと目に入ることなんて誰だってあるじゃない。それに、あたしだけじゃなくて、他の人にも迷惑かけてるってわかんないわけ?」
 思ったより既に夕葉はお怒りのようだ。颯斗は適当に悪い悪いと謝った。さっさと逃げてしまおう。それで事が済む。颯斗は席を立った。
「逃げんな。おい、聞けよっ!」
 つい夕葉の口調が強くなる。
「俺に構うなよ。優等生は前だけ向いとけ」
 結局颯斗はそれを口にした。
 夕葉も追いかけはしなかったが、心底苛立って歯ぎしりした。
 この一時のやり取りだけで、夕葉の中で鷺沼颯斗は世界で一番ムカつく奴、にまでランクを上げた。
「ほんと何なのあいつ。マジムカつくんだけど」
「まあまあ、ほっとこうよ。ちゃんとしてなかったらきっと良い成績なんて取れないんだから」
 友人になだめられ、ようやく夕葉は落ち着いた。
 その後の授業では夕葉意識して後ろを見ないようにした。
 また携帯を触っているんだろうか。逆に気になるのがまた夕葉の気を荒立てた。
 午後の授業も全て終わって、夕葉は颯斗が帰るより先に教室を出た。
 彼女は最初美術部に所属していたが、その気質上、真面目に活動しなかったそこに愛想を尽かして、結局半年足らずでやめてしまった。
 その後は帰宅部になり、個人で活動する方が効率も良かったことも有って、放課後は一人で居ることが多くなった。友達付き合いもなかなかにしているが、如何せん絵を描くのには時間がかかるため、家に直帰してディスプレイに向かうのが彼女の日常だ。
 イライラを抱えたまま、彼女は家に辿り着いた。
 自室に上がると携帯を鞄から取り出し、鞄は若干荒々しく放って、ベッドに倒れ込んだ。
 携帯の画面にはフォロー通知が来ていた。彼女は決してフォローを返すタイプのユーザーでは無かったが、もしかしたら同業の人からフォローされているかもしれないという思いから一応どんな人かは確認するようにしていた。
「うわ、何この人。凄い」
 夕葉は仕事柄歌い手の動画に絵を提供したりもするが、麗音という歌い手のことは知らなかった。
 そのフォロワー数は彼女の知る中ではダントツで、けれどすぐにフォローする気にはならなかった。
 どういう目的でこの人はフォローしたんだろうか。
 少し考えてやはり分からなかったし、夕葉はひとまずそのままにして携帯をロックした。
 だからこの時点では、麗音はまだ、しろももの記憶に僅かに残る程度だった。
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