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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
14/202

第十四話 その男、アルデンテ

「ちょっと、御崎君、ゲームはやめとこうよ」
「なんで? 見つからなければ良いよね」
 甘いマスク。美しさを漂わせる白い肌。細い腕の先についた指には、銀の指輪が輝いている。
 儚げに窓の外を眺めていれば、この世の女性の半分は心を奪われるだろう。
 今のように、迫り来るゾンビを楽しげに斬り殺していなければ。
 割と手慣れた手付きでゲーム機を操作しつつ、話をする時は必ず相手の目を見る。
「面白いよ、やってみる?」
 とろんとした表情に、首筋を舐めて回るような柔らかな声。隣に座った少女は息を呑んだ。
「じゃ、じゃあ後で少しやらせてもらおうかな」
 そして、まるでゲームになんて興味が無いはずなのに、そう答えてしまうのだった。
「うん。きっと夢中になるよ」
 この美少年の名は御崎薫。颯斗や夕葉と同じクラスに所属する生徒だが、彼らとはまるで違うタイプなため、直接関わることは今までほとんど無かった。その蠱惑的で禍々しい魔の魅力で多くの女生徒を虜にしつつも、決して一線は越えないということで彼を嫌うような生徒はほぼいない。夕葉や美陽は特に意識することは無いが、少なくとも夕葉にとっては、颯斗よりは明らかに順位が上な生徒だった。
 そんな御崎薫のもう一つの顔、それは今急激に人気を獲得し出しているアマチュアのコンポーザー。
 ハンドルネームはパンドラ。ただ、通り名として世間に広まっているのは、アルデンテPというプロデューサー名の方。そう、あの『インディペンデンス・デイ』を作ったのが、この御崎薫だ。
 パンドラなんて実に中二病臭いハンドルネームを掲げる彼にアルデンテ、なんて少々戯けた名前がついたのには致し方ない理由があるのだが、それはまたいつか紐解いてみるとして、今注目すべきことは、彼が麗音としろももの繋がりを知っていることにあった。
 彼は単純に麗音の歌声が好きだったし、そんな麗音が自分の曲の【歌ってみた】を上げていたのに好印象を抱いていた。それと同時にしろももが自分の曲のイメージイラストを描いていたのも知っていた。いわゆる、彼はいたって普通の二人のファンだった。ただ、当初下から上を眺めるような感覚だったのが、今は同じ目線に立つようになった、というのが彼にとっての変化だろう。
 そんな創作上の繋がりもあって、彼は、パンドラは麗音としろももの相互フォロワーだった。
 彼はまだ新参者だったこともあって、ツイッターを使いたくなくなるような通知ラッシュに見舞われたこともなく、二人よりも使用頻度は高かった。だから、二人が自身のTLの上で繋がりを見せた一部始終を見ていた。
 世界は思った以上に狭い。彼はお得意の蠱惑的な微笑を浮かべ、それを見守っていた。そんな彼の様子を見たある女生徒が不治の恋の病に落ちたりもしたのだが、まあそれはさておくとして。
 彼は心の中で麗音やしろももと協同して作品を作りたいと感じたのだが、二人が互いを尊んで控えめな願望に留まっていたのに対して、かなり強固にその意志を抱いていた。
 まさか二人が同じクラスの中にいて、日々喧嘩の毎日を送っているとは知らず、彼は自身の大きな夢の実現のために二人にアプローチをしようと考えていた。
 自身のオリジナル曲に颯斗をボーカルとして迎え、PVのイラストにはしろもものそれを使う。
 それを投稿するに至って、今以上の人気を得る。
 そうすれば、自身の曲を世界中に届けられる。
 薫の夢への意志は壮大で、そして何より、純真だった。
 ただ、現実というものに押し潰されそうな毎日が彼を襲っていた。どれだけ現実の女生徒にもてはやされようとも、創作物への関心はと言うとまるで向けられないのが薫の限界だった。
 それでも夢を捨てることなんて出来なくて、彼は渾身の力を込めて『インディペンデンス・デイ』を生み出した。そうしてついに、道は開けた。
 今に自身の世界は広がる。薫は確信していた。
 誰もが彼のメロディを口ずさむ。誰もが彼の詞に心を動かされる。
 それを想像しただけで、彼の心は打ち震えた。
 ただ、彼に一つ落ち度があるとすれば、狙い目を付けたのが麗音と夕葉だった、と言うことだろうか。災禍の渦に吸い込まれて行くような未来がそこには待っている。もちろん、そんなことは彼に分かるはずも無い。
 むしろ、パンドラが二人に働きかけることをきっかけとして、いよいよ噛み合った歯車が動き出すのだが、薫自身は自分の持つ役割を全く自覚していなかった。
 それは当然のこと、彼が現実で課せられる役割にしたって同じだった。
 御崎薫は間も無く知る。
 彼こそ、現実でも、創作世界でも、二人を繋ぎ止める最大のトリガーであることを。
 まだかろうじて平穏な日常の中で、彼は最上の幸せを享受している。
 迫り来るゾンビに、チェーンソーだのバトルアックスだのを振り回しては、最速クリアを目指すのだ。
 そしてたまに話しかけてくる隣席の少女に無自覚に甘い言葉をかけては、心を向けさせるのだった。
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