挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

13/230

第十三話 近くて、遠い

 遠足の日がやって来た。
 颯斗、夕葉、敦、美陽、春文の五人は一箇所にまとまって校舎の前に立っていた。他のクラスメイトも同様にして班単位で集まっている。
「悪運、ここに極まれり、とでも言えば良いのか」
 春文はこの時点で自身の班が抱える問題について再確認していた。
 バスの座席を決めるのを忘れていたこのクラスは、当日の朝になって急遽班長がくじ引きを行うという事態に陥った。
 無論、当たり外れはそこそこあるわけで、先生に近い席だから騒ぎにくいだとか、真ん中でくつろげるだとか、各々喜んだりがっかりしたりしていた。
 ただ、春文ほどその悪運を嘆く者はいなかった。
 最後尾の座席。五人で一列になって座る。
 別に春文が後ろの方の座席を嫌いというわけではない。問題は、五人揃って一列に座る、という最も避けたい事態が起こってしまったことだ。
 しかもその中でも席順を決めようとした際に、美陽と敦が揃って酔いやすい体質にあると聞かされたのが最大の痛手だった。出来る限り窓際が良いと言われ、両端が埋まる。すると当然、犬猿の仲の二人と春文が真ん中に来るわけで、春文に選べるのは残り三つになってしまう。
 しかも、美陽の隣に座るというのはナンセンスだ。どうせ夕葉に反対されるだろうし、そうでなくても春文にはそんな気は無かった。
 だが、ど真ん中だけは何としても避けたい心があった。確かに二人が隣接すれば歪み合うのは避けようの無い事態になるが、かと言ってその二人の間に挟まれるなど真っ平ごめん。なら、いっそのこと二人をセットで座らせて、後はもう公共の場でのマナーというモラルに任せよう。春文が至ったのはそんな考えだった。
 敦も美陽も、出来れば春文に間に入って仲裁してもらいたいとは考えたものの、窓際を得るのをあっさりと承諾してもらった手前、春文をそんな危険地帯に追いやろうとは思えなかった。ましてや、春文には現地に着いた後の総指揮が待っているのだ。こんな段階から疲れさせようものなら、この遠足での思い出が思い出したくもないようなものになりかねないと思えた。
 そこで、せめてもの恩情、といった感じで、敦と美陽はそれぞれに自身の担当を何とか説き伏せた。
 二人には幾分理解が出来なかったが、颯斗も夕葉もそれほど抵抗を示さずに了解した。
 とにもかくにも、上手く行ったとの旨を春文に伝えると、敦と美陽は顔を見合わせて、嬉しい誤算を喜び合った。
 そうして春文一人早くも胃を痛ませつつも、一行はバスに乗り込んだ。
 五人で座る席、と言うと思い浮かぶのはわいわいと盛り上がったりカードゲームをしたりするシーンだが、そこにはあまりに殺風景な世界が広がっていた。
 出来る限り外を見てるよ、とあっさり戦線離脱を表明した敦。少なくともバスでの移動中は二人とは関わるまい、と文庫本を開けて読み始めた春文。座るや否やイヤホンを耳に差し込んで目を瞑った颯斗。
 初めの内こそ話を交えていた夕葉と美陽だったが、発車してしばらくすると美陽がしんどそうな表情を見せたのもあって、夕葉は口を噤んだ。着くまで寝てて良いよ、と夕葉は親友を気遣った。
 そういうわけで一人になってしまった夕葉は、絵でも描こうかとカバンからスケッチブックを取り出した。
 そこでいつもの感じに落書きをしていれば、万が一颯斗が目を開けようものなら麗音としろももの現実での邂逅、ということになったものだが、揺れのせいで上手く筆を動かせなかったために夕葉は早々にスケッチブックをしまい直した。
 結局残った選択肢は携帯を触るくらいで、夕葉は何気無くまたツイッターを開いた。
 リプライのタブを表示して、麗音からのリプライに再び目を向ける。一夜が明けても夕葉の中にはまだ感動が残っていた。まさか隣に座って次に歌う曲をエンドレスリピートして聞いているのがその送り主だとは思わず、夕葉はそのツイートを見てまた顔をほころばせた。
 ただ、そんなことを永遠としているはずもなく、夕葉は何となくペイントアプリを開くと、お遊び程度の絵を描き始めた。
 夕葉がそうしだしてから颯斗が目を開けることが幾度かあったが、夕葉が描いていたのはいつもの絵とは違って、デフォルメの二頭身だったために気が付くことは無かった。
 もちろん、その絵にはしろももの絵柄が要素として立ち現れてはいたのだが、颯斗もよもやしろももがあまりに身近なところにいる存在だとはつゆも思わず、ひとかけらの疑いさえなくまた目を閉じるを繰り返した。
 お互い正負はあれど接しているにも関わらず、肝心なところで繋がらない。実に近く遠い存在だ。
 恋愛の神様が空から二人を見ていたなら、何ともどかしい二人だとすぐにキューピッドを送ったことだろう。
 だがもちろんのこと、そんな存在は今のところどこにも見られないし、二人の互いへの印象は芸能人やアイドルを見るそれに似ていたから、二人が特別な関係になるような兆しはまるで見られないままだ。
 だが、〝その二人〟を〝その二人〟とは認識しないまま、けれど繋がり始めたことを知った存在がいた。そしてその存在は、あろうことか、このバスに同乗しているのだった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ