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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第百二十二話 インソムニア

「あたしも好きだよ、財部のこと。もちろん、恋愛感情として。でも、付き合えない。付き合いたくない」
 十七の蓮哉は、同い年の彼女の気持ちが分からなかった。同い年なのに、同い年とは思えない、彼女の言葉が。
「君の気持ちは分からないよ、まだ」
 あれから三年も経ったのに。そっくりそのまま引きずりながら、今の愛と向き合っている。彼女を愛したことから始まった痛みが、今も胸を刺す。
 彼女の気持ちを少しでも理解出来れば、次の恋に、全力で向き合えるかもしれないのに。
 この三年間、まともに眠れた記憶は、無い。

「んぐぐ……この状況を回避する術は無いものか……」
「ねえな」
「観念せえよ」
「たまにはやり込められる気分を味わってもらおうか」
 唸る蓮哉に、追い打ちをかける三人。逃げ場をなくした蓮哉だったが、ここであっさり話すほど、彼はヤワではない。
「って、やられそーな雰囲気出したけど! 僕、あいにく今はカノジョなんていないんだよねー。僕の恋人は、歌だよ! って、アレ? なんでみんな真顔?」
 こともなさそうだ。彼らはもう、蓮哉の発言を真正直に受け止めたりしない。真実を覆い隠そうとしている意志をありありと感じ、一致団結してそれを引っ張り出そうとしていた。
「し、信用無いなあ……。まぁ、嘘なんだけどね? はぁ、僕が好きなのは海奈だよ。海奈。それだけ。はい、おーしま――いやいや、もう言ったよ!?」
「修学旅行の晩じゃねえんだよ。何組の誰々が好きとかそういうレベルで終わってどうする」
「俺は割と五組の中谷さん、ええような気ぃしてきたわ」
「五組の中谷さんはどうでも良いんだよ」
「そうだったのか……」
「颯斗も納得してんな。そんなの俺は前から知ってんだよ。俺が聞きたいのは、両想いだと分かってんのに、薫みたいにちゃんと形作ることもしねえで中途半端な馴れ合いしかしてねえ理由だ」
 まくし立てるミシェルの様子は、らしくなく映った。
「な、なあ、ミシェル、そこまできつう言わんでもええやろ?」
「こいつはな、もう二年もこんなままだ。あいつの気持ちに気付いてすぐはどうか知らねえが、自分も好きだと思ってからも結果を先延ばしにしてやがる」
「僕は二十歳だよ? 十七の子に手を出したら捕まっちゃうじゃないか」
 手錠をかけられるジェスチャーをして、ね、困るでしょ? と言いたげにする蓮哉。
「そういう付き合い方をしたいならともかく、恋人になるだけに、捕まる要素はねえよ」
「でも、世間からの風当たりはきついじゃん? 僕らは有名歌い手なんだからさ。お互いいるはずだよ? 僕らが付き合ったりしたら、文句を言わずにいられないような人たちが」
「それも理由にならねえよ。公開しなきゃ良い話だ。芸能人と違ってパパラッチが見てるわけじゃねえんだ。気を付けてりゃそう大事にはならねえだろ」
 蓮哉のもっともらしい言い訳を一つずつ潰していくミシェルは、今日こそは蓮哉に認めさせるつもりでいた。彼のスタンスが間違っていて、いつか海奈を傷付けずにいられないということを。
「らしくないな、蓮哉にしては」
「何だよ」
 ミシェルに言われても動じない蓮哉だったが、颯斗がそう言うと、思わず感情を露わにした。
「事情は知らないが、楽しいことが好きってモットーの割には、楽しくなさそうな考え方してるんだな、って」
 蓮哉は言葉を失った。それはもう、致命的な指摘だった。他のどんなことにでも、楽しめるように関わってきたのに、恋愛に関してだけは、こんなにも思い悩んでいる。でも、自分ではそんな事実から目をそらしていて、気付こうとしていなかった。
「僕が言うのは違うかもしれませんけど、僕も、颯斗君に救われましたし、夕戀さんも、思い切って皆さんに話されてみては? 僕が邪魔なら、席を外しますし」
 男だって、恋に悩む。でも、女子同士がするようには、男子同士で恋のあり方を話し合うようなことは少ない。
 それだけに、一人で抱え込んで、上手い答えを導き出せないまま、崩れていくばかりだ。
 けれど、ここには、蓮哉が心を許せるはずの仲間がいる。
「良いよ、ここにいてくれて。……やれやれ、こんな盛り上がりそうにない話をするのは嫌なんだけどな、この雰囲気じゃ、しない方が白けさせそうだし」
 そう口にした蓮哉の顔は、寂しげで、悲しげで、誰も知らない蓮哉だった。
「三年前、好きな子がいたんだ――」
 こうして蓮哉は、彼と彼女の物語を語り始めた。
 愛し合っているのに、一緒になれない、そんな哀しみに満ちた物語を。
 同い年の男女間では、埋めることの出来ない精神的な差があるが故の、分かり合えなさ。それがもたらした、あまりにも大きな痛み。
 眠りにつけない夜が、数え切れないくらいある。身体中を這うようにまとわりついた茨が、寝返りを打つ度に痛みを感じさせるから。
 物語を語る蓮哉の言葉は、まだ誰にも語られたことが無かったから、とつてもない重みと、彼の本心の全てを含んでいた。
 全く見覚えの無い蓮哉が語るのに、この場にいる誰もが息をすることさえ忘れ、耳を傾けた。
どんな人も、寂しかったり悲しい一面を持っている、私はそんな風に思います。
蓮哉に、少しだけ私自身の思いを重ねてみたり。
次回に続きます。

さて、ご報告です。
「歌い手カレシと絵師なカノジョ」を、漫画を描いている友人とタッグで漫画化するプロジェクトを立ち上げることにしました。
いきなり開始ではないので、情報小出しになると思いますが、今はキャラデザから少しずつ進める形になります。時間はかかると思いますが、颯斗たちの物語が漫画でも読めるようになる、という私も嬉しい企画です。

最新情報はこちらにも載せますが、ツイッター(@Tohya_Aki)でも呟いていきますので、よろしければ。
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