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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第百十三話 素直になりたい

 当たり障りのない会話、というのは割と思いつかないものだ。ましてや、共通の話題が無い間柄においては、何を話題にすれば良いのか全く思い浮かんでこない。天候の話題とかネタにしかならないし、学校での話をしようにも、二人には共通の友人がいない。そもそも群れるタイプでないから、友達そのものが少なかった。
 しろももと麗音の時には、どちらかの個人的な発信に被さって、ということが出来たが、リアルではそうは行かない。通話の時のような、話さなければノイズしか聞こえないわけでもなく、お互いの姿は見えているから、話さなくてもそれなりに時間は過ごせるわけで、気まずくもなく、かといって楽しくもないぼんやりとした空白が、二人の間を漂っている。
 お互い、何か話題を探そうとするも、最終的には何か話してほしい、と相手に丸投げで、二人のコミュ力はかなり低めなことが明白だった。
 そうこうしている間に二人はタワ○コに着いてしまった。
 と、入り口を目にした瞬間、ようやく夕葉は話題を見つけることが出来た。目的の場所へ歩いていく颯斗に、思いついた質問を投げかける。
「何見に来たの」
「ん? CDだけど」
「あんたね……あたしと仲良くする気ある?」
「何だよ。あるに決まってるだろ」
 聞いておいて自滅する夕葉。
(本当……こいつといると調子狂うんだけど)
 元々相性は良くない。どうにも会話の凹凸が噛み合わない人間同士というのは、決して珍しくはない。それがこうして恋愛しようとするから、実に複雑難解な物語になっていく。
「何のCD見に来たの」
「好きなボカロPの新しいアルバム」
「え、ボカロってCD出てるの?」
「何だ、知らなかったのか」
「あたし、そんなに真剣に音楽聴かないし。CDとかもほとんど持ってないから」
「意外だな。俺の【歌ってみた】聴いてくれるくらいだから、好きなんだと思ってた」
「あんたのは……何て言うの、成り行きって言うか」
 夕葉が照れくさそうにするのに、颯斗は気付かない。ファンが実物を前にした時のような表情だったが、恋愛感情と混ざっているせいで、もし颯斗が目にしていれば、この場にピンク色の空間が出来上がるのは間違いなかっただろう。
「成り行きか。でも、その成り行きがあったから、こうやって榊原と一緒にいる今日があるんだな」
 颯斗は自分の発言が、夕葉にどれだけ大きな心理的効果をもたらすか分かっていない。意識した発言は出せないが、無意識で相手をときめかせる言葉を吐いてしまうから、タチが悪い。
「そ、そうね」
(何、わざと? わざとなの? 自然にやってるとしたら、これ、危ない……)
 もし、これが自分以外にも向けられているとしたら、愛されていると勘違いする子も出てくるかもしれない。さすがに先を越されたところで、負ける気はさらさらなかった(自分が颯斗の一番になっている、という意識は自然と夕葉の中で芽生えていた)けれど、競合相手みたいなのが出てくるのはなんとなくいただけなかった。
 夕葉がそんなことを考えているとはつゆ知らず、颯斗は目当てのアルバムを見つけ、ジャケットをじっと見つめたり、裏返して収録されている曲のリストを眺めたりした。
「有名な人?」
 夕葉にはそのアルバムを手がけたボカロPの名前は初見だった。こうやってショップに置かれるくらいだから、相当名高いボカロPなんだろうとは思った。
「とんでもなく有名。俺も【歌ってみた】ことがあるから、曲としては榊原も聞いたことあると思う。『幽鬼症候群』とか作った人」
「あ、そうなんだ。あの曲を作った人なんだね」
 颯斗のアルバムを見つめる表情は柔らかく、彼の音楽への愛がすぐに分かった。
「なあ、榊原、他にも見て回って良いか?」
「良いよ。折角来たんだし、すぐに帰ったら勿体ないしね」
「ありがとな」
 自然なやり取りが出来たことに、夕葉はほのかな喜びを感じた。
 その理由には、颯斗の優しい表情をもっと見たいという、あたたかな気持ちがあった。好きな人の嬉しそうな顔を見ていたい、そう思う夕葉は、彼女の表情を見た人が、思わず微笑んでしまうような顔をしていた。
 ヘッドホンを耳に当て、気になった曲を試聴する様子を、夕葉は傍でジッと見つめる。
(音楽に触れてる時の鷺沼って、良い顔するんだよね)
 夕葉の念頭にあったのは、ステージの上で歌っていた颯斗の姿。あの日はまだ、颯斗と麗音とが同一人物であることなんて、知りもしなかった。そのせいで、颯斗の思いがけないかっこよさに当てられて、ときめいてしまった自分を責め立てもしたが、今になって思えば、あれは至極当然のことだった。正体を知らないのに、別々の場所で、同じ人を好きになった。これはもう、運命以外の何物でもない、そう確信できた。
(もっと素直になりたいな。想いが伝えられたら良いな)
 そう思った刹那、颯斗が夕葉を呼ぶ。
「この曲、良いと思うんだけどさ、榊原も聞いてみるか?」
 彼が外したヘッドホンを、夕葉は受け取った。
 そこに、言葉は無かったけれど、両の手で優しく受け取る仕草に、颯斗は愛を感じ取った。
 好きな人が、さっきまで付けていたヘッドホン。そんな風に想像するだけでドキドキして、それがどういう曲かについては、夕葉はまるで意識出来なかった。
我ながら夕葉が可愛すぎると思います。

ちょっとずつちょっとずつカップルに近づいていっているというか、下手したら付き合いたてのカップルよりカップルしてるんじゃないですか。

あ、文の形式についてですが、本作に関しましては、今まで通りの形式を保つことといたしました。
アンケートに答えて下さった皆様、ありがとうございました。
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