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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第百十一話 あの日の続きを

「ったく、ティーンズ向けの雑誌とか……俺に分かるかよ……ええと……ニコルだったか? チョコラだったか?」
 沙羅に言われた雑誌の名前がもう思い出せない。団子のおつかいを頼まれた童子の気分だ。
「どれも一緒じゃんか……」
 表紙を飾るモデルの顔が違うようにしか感じられない。○○系とか言うんだろうが、○○の中に入る候補がまったく思いつかない颯斗だった。原宿系とか小悪魔メイクとか聞くが、それが具体的にどういうものを指すのかが思い浮かばなかった。
 どれなんだっけな、と表紙を眺めて歩いていると、誰かにぶつかってしまった。
「すみませ――」
 言葉が途中でつかえる。それと同時に、強烈なデジャビュ。
「悪い」
「言い直さなくて良いし」
 案の定、ぶつかった相手は夕葉だった。
「って言うか、あんた、なんでこんなとこにいるの」
 男子高校生が、女子向けのティーンズ雑誌コーナーに。普通に考えて違和感バリバリだし、やっと良い雰囲気になって来た夕葉との距離感に、寒々とした風が吹き込んでくるのを颯斗は感じた。
「何、そういう趣味でも……?」
(とりあえず、こいつの早とちりは何とかして直してやらねえと勝手に俺の評価が下がるな……)
 最初期はともかく、途中からは勝手に夕葉がどんどんと好感度を下げていったのは分かっていた颯斗だったが、まさか良い感じになってからも同様の対応をされるとは思わなかった。
「そんなわけないだろ。妹に頼まれてんだよ」
「……脳内の?」
 一回しばいてやろうかと思った。が、以前のようにブチッとくるような感覚はなく、何故だか愛おしい相手のからかいを見るような、寛大な心がそこにはあった。
「そこは素直に信じろ」
「冗談だって。って言うか、そうじゃなかったら、私が嫌だし」
 後半はボソボソと言って夕葉は誤魔化したが、颯斗には全部聞こえてしまって、思わずドキッとしてしまった。
 近くにいた制服を着た女子高生が、二人にとんでもない形相を向けてしまうくらいには、二人はさっさとくっつけ、かさっさと爆発しろ、かの意見を抱かれるような空間を形成していた。
 けれど、その関係性に、名前を与えてしまおうとまでは、二人とも、まだまるで考えていない。
「……で、何も持ってないけど、見つからなかったの?」
「ああ、いや、頼まれた雑誌の名前が分かんなくなったんだよな。ニコルだかチョコラだかそんなんだった」
「なんでそんな惜しいところまでいって、後ちょっとを類推してこの中から探さないわけ……?」
(あれ、こいつ……)
 世話の焼ける奴なんだから、そんな風に言いたげにしながら、夕葉は雑誌の棚を見ていく。以前なら、罵倒だけして去って行っただろうに、今は颯斗と同じ空間にいてくれる。二人の距離感を考えれば当たり前だが、それまでの対応が塩対応過ぎたせいで、この何でもないような優しさが颯斗の心には沁みた。
「ほら、これ」
 そして、お目当ての雑誌をさらっと見つけ出し、颯斗に手渡した。
「確かに、凄く惜しいな」
 二つを足して二で割ればちょうど正解になっていた。
 それから二人は何の違和感も持たず、連れ添ってレジへ歩いていく。それはそれは自然な空気の中で、無意識ではお互いを受け容れきっていることの表れだった。
「そう言えば、前もこんなことあったよね」
「ああ、コンビニだったっけか?」
「そうそう。あんた、なんでこんなあたしの行くところにいるわけ?」
「知るかよ」
 表面的にはトゲトゲしていても、お互い、この運命的な巡りあわせに感謝していた。意識して相手と一緒にいようとしたり、そうなるように誘いあわせるには、まだ勇気がわかないし、角張った気持ちを感じてしまう。
 会計を済ませると、二人は同時に本屋を出た。
 それから、歩き出そうとして、それぞれが真逆の方を向いていることに気が付いて、二人して立ち止まる。
 お互い、一言が出ない。
 向き直って、相手の目を見つめて、恥ずかしくなって、そらして。
「な、なあ」
 そこで先に声を発したのは颯斗だった。何故だか、そうした方が良いような直感があったから。
「あの日の続き、するか?」
 あの日。夕葉にはすぐ分かった。コミケの直後、二人が初めて互いの正体に気付いた、あの日。確かに近付くことは出来たけれど、ゆっくりと話し合うことまでは出来なかった。颯斗はその続きを、今日、この瞬間にしようと持ちかけていた。
 夕葉はどう返したものか悩んだ。心は確かに、喜んで、大きく、頷いたけれど、まだカラダにまで同じ動きをさせることは出来なかった。
 だから、もう少しだけ、これまでの付き合い方に、頼らせてもらおうと思った。
麗音さん(・・・・)となら、良いよ」
 颯斗は息を吸い込んで、おかしげに笑った。
「じゃあ、行こうか、しろももさん(・・・・)
 麗音としろももは、こうしてようやく、初めての逢瀬を迎えることが出来た。
 今は、まだ、もう少しだけ――
 この関係で、いさせて――
 いつかちゃんと、受け容れるから――
 夕葉は歩み寄ってくる颯斗の心に、そう語りかけた。
良い展開になって来ました。

皆さんは、この話がいつの話を元にしているか、お分かりになりますか……?
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