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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第百十話 恋が変える

「あいつの絵、見たんだよな」
 しろももを――夕葉を好きになった、全ての始まり。その絵に魅せられて、二人の物語は幕を開けた。しろももを知らなければ、夕葉と颯斗が向き合うようなことは、決して無かったはずだ。
「榊原の描く絵、凄く好きでさ。それで、見直したんだ。あんな絵を描ける奴だから、表面的に見てる性格以外に、良いとこあるんだろうな、って」
 正直な話、しろもも的な部分を除く、夕葉的な部分に関しては、まだ全然知らないと言っても良い。夕葉のどこを好きかと尋ねられると、どうしてもしろももしての彼女のことを挙げざるを得なかった。
「ずっとあんな調子だからさ、その良いとこ、っていうのが中々見えて来ないんだけどな」
「ふーん。何だか、それでもまだふんわりした解答で、的を射てるとは言いにくいけど、今はそれで認めてあげようかな。一番最初に上げるのが見た目じゃないのが、良いのか良くないのか、分かんないけど。そこのとこは、どうなの?」
「榊原の見た目……?」
 颯斗はあまり夕葉の見た目を意識して見たことが無い。いくら美しくても、そのことを意識できる感じに、二人が異なる世界に属していたり、適切な距離感が保たれていたりしないと、割と考えたりはしないものだ。
「えっ、鷺沼君ってB専……?」
「いや、そうじゃないけど、榊原に関しては、見た目は意識して見たことないな。中身の方がとにかく印象に強いからな」
「物欲センサーってあるのかな」
「ゲームじゃないっての……」
「そうでもないかもしれないんだよ。イケメンイケメン〜って思ってると、逆にイケメンとは巡りあえないの」
「それ、単に超ド級のイケメン見すぎたせいで、普通に良い顔してるだけじゃ納得出来ない、ってことじゃないのか?」
 颯斗の発言は完全に図星だったらしく、途端に美陽は押し黙った。
「でも、今までよく顔見なかったけど、鷺沼君だったら割とアリなんだよね……ちゃんと見とけば良かったな」
「何か言ったか?」
「なーんにも」
 多少性格がアレでも、イケメンなら許せる、というタイプの美陽には、初めてまじまじと見た颯斗の容姿に、心惹かれないわけにはいかなかった。勿体ないことしたな、なんて心の吐露は、颯斗に聞かれない程度の声で、でも何かを言ったようには聞こえるように口にした。
 今のところはこの辺りで留めておいてあげよう、と思った美陽は、あることに気付いて、話が終わったと判断して掃除に集中しようと背を向けた颯斗の肩を、トントンと叩いた。
「まだ聞きたいことあんのかよ」
「もう一回、もう一回聞いておきたいな、って思って」
「何をだよ」
「だーかーらー、本当に鷺沼君は、夕葉のことが好きなんだよね? って」
 美陽の声は、〝夕葉の〟という部分だけ少し大きくなっているような気がして、颯斗はやきもきした。幸い、教室の中は人が捌け始めていて、誰かに聞かれる心配は無さげだった。
「ああ、そうだよ」
「あー、質問が悪かったかな。鷺沼君は、誰のことが、好きなのかな?」
「何が狙い――」
 怪しい、と気付いた頃には遅かった。
 死角。後ろを振り返ると、にまにまとした笑みを浮かべる敦が立っている。
「もう、水臭いなぁ、颯斗は。それで、あんな空気になってたんだね?」
「藤川……お前……謀ったな……」
「恋愛、真面目に頑張りたいなら、異性の相談相手もそうだけど、同性の相談相手も必要だと思うよ? いざという時、私は夕葉の肩を持たなきゃいけないんだし。そういう時に支えてくれる友達は作っておくべきだと思うな」
 実に真っ当な正論を述べられて、今度は颯斗が押し黙る番だった。
「大丈夫、颯斗。誰にも漏らしたりしないよ」
「それは分かってるんだけどな……お前らの俺を見る目がアレになるじゃんかよ……」
「颯斗。それは仕方ない!」
 肩に手を置かれ、グッと親指を立てられると、蓮哉に感じるような苛立ちを覚えた。敦から美陽へと情報が伝わるというのなら、美陽から敦へもまた然り。どういうわけか通じ合っている二人の関係の深さを、颯斗は見誤っていた。
 それにしても、いずれは敦にもバレてしまうと分かっていたが、こうもあっさり、むしろ恥ずかしい感じにバラされてしまうとは思わなかった。美陽は、夕葉の友人としてのみ見ていた頃には、物静かで優しいだけの女子だと思っていたが、どうやらそれは大きな間違いだったようだ。
「颯斗……颯斗は、割とMだったんだね」
「しばくぞ……」
「あれだけぶーぶー言われてたのに好きになるなんて。罵られるの割と好きな感じ?」
「これ以上続けたら明日からガン無視するからな……」
 そうは言ってみるものの、いじられるのは免れないと覚悟せざるを得なかった。ただ、ここまで知られてしまった分、逆に表立って夕葉と接することが出来るようになるかもしれない、とポジティブに考えようと思った颯斗は、そう考える自分が、以前とは大きく変わっていることに思い至った。
 恋をすると、人は変わる。
 それをまざまざと思い知らされる、夏の昼下がりだった。
50,000アクセス記念の五日連続更新もようやく終わりました。毎日更新が五日も続くのはハード極まりなかったです。やれやれ。
次回は60,000なので六日……?
で、でも、日に日に見て下さる方の量が増えるので、ペースがウオオ。

ラブコメらしいのが続くと私的には気が楽です。でも、これで済まないのが歌絵師だとも思っているので、どこかで悶々とした展開は出したいですね。

今日は蓮哉の設定を公開しました。
(http://tohya-aki.hatenablog.jp/entry/2017/02/24/221904)
こちらからどうぞです。
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