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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第百九話 迫る美陽

 放課後になると、夕葉は一言も言わず急いで帰っていった。
「あー、逃げられちゃったかー」
 夏期特別補講、とかいう学生には苦々しいとしか感じられない午前中だけの授業でも、掃除はきっちり執り行われる。颯斗と同じ列で掃除当番に当たった美陽は、颯斗との関係性の変化を昼休みに根掘り葉掘り聞こうとしたが、表面的な内容しか聞き出せず、放課後にとっちめてやろうと思っていた計画は頓挫してしまった。
「こうなったら……もう一人に聞くしか、ないよね?」
 颯斗は素知らぬ顔で貫き通そうとしたが、物言わぬニコニコ笑顔の威圧感が、ひたすら颯斗を追い回し、観念させた。
「敦に言った以上の真実は無いっての……。ちょっと見直した、そういう感じだから。詮索されても特に何も出ないからな」
「本気で言ってる?」
 さらに続く笑顔の圧力。思えば、美陽とはあまりまともに関わったこと記憶が無かった(颯斗から美陽に、という意味では)。
「ちょっとしたきっかけで、あそこまでの不仲が良くなるとは思えないんだよね。夏休みの間に、何があったの?」
 美陽としては、興味ももちろんありはしたが、心配する気持ちが強かった。あまり自分の身辺のことは語ってくれない夕葉。そこに信頼の有無を考えることはなく、そういう性格のだと分かっていた。だからこそ、二年生になってからの夕葉の大きな変容は常に気になったし、その理由が颯斗であることは、よくよく把握していた。とは言え、二人の関わり合いを注視している中で、颯斗が夕葉を傷付けたりしているわけではないということは理解していただけに、直接文句を言ったりするような暴挙にも出なかった。けれど、今回の夕葉の様子からは、雪解けの――いや、それ以上の大きな進展を見出したからこそ、そろそろ本人に話を聞いてみても良い頃合だと判断するに至った。
「あー……その、だな……」
 そんな背景を持って迫ってきているだけに、美陽からの圧迫感は颯斗を追いつめ、返答を困らせる。諸々の事情を話してしまうと、歌い手と絵師という関係まで含め、広範な内容を暴露しないといけない。実際、二人の仲は大きく前進したとは言え、人に聞かせるだけの明白な関係になったわけでもない。ただ、友達と呼ぶには惜しいくらい仲が良くなっただけで、二人は特別な何かになってはいない。お互い、薄々相手の気持ちには想像がついてはいるものの、確かに共有したわけではないし、いくら夕葉の無二の親友であっても、複雑な事情まで話すつもりにはなれなかった。
 だが、ここで適当な嘘を言って、誤魔化すことも出来ないと思った。美陽自身とはクラスメイト以上の関係ではないが、夕葉を介している以上、無下にすることは不味く感じられた。颯斗は仕方なく、〝明るみに出しても構わない〟事実だけを伝え、それ以上の詮索を防ぐ、効果的な手法に訴えることにした。
 小声で話したい、とジェスチャーすると、美陽は颯斗の口元に耳を近づけた。その際、割と颯斗が整った容姿をしていることに気が付いて、夕葉がいなければ狙ってみたかも、なんて考えたりもした。
「あいつには言うなよ、実は俺、榊原のことが好きなんだ」
 他の誰にも聞こえないように、出来る限り声を抑えて伝える。
「そ、それは分かったけど……それがどうして、夕葉の対応まで変わるわけ? もしかして、もう一回告ってみたり?」
「してないしてない。と言うか、そんなのしたら悪化するだけだろ……」
「じゃあ、なんで夕葉はあんな風になってるの? 夏休み前だって、ちょっと仲良くなったと思ったら、全く口聞かなくなったりしたし、そうかと思えばこうやってぎこちない感じに話してみたり、何かあったりしてないと、こうはならないでしょ」
 鋭い。さすが女子だ、と颯斗は思った。このままでは、颯斗自身の本心をばらしただけで終わるが、さすがの颯斗も今の一言で終えるつもりは無かった。むしろ、この先が本命とも言える作戦だ。成功させられるかは分からなかったが、それ以外に取り得る方法も思い付かず、これにかけるしか無い。
「まあ、確かに色々あったんだけどさ、そのことは、俺の恋が叶ったら、にしてくれないか? 今、あれこれあいつに聞いたら、そのストレスは間違いなく俺にぶつけられるだろ? それなりに上手くこっち向いてくれるくらいにはしたんだ。だから、その、聞きたいなら、全部終わってからで……頼めないか……?」
 これはもう、とんでもない賭けだ。親友に恋する男子を応援するなんて、なかなかしてくれる話じゃないだろう。普通は親友の方を擁護したり、守ったりする側に回られるだろうし、美陽と仲が良ければともかく、頼みを聞いてもらえるような立場には無いことは、よくよく分かっていた。だが、こうする以外に、最早取れる術は見つからなかった。
 颯斗の言葉を聞いて、美陽はむー、としばらく腕組みをしてから、言葉を返した。
「鷺沼君、鷺沼君は夕葉のどこが好きなの?」
(マジか……)
 この親友、タダでは通してくれそうにない。親友の審査に曖昧な答えは返せそうになく、颯斗はようやっと軌道に乗り始めたばかりの恋心を、他人に打ち明けなければならない恥ずかしい事態に陥る羽目になった。
(この選択……ミスったよなぁ……)
 真面目に答えるには、恥ずかしすぎる質問。なんとなく、から始まった恋。これまで幾度となく、恋をしているという自覚そのものはしてきたが、どこに惚れているのか考えたことはなかった。
(俺は、あいつのどこが好きなのか……)
 心は自然と、これまでの時間を振り返ろうと動いた。
まさかの美陽が凄く出張る回になりました。
滅多に出ないせいで話し方を忘れました。でも多分話して無さ過ぎて特徴そんなにありません(笑)
ラブコメらしくて最近は書くのが楽しいです。

今日は海奈の設定を公開しました。
こちらからどうぞ。
(http://tohya-aki.hatenablog.jp/entry/2017/02/23/215820)
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