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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第百七話 明石と大徳寺

 八月下旬、未だ夏休みという意識が抜け切らない学園の屋上にて。
「さて、今年も楽しみだ」
 鉄柵にもたれかかり、明石(つかさ)は双眼鏡越しに登校してくる学生――正確には、女生徒を一人一人確認する。
「相変わらずやるんだな、これ」
 まったくお前は、と大徳寺英志(だいとくじえいし)はため息をついたが、司のやることはいつだって英志の〝お堅い〟頭では思い至らない領域で、その思考のプロセスに感じられる面白味のために、司の行動を止めたりはしない。
「夏の終わりが、一番オンナノコを成長させてくれんだよ」
 舌なめずりをする司を見て、漫画に出て来そうなキャラだな、と英志は思う。人間は少なからず自分の行動の是非を常に問い続けるが、司はその時間が極端に少ない。決して誤りを強引に貫くわけではないが、正誤が判別し辛い事象において、必要以上に自らの選択を悔やんだりしない。自らが正しいと思ったなら、その道を突き進む。
「夏じゃなくても良さそうなものだが」
「甘いな、英志。夏の終わりが一番なのには、ちゃんと理由があんだよ」
「ふむ。聞かせてもらおうか」
 メガネをくいっと上げる英志。彼自身も漫画のキャラクターのようなテンプレート感を有していることを、残念ながら本人は気付いていない。
「春ってのは出逢いの季節だ。んでな、夏は一夏の淡い思い出、って奴だ。ここでオンナノコは大人のオンナになんだよ。で、男の浅はかさに呆れて、秋に入ると憂鬱になる。で、冬には新しい男を引っ掛けんだ。そこでダメでも、春になりゃまたチャンスがやって来る。ここで大事なのは、向こうが主導権握らねえ夏の終わりだ」
 熱く語る司を、英志は興味深げに見つめる。あまりにも違う世界に住む司が、理解し難い存在にしか思えない者もいる。だが、英志は司を排するより、理解しようとすることによって、自らを拡張する術としようとしていた。
「男なんてそんなもんだ、そんな風に見限ったオンナノコの前に、俺が現れる。そりゃあもう、完璧なシナリオになんだよ」
 司は冗談を言わない。心から自分を愛しているから。自分の価値を確かに評価し、その価値を高めるための確かな努力を怠らない。人は彼を不埒な奴だと言い捨てるけれど、そうやって物事の価値を見誤る人はとんだ大損をしていると、英志は思う。一途で生真面目な人には、どうしても醜く映ってしまうところがあるだろうが、自分を愛せるという点で、司は間違いなく輝いている。だからこそ、僻みたくなるくらい、眩しく見えてしまう。
「でも、別れるんだろう? お前が長続きしたなんて話を聞いたことは無いんだが」
 野暮ったい質問だ、と英志は我ながら思う。けれど、その野暮ったい質問こそが、司の本質を引き出す。そう今までの付き合いから分かっていた。
「そりゃあ、たった一人を永遠に愛すのを最高だって考える教義の中で尊ばれることだろ。人生は一度切りなんだ。一度切りの恋愛で終わらせちまうのは、もったいなさすぎんだろ。お、あの子、良いな。愛も、比べなきゃわかんねえよ。理想じゃ恋は出来ねえんだ。手放しちまった奴が良かったって思うこともある。手放して正解だったって思うこともある。けど、どっちにせよ、純愛に現を抜かしてりゃ、見えねえんだよな」
 それに、と続ける。
「俺との恋は、名残惜しくはなっても、後悔はさせねえ」
 美しい恋物語は、純愛の他にもある。それが司の持論だった。実際、司と浅からぬ関係を持った女子が、司との時間を悔やんでいた様子を、英志は少なくとも表立っては見たことが無かった。恋人でもなければ、友達でもないけれど、今でも司と交流がある元恋人もいる。彼女たちは皆、司との時間を青春の一ページだと語る。
「相変わらず、とんだ自信だ。お、あの子とか、時々見かけるが、良いんじゃないか?」
 英志が指したのは湊だった。
「お前、巨乳ばっかだな。美乳も愛してやれ。んー、あいつは何て言うか、ここで出逢わなくて良い気がすんな」
 むう、とうなると、今度は茉莉亜を示した。いわゆるロリ巨乳的なポジションの子を暗に指してしまっていたことに、尋ねてから気付いた英志だった。どうやら、無意識の内に巨乳を目で追ってしまうらしい。
「あいつとはもう付き合ったな」
「そ、そうか」
 清純で奥手そうな子に見えたが……実は違うのだろうか、と内心疑問に思ったが、それは口にしない。そういう相手の中身を見ない発言を、司は最も嫌う。
「英志。なあ、あの子を見てくれ」
 唐突に英志を呼ぶと、司は勢い良く双眼鏡を押し付けてきた。英志は渡されるままに受け取って、司が誘導する方を覗いてみる。
「随分……分厚いな」
 ラグビー部の男子が目に入る。オンナノコオンナノコ、と言っていたが、自分の知らぬ間に、司の守備範囲には同性も入ってしまっていたのだろうか。
「そいつじゃねえよ。その隣だ」
 さすがにそれは違ったようだ。今度はちゃんと言われた方を見ると、英志も思わず息を呑むほどの美少女が目に入った。黒く長い髪をたゆたわせる少女には、見た目に似合わないほどの妖しさと色艶が見えた。一度どこかで見かけた気もしたが、思い出せなかった。
「あの子。落としてえな」
 言葉の響きが重々しい。どうやら、司は本気で彼女に恋をしたらしい。
 この司の言動を、中身を見ていないと思われるかもしれない。だが、それは間違いだ。彼が付き合ったことのある女子は千差万別で、容姿や性格はまさにカラーバリエーションのように異なっている。今回選ばれた女子は、まだ彼の目に映ったことの無いタイプだった、それがとんだ美少女だった、そうだっただけのこと。
「英志。俺は、彼女を落としてみせるぜ」
 司がここまで宣言して上手く行かなかったことは無い。英志は少しばかり彼女の行く先の大変さを可哀想だと思いながらも、今度はどうやって落としてみせるのかと、司の行動の方にすぐに関心を移した。
「あの子、なんて名前だろうな」
「さあ、知らな――そうだ、思い出した。確か、榊原、とか呼ばれていたな。一度見かけた気がしたと思っていたが、廊下かどこかですれ違ったような気がする。その時に、友達がそんな風に呼んでいたような」
「榊原、ね。覚えたぜ」
「うろ覚えだからな、合っているかは知らないぞ」
「十分十分。さて、腕の見せ所だな」
 再度の舌なめずり。
 垣間見えた彼の毒牙は、妖しいまでに煌めいていた。
新章スタートです。
そんなわけで、新しく二人を出しました。
少し前から考えていた明石と大徳寺、の二人の内、明石はちゃんと名前を覚えていたんですが、大徳寺は何か別の名前になった気がします。

これからしばらくラブコメやります!(笑)

今日は虎太郎のキャラ設定を公開しました。
(http://tohya-aki.hatenablog.jp/entry/2017/02/21/223752)
こちらからどうぞです。
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