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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第百五話 選択

〝榊原夕葉を、知りたいんだ!〟
「バカじゃん」
 こんな状況にならないと、自分の想いに答えを出せない、なんて。
「バカじゃん……あたしだよ、あたし、なんだよ? あんたに、散々、散々っ、酷いこと言って、嫌って、冷たくして来た、あたしなんだよ?」
 抱いた印象を振り切れなくて、ずっと、嫌われて当たり前の対応をして来た。そんな自分に、そんな自分なのに、向き合ってくれる。そんな麗音の――いや、颯斗の姿勢が、嬉しかった。愛されている、そのことを感じて、そしてそれが、受け容れられる、そんな自分がいた。
『それが、お前の全部なら、違ったけど。そうじゃないって、思ったから。だから、お前のこと、もっと知りたい』
 こんな運命が無ければ。
 でも、こんな運命が無ければ。
 葛藤。葛藤。葛藤。
(あたしたちは……ここで、終わり?)
 やっと近付ける、そんな瞬間に辿り着いたのに、いや、ずっと前から、そのチャンスはあったはずなのに。それを活かせなかった、自分の取るに足りないプライドが、恨めしくて仕方ない。
 どれだけ距離が離れても、この時代だ。二人のやり取りは、これまでと変わらず、続けることが出来る。アメリカと日本とだって、現実の距離なんてほとんど感じないくらい、ネットを介した距離は、すぐそこだ。しろももと麗音とがそうしてきたように、夕葉と颯斗とが連絡を取り合うことは、何ら不可能なことじゃない。
 でもそれは、何も変わらない、いや、むしろ何かを失った、これまでよりずっと、お互いを感じにくい、希薄な関係になるだろう。
 終わりたくない、そう思いながら、でも、今の夕葉は、こんな状況を嘆きつつ、そして自らを受け容れてもらえた喜びに満たされてばかりで、それより先の思考が、上手く出来ない。
『だから、最初の質問、無理言うかもしれないけど、俺は、お前に行って欲しくない。探してくれないか。行かなくて良い方法』
 颯斗の要求は、あまりに無理のあるものだった。
 実際、彼の言葉を耳にして、夕葉は芳樹の発言を思い出した。
〝お前には、ずっと寂しい思いをさせてきた。だから、これからは、出来るだけ多くの時間を、母さんと、お前と、過ごせるようにしてやりたいんだ〟
 今更、そんな思いもあった。それでも、父がそこまで自分のことを思ってくれたことに、嬉しさを感じないことなんて、出来なかった。家族三人揃って生活できる、その状況を用意してくれた父に、わがままを言うことが、出来るだろうか。
 天秤にかける。
 今まで散々放っておいて、そんな気持ちは、彼女には無かった。今からでも、家族三人で、その可能性も、彼女に捨て置くことは出来ない。かと言って、ようやく近付けた颯斗と、二度と会えなくなるかもしれない選択を、選ぼうとする意志もまた、生まれ出てくるはずがない。
『榊原――』
 迷う夕葉に、力を与えたのは、彼女の名を呼ぶ、大好きな人の声。
『無理を承知の上で構わないから、聞いてみてくれないか。それでダメなら――』
 彼は、今、彼女だけを、向いていた。
『必ず、会いに行く。アメリカでも何でも、会いに行ってやるから』
 その言葉に、夕葉は思わず――
「何よ。そんな簡単に、来れるはず……ないじゃん。あんた、本当……テキトーなんだから。もう、そこまで言ってくれるなら、あたしも、聞いてみる。でも、期待しないでよ。高校生が意見して、逆らえるはず、きっと、無いんだし」
『ああ。でも、万に一つ、可能性があるかもしれない。それをしないで、諦めるなんて、嫌だろ』
「そんなの、あんたに言われなくたって、分かってるし」
 尖った言葉の応酬は、しろももと麗音から始まった二人のやり取りが、夕葉と颯斗のそれになっていることを、示していた。
「聞いてみるから。待ってて」
『ああ』
 夕葉は通話を切って、大きく深呼吸した。芳樹は決して、物分かりの悪い頑固な父親ではない。だが、そもそも接した機会が普通の父と娘とは違って、それほど多いわけではない。彼女の言葉が真っ直ぐに届くかどうかは、まるで分からなかった。
「……バカ」
 それでも、颯斗の言葉を思い出すと、力が湧いてきた。
 わけが分からなくなって逃げ込んだ自室を出て、彼女は居間へ向かった。居間には芳樹がさっきと同じ位置にいて、携帯を見つめていた。夕葉はもう一度大きく息を吸い込むと、恐る恐る、声をかけた。
「お、お父さん」
「ん?」
 真っ直ぐ、彼の瞳を見つめて、言い放つ。
「あたし、日本に残りたい」
 夕葉の言葉を聞いて、芳樹は当然のことながら、驚きに顔をしかめる。
「夕葉。お前の気持ちは分かるが……高校生のお前を一人で置いていくのは……」
「お父さんやお母さんと一緒にいたくない、とかじゃないからね。でも、一緒にいたい人が、一緒にいたい人たちが、ここにはたくさんいるの」
 心の底から。伝われ、伝われ、そう必死に願って。
「だからあたし、日本に残りたい。お願い、お父さん。残させて。残させて、下さい!」
ここ、すごく書くのが難しいです。
難しい。。。
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