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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第百話 歌い手麗音と絵師なしろもも

「ミシェル、悪い、この後の打ち上げ、ふけても良いか?」
 本来なら、コミケの後にはお疲れ様会的な軽い打ち上げが予定されていた。だが、颯斗にはそれを蹴ってでも向かいたい所があった。
「あ? あ、ああ、構わねえよ。虎太郎もいねえし、あいつが快復してからで良いだろ。二人でやっても盛り上がりそうにねえしな」
 幸か不幸か。虎太郎の不在が問題を生じさせたが、一方で可能性をも作った。
「何だ、どっか行きたいとこでもあんのか?」
「まあ、そんなところ」
「なら、さっさと行ってこいよ。帰りは荷物も少ねえしな。片付けもほとんど終わってっし、残りはやっとく」
「ありがとう。助かるよ」
 颯斗が向かいたい場所について、ミシェルは検討が付かなかったが、逸る気持ちを抑えられない颯斗の表情からは、彼が歌っている時と同じような活き活きとした感じが伝わって来て、それほどに大切な用事があるんだろうと察した。
 颯斗はミシェルの傍を離れると、邪魔にならない場所で電話をかけた。出る保障は無い。会える保障も無い。それでも、一筋の可能性に縋りたかった。
 コール音は長く続き、やはり出てはくれない、と諦めかけた瞬間だった。
『麗音さん?』
 随分とざわついた音の中に、しろももの声が返って来た。颯斗は恐る恐る、その提案をしてみせる。
「もし、良かったら――」
 あらゆるものがちらついた。記憶する全てが、彼の脳裏を駆け抜ける感じがした。
「これから、会えないかな」
 これは、単に顔を合わせる以上の行為だと、彼には分かっていた。会場で少し話を交える程度の、いわゆる挨拶回り的なものとは意味を異にする。つまり、別の場所で、それ以上の目的を持って出逢うのだ。しろももが人並みに警戒心を抱き、また人並みの好意しか抱いていなければ、この提案はあまりにも危険な賭にしかならない。
 しろももは考え込んでいるのか、即答しない。ノイズだけが聞こえる所からして、マイクは一時的にオフにしているのだろう。
 それからしばらく待った後で、再び騒がしい音が聞こえ始め、しろももの声がした。
『う、うん。どこで待ち合わせたら良いかな』
 何かが変わる、そんな気がした。失敗は出来ない。そのためにも、ここからの一挙手一投足が細心の注意を要する。
「――駅まで出てもらえるかな。この辺りで会おうとすると人が多すぎるし」
 颯斗は乗り換えに使う駅の名を出した。しろももがどうやって来ているのか分からないため、会場から近い駅を指定した。この近くで会う方のも決して難しくはないが、もう少し人の数が少ない場所で会いたい、そんな気持ちがあった。
『うん、分かった。三十分後くらいかな?』
「ああ、多分、それぐらい。改札出た所の、噴水の前で会おう。じゃあ、また後で」
 電話を切る動作さえも、緊張に包まれていた。颯斗はカァッと血が巡るのを感じた。熱い。これからしろももと、誰にも邪魔されずに会える。その喜びを抱いた颯斗は、しろももに対して、最早自然に恋慕の念を募らせる少年に成り切っていた。
 会場を出て、ゾロゾロと進む駅への列に紛れる。そのゆっくりとした歩みがじれったくて、早く彼女の所へ行きたくて仕方なかった。そのそわそわした感覚は、電車を降りて、改札が見えるまで続いた。
 改札を抜けると、颯斗は噴水の方へ向かって強張りながら進んだ。イメージだけを頼りに、しろももらしい人の姿を探す。コミケ会場周辺ではないとは言え、ここは大都会東京。着飾った女子の数は多く、駅前の噴水には、友達や彼氏を待っているだろう人がいくらでも見えた。
 辺りを見回していると、いかにも彼のイメージと合致した、長い黒髪に、落ち着いた服装の少女が、俯きがちにしているのが目に入った。もしや、と思って近付いて行く。
 後少し、という所で、彼女は顔を上げた。
 思わず、目が合う。
 夕葉だった。
 お互いギョッとして、すぐに目をそらす。
 一瞬期待した自分がバカだったと、颯斗は嘆息した。よりにもよってこいつに、と。それにしても、どうしてこんな所にいるんだ、と考えずにいられない。
 仕方なく、颯斗は夕葉から少し距離を置いて、噴水の前で待つことにした。可能性は低いと見えるが、彼の方が先に着いてしまったのかもしれないと考えて、もう少し様子を見ることにした。
 けれど、改札に目線を集中しても、一向に颯斗の方に向かってくるような存在は見えない。一度近くまで来た女性がいたが、明らかに二十代後半の感じで、とてもしろももには見えなかった。
 これ以上は仕方ない、と感じた颯斗は、再びしろももに電話をかけた。
「もしもし」
 ちょうど同じようなタイミングで、隣にいる夕葉も誰かと通話し始める。彼氏でも待っているんだろうか、と颯斗はぼんやり考えた。
『もしもし』
「俺、もう噴水の前にいるんだけど、今、どこ?」
『あたしも噴水の前にいるけど……』
 それは間違いないらしく、スピーカーからは噴水の噴き上げる音が聞こえて来る。
「見た目、どういう感じ? 俺は白っぽいTシャツに、黒っぽい長ズボンなんだけど」
『あたしは全体的に黒っぽいかな。上は紺だけど。七分丈のズボンっぽい感じ。カバンは白』
 颯斗は周囲を見渡して、それらしい姿をしている女子を探す。だが、目線の先には見当たらない。
 大きく右を向いても見つからず、彼は仕方なく左を向いた。
 その先には、当然のことだが夕葉がいて――
 しろももが言った通りの見た目をしている。
「し、しろもも……さん?」
 受話器に向かって尋ねながら、彼の口からこぼれた言葉は、直接夕葉の――しろももの耳に入った。
「麗音……え、嘘……さ、鷺沼……!?」
 颯斗の方を向いた夕葉は、それを聞いて、絶対に知ってはいけなかった真実に、ついに行き着いてしまった。
「な、なんで……」
「どうして……」
「なんでお前がここにいるんだよ!」
「どうしてあんたがここにいるの!」
 歌い手麗音と絵師なしろもも。
 それは、鷺沼颯斗と、榊原夕葉だった。
百話に到達しました。
百話も書くとそもそも思ってませんでした。
中断したくらいです。
一年間もサボったくらいです。
それが、たくさんの方に見てもらえて、こうしてやる気を持って連載を続けられて。
初めての、三桁の大台に乗りました。
ちょっと自分でも感慨深くて、まだ終わってもいないのに、しみじみした気持ちになってるくらいです。
足掛け二年半。スタート時から、私の好みも、文体も、多分その他色んな所が変わりました。連載を続ける難しさみたいなものを、切に感じます。

……でも、ここからなんですよね。ようやくスタートラインに足を置いた、そんな感じです。
このストーリー自体は、ものすごく前から考えてました。颯斗と夕葉が、コミケで会う。なんでここまで話数を必要としたのか、と言うと歌絵師ワールドが拡張しまくったからなんですけど、評価は分かれると思いますが、焦ってくっつけるより、自分としてはこれもまた良かったのかな、と思ったりします。合宿編が長すぎたり、意味も無くカラオケ編を組み込んだり、構造上の欠陥はたくさんあるんですけど、上手く行かないじれったさは、百話の中に詰まっているのかな、と思ったり思わなかったり。
これから、二人がタイトル通りの関係になるために、続きを書かないといけません。
完結に向けて、改めて出発、そんな感覚。
これで良いのかな、と思いますが、今の自分に出来ることは、これですから、これで行きます。
失敗ばっかりだし、文章の質は何年書いても多分そんなに上達してないんですが、続けること、頑張ること、それが私の取り柄というか、結局どんなに逃げ出しても帰って来ちゃうので、皆さんに愛想を尽かされないように気を付けながら、最後まで書き抜こうと思います。

百話記念的なあれこれですが、私自身が今とても多忙でして、ちょっとお時間をいただきたいところです。一、二週間ほどでしょうか。あまり時間を空けても間延びするので、適度なところで行いたいと思います。

本当に、いつも応援ありがとうございます。
応援、応援といつも書いていますが、見ていただけることが、何よりの応援です。それ以上は、もったいないくらいです。
ですので、どうか、どうか最後までお付き合い下さい。
歌絵師の仲間たちを、最後まで全力で書き切ります。
これからも、応援よろしくお願いします。
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