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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第十話 運命のイタズラ

 敦も美陽も、ダメだなこれは、といった表情をした。
 颯斗と夕葉の悪運ぶりを嘆くというおかしな点で共感を抱けた二人は、今や目線で会話が出来るほどの仲に進展している。奇妙なことに、颯斗と夕葉よりも、敦と美陽の方が、よっぽど交際への距離は近いようにも思われる。
 よほど前世での行いが良いのか悪いのか、二人は行く先々で出会う運命にあるようだ。
 ただ、当の本人たちは、よもやこの後の人生で結ばれるようなことがあるだろうかと考えている。犬猿の仲、と言って差し支えないほどのレベルで、二人はいがみ合っている。と言っても、夕葉が一方的に嫌っていると見て取れないことも無いのだが。
「決めた」
 唐突に夕葉が切り出す。今回は落ち着いた姿勢で臨もうと決めているのか、感情の高ぶりは見られない。
 ひょいひょい、と指を動かして、颯斗と敦を呼ぶ。さすがに店の入り口を占拠して話そうなどというつもりは無いらしく、夕葉が先導して周囲に迷惑がかからないような少し離れたところへ移動した。
「このまま店内で何度も出くわすのはお互い居心地が悪いじゃない。だから、移動するルートを予め決めておくのはどう?」
 紳士的な対応、だと自負しているのか、夕葉の表情にはどことなく自信の色が見えた。
「なんでそんなことをしなきゃならないんだ」
 が、当然のことながら颯斗はそれに乗っかろうなどとは全く思っていなかった。突っかかられることには幾分不満を持っているものの、彼にとっては買い物が適当に済めばそれで良いのであって、妙な取り決めで移動ルートが制限されるということの方がどちらかと言えば気に食わないことのように捉えられた。
「まあまあ、颯斗。その方が余計なものに気を取られなくて済むだろ? ここは榊原さんの提案に乗っかろうぜ。早く済ませて帰ろう、な?」
 水と油の二人がまた爆発を起こす前に事を終息させようと、敦はかなり必死だった。その様子を見て、美陽は思わず親指を立てて敦の行動を褒め称えた。
「まあ、お前が言うなら。で、ルートはどうすんだ」
 颯斗のいかにも上から目線な言葉に早くも血管を浮き上がらせそうになった夕葉だが、ぐっとこらえて、それぞれが進むルートについての説明を行った。また口を挟まれるのかと危惧した夕葉だったが、颯斗は意外なことに何も言わなかった。夕葉の推奨ルートが、颯斗にとっても理解し得るものだったのだろう。その素直さには、ほんの少しだけ夕葉も感心した。
 颯斗はただ、その場その場にもっとも適した行動を選んでいるだけではないだろうかという考えにまで行き着いた。だが、そんなはずはない、という決め付けで、正しい答えは夕葉の中から押し出されてしまった。
「分かった。それで行く。俺たちが先で良いのか」
 夕葉が頷くと、颯斗は敦のことなど放って足早に店内に入って行く。
 ほらね、やっぱり。夕葉は颯斗の態度を見てそう感じた。つくづく、颯斗と夕葉の間には距離が縮まる要素が見られない。
 それからしばらく。
 颯斗たちは飲み物を、夕葉たちはお菓子を選ぶべく、それぞれ設定したルートに沿って移動し、道中で一度として出くわすことなくレジまでたどり着くことが出来た。
 レジもそれぞれ異なるところに並び、これでこの件は無事終わるかと思われた。
 だが、夕葉の設定したこのルートは、レジで再び収束することを回避するためのものであった。そもそも、飲み物とお菓子では選ぶのにかかる時間が違うだろうということで、レジでの合流は発生しそうにないと踏んでいた。念のため、と思って決めたレジへのルートだったが、夕葉は肝心な点を忘れていた。
 颯斗たちが来ているこのスーパーは、店内に続く出入り口が二箇所あるが、スーパー自体への出入り口は一箇所しかない。そのため、そこへ向かうために、より近い方から出るのが基本だ。夕葉はその点を失念しており、颯斗はともかく敦や美陽もそのことには気付かず、案の定、恐れていた事態は起こってしまった。
 出口でピタリと、二人の目線が合う。
 どうしてかこう、タイミングが完璧なのだろうか。
 俯きでもしていれば、あるいは一緒にいる友人と話していれば、お互いそうならずに済んだものを。
 最早目が合っただけで嫌悪感と気まずさが漂う二人。
 だが、そこからが敦にも美陽にも予測のつかない展開だった。
 出会う度に喧嘩に発展する二人は、さすがに何も無い時にまで諍いを起こすことは回避したいと思ったのか、二人してあえて何事も無かったかのような仕草を取った。ある意味で互いの意思が通じたような、そんな瞬間だった。
 今日のところは静かに帰ろう。
 せっかく争いを回避するために努力したのだから、少なくとも今日は穏やかな心のままでいたい。
 二人の心の内には、そんな共通の思いがあった。
 そうしてなんとなく二手に分かれ行くそれぞれを、敦と美陽が追う。
 二人が上手く行く日も、そんなに遠い未来ではないのかもしれない。
 敦も美陽も、それぞれの隣でそっと安堵のため息をついた。
 願わくば、これが明日からも続くように、と思いながら。
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