第4章:担任教師
亜津馬唯斗は職員室内で頭を抱えていた。朝早くに学校に一本の電話がかかってきた。それは、警察からだった。お宅の学校の生徒が実の母親を殺したと自首してきたのですが―そんな内容だったらしい。
しかも、その生徒は亜津馬の担任する2年3組の生徒だというのだから、大変だ。
現在、その生徒は警察にいるらしい。職員室には警察と教育委員等が来ており、校長と話をしている。もちろん、殺人を犯した生徒―名を赤羽由紀という―の処分を考えているのだろう。それから、マスコミへの公表云々も。
―どうして、赤羽が。亜津馬も三神と同じ気持ちだった。亜津馬の知る赤羽由紀は学校側からすれば「手間のかからない生徒」であった。そんな生徒が前代未聞の出来事を起こしたのだから、亜津馬は首を傾げてしまう。
ガラガラ。
職員室の扉が開く音がした。何気なく、亜津馬が目をやると・・・。
「・・・三神!!河野!!」
彼が担任しているクラスの、三神リュウと河野恭一が立っていた。
「先生。教えていただきたいことがあって参りました」
河野がはきはきとした口調で言う。
「赤羽のことなんですが・・・」
亜津馬は、ため息をついた。
「もう、知っているのか」
「噂が流れています」
「そうか・・・」
「教えてください、先生。詳しい事情を」三神が、口を開いた。
「先生は詳しいことをご存知なのでしょう??」
「・・・いや」亜津馬は首を横に振った。三神の顔に、動揺が走る。
「どうして??あんたは、赤羽の担任だろ!?」
「落ち着けよ、三神」
河野は、三神をなだめてから、改めて亜津馬に顔を向けた。
「赤羽が自分の母親を殺したのは事実なんですか?」
「そうらしい」
「らしい、とは?」
「オレも、まだ赤羽にあっていない」亜津馬はゆっくりとしゃべった。
「今朝、学校に警察から電話が入ったそうなんだ」
「赤羽が母親を殺したと?」
「ああ」
「それで、今赤羽はどこに?」
「警察だ」
「警察?」河野は目を丸くした。
「まだ、警察に?」
「そうらしい。赤羽は母親を殺してから、すぐに自分の足で交番へ行き、自分の口で母親殺しを語ったそうなんだ」
「・・・」
「だから、まだ事情聴取。それに、いずれ少年院行きだろうな」
「そうですか・・・」
そこで、今まですっと黙っていた三神が口を開いた。
「会うことはできませんか?」
「・・・?」
「赤羽に会いたいのですが」
三神は、亜津馬の目をしっかりと見つめた。
「ひとつ聞いていいか?」
「どうぞ」
「なぜ、そんなに赤羽のことを気にする?」
亜津馬は、訊いた。彼らが、職員室に来てから、ずっと気になっていたことだ。
「君たちは、別に赤羽と親しいわけでもないのに。どうして、そんなに彼女の事を聞きたがるんだい?言っておくが、ただの好奇心なら、会わせるわけにはいかない」
亜津馬の言葉に、河野はフッと微笑をもらした。
「先生。オレが知りたいと思うのは、ただの好奇心なんかじゃありません。もっと、深いわけがあります。でも、それを先生に話すわけにはいきませんので」
河野の言葉に、三神は不思議そうな顔をした。
「何だよ、そのわけって」
「今、いう必要はないだろ」
「何だよ。感じ悪い奴だな」
「うるさいなあ、三神。黙ってろよ」
「なんだって!?」
こそこそ、2人がやり合っている間、亜津馬はじっと考え込んでいた。河野は、単なる好奇心だけで動く奴ではないことは非常によく知っている。
亜津馬は目を開いた。いつの間にか、目を閉じていたのだ。
「よし、分かった」
その言葉で、三神と河野の動きがぴたりと止まった。
「実は言っていなかったが、赤羽はまだ動機について話してくれていないんだ。どうせ、大人が訊いても、話してくれないだろうしな。浜松警察署だ。警察には一応俺が話をしておこう。赤羽が母親を殺した動機をつかんでくれるのならば、行ってもいいぞ」
亜津馬がそういうと、三神と河野は顔を見合わせた。その顔には、はっきりと喜びが写っていた。
「ありがとうございます!!」
そういって、頭を下げると、河野と三神は足早に職員室を出て行った。
―がんばれよ、お前ら。
亜津馬は、2人の背中にそっとエールを送った。 |