ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
へそで茶を沸かすはなし
作者:森下里虎
グロテスクな上に後味は悪いかと思われます。ご注意。
むかしむかしのこと。
ある時期殿様であった方はたいそう知識の欠けたお人でした。
そのため多くのことに興味をもっては家来に尋ね、彼らを困らせるのが常であります。
今日も今日とてこのようなことをお尋ねになりました、
「へそで茶を沸かすとはいかようなことなのじゃ」
問いかけに、家来はやさしく丁寧に応えました、
「はっ、おかしくてたまらないことを言うのであります」

「ほお」
殿様はあっちを見い、そっちを見いして随分と考え込んだ様子でありましたが、一刻とせぬうちに呑みこんだものと見え、
「見たいぞ。へそで茶を沸かすところが見たい」
と、のたまうではありませんか。
どうやらへそで茶を沸かすのが面白いことと、了見ちがいを起こしたようです。
もちろん、それは愚かな間違いであります。
「はて……」
家来たちは困ってしまいましたが、まさか殿様の間違いを正すことはできません。
深々と頭を下げ、承ったのであります。

彼らはさっそくおふれを出してへそで茶を沸かせる者を探しました。

『へそで茶を沸かせる者に大判参百枚を与える』

国中にたてられたこの札に、おおくの民が注目しましたが、もちろん本当にへそで茶を沸かすことはできません。

そうして月日は流れ、年も暮れ、殿様もすっかりこのことを忘れた頃であります。
「わたしはへそで茶を沸かすことができます」
なんと、一人の若者が名乗りをあげました。
殿様はたいそう喜びましたが、家来は驚いて疑います、
「本当にへそで茶を沸かすことができるのか」
殿様にお見せする前に、まずは家来たちが確かめることになりました。
若者は仰向けになり、なにやら面白気にからだを振るいますが、もちろん茶が温まるようすはありません。

「あっ、こいつめ。本当はへそで茶を沸かせないじゃないか」

そうやってよくよく話をきいてみますと、すぐに報奨金欲しさの嘘八百であることがわかりました。
庭園で待つ殿様には酷な話ですが、まさかこんな茶番でお終いにはできません。
悩んだあげく、家来たちはありのままを報告することにしました、

「殿様、残念ながらこの者はへそで茶を沸かすことができません」

「なに」
殿様はあっちを見い、そっちを見いして随分と考え込む様子でありましたが、やはり得心が行きません、
「その若者はできると言ったのだろう、ならばやらせよ」
「はぁ……」
家来たちは困ってしまいましたが、まさか殿様の命令をきかない訳にはまいりませんので、深々と頭を下げ、承ったのであります。

そうして見えないところまで若者を連れてゆくと、その口の中に真っ赤に燃えた石炭をいくつも押し込みました。
「いまからこの若者がへそで茶を沸かすのをご覧にいれます」
いよいよかと身を乗り出す殿様ですが、つれてこられた若者が転げまわるのを見て、不思議とおかしくてたまらない気持ちにはなりませんでした。
これではどうにも話が違います。
しかし家来が茶出しをはこんできたので、その場は黙っていることにしました。

とっ と茶出しが据えられます。

しかし、土台が転がるのでとたんに中身が零れてしまいました。
すると殿様はすっかり腰が引け、なにやら内腑がずきずきといたむような心地がします。

家来たちはそれを見て困ってしました。
「ああ、茶が沸かぬので殿様がじれていらっしゃる」
かれらも本当はこんなことをしたくはなかったのですが、殿様のためにとさらに真っ赤に燃えた石炭を若者に飲み込ませました。

すると、若者の身体が石炭と同じ色になって、ぼおぼおと音をたてました。

茶出しが震えて、お湯があふれんばかりに沸き上がります。



それ以来、殿様は家来になにひとつものを尋ねませんでした。


(おしまい)
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。

▼この作品の書き方はどうでしたか?(文法・文章評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
▼物語(ストーリー)はどうでしたか?満足しましたか?(ストーリー評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
  ※評価するにはログインしてください。
ついったーで読了宣言!
ついったー
― 感想を書く ―
⇒感想一覧を見る
※感想を書く場合はログインしてください。
▼良い点
▼悪い点
▼一言

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項を必ずお読みください。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。