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転生したので、役職がフリーターから仲間と戦う召喚士になりました 作者:礼状

03.修練の時篇

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03-07 茶の間で揺れる男心

亮太達が会議を行っていた間利休は何をしていたかと言うと、アサツユ城の一階に儲けられた8畳間の茶の間で待機しており。
彼女は持参してきていた茶器を用いて、会議の終わりを告げるために来るであろうヒデヨシの為に茶の準備をしていた。

(そろそろ、半刻(一時間)ね……。彼等はどの様な決断を下すのかしら)

そんな事を考え始めていた利休の元に襖の外からヒデヨシの声が聞こえてきた。

「り、利休殿! ヒデヨシじゃあ! 入っても宜しいかのう?」
「ええ、大丈夫ですよ」

その返事を聞いたヒデヨシは茶室の襖をゆっくりと開けていき、襖が開けられて表れたその容姿は彼が持っている中で一番上等な袴を身に付けて来た、緊張気味のヒデヨシが立っていた。

「どうやらお話は済んだようですねヒデヨシ様」
「まあ、何とかのう」

何故か緊張した様子のヒデヨシはぎこちなく、囲炉裏(いろり)を間に挟む形で茶を用意している利休と向き合い話を始める。

「ではお先に、このお茶を頂いて貰っても良いですか?」
「……すまんな利休殿。そなたの好意を無下にはしたくは無いのじゃが」
「ノブナガ様の刺客である私の淹れた危険なお茶を飲むわけには……いかないと?」
「う、うむぅ」

本当ならば利休の好意を無下にはしたくないと言うヒデヨシの解りやすい反応を見て、利休は思わず微笑んでしまう。

「ふふっ……困らせてごめんなさい。随分と愛されているのですね殿は、私が勧めたお茶を飲まないのは貴方の意思ではなく仲間達から促されたからなのでしょう?」
「な、何故それを?」
「ふふふ、解りますとも。何故なら足軽でありながらノブナガ様の草履取りとして働き出した貴方が、客人として迎え入れられた時に周りの人達に無理矢理合わせようとして失敗してしまい。
緊張している事を隠しきれずにいた姿と瓜二つなのですもの」
「ははは……いやはや利休殿には参りましたな……」

そんな中学生の男子と大人の美人先生とのやり取りの様な、二人の間にある余裕の差が良く分かる会話を二人は交わしあう。

「さて、待たせておいて長話もなんじゃし。これを」

ヒデヨシは話の本題を告げるために懐に入れていた書状を利休に手渡し、それを受け取った利休は機密情報のために中を見ずに懐にしまい込み。その後、重要な仕事を終えたためか利休の表情が少し柔らかくなったのをヒデヨシは感じた。

「ありがとうヒデヨシくん。お陰様で、殿に頼まれていた依頼の一つを無事にこなす事が出来ました」
「それは良かった。ワシも利休殿を悲しませたくは無かったからのう。と、処で話は変わるのじゃが良いかのう?」
「はい、何でしょうか?」

その余裕と母性に満ちた利休の声に内心くらくらしてきたヒデヨシは、彼の緊張を代弁するかの様に大きく鼓動を打ち始めた心臓に苛立ちを感じつつ言葉を重ねる。

「えーとじゃなぁ、利休殿は今日この大陸で見たことを全て、親方様に報告なされるのか?」

その質問を聴いた利休は穏やかだった表情を改め、再び仕事をこなす刺客としての真剣な表情に切り替え、一呼吸空けてから良く澄んだ声で返事を返す。

「……そうですね。正直に言うとノブナガ様はヒデヨシ殿達の生存報告よりも、どちらかと言えば‘南の楽園がある’と言う情報屋達の間で最近になって真しやかに語られていいるこの地が、どれだけ有用な土地であるかに興味を持たれておられましたので。必ず聞かれると思いますし、私も自分の目と耳で正確に見て、聴いてきた事を報告致します。
殿は、自らを侮る者には容赦はされない方ですから……」

何処か辛そうに答える利休のその姿を見、内心では予想はしていた筈の答えを聴いたヒデヨシからは、緊張の余りにドッと滲み出て来る汗が体のあちこちをを撫でていくのをヒデヨシは感じていた。何故ならその答えはヒデヨシが恐れていた事の1つであったから。

「そう……か……。親方様は1度決めた事は容赦無く実行される方だからな……」

ヒデヨシは大きく迷っていた。今、殿としての役目を全うして仲間を取るか、それとも彼女の命を守る為にこのまま行かせるのか。

(は……はは……。やはり戦国の世はワシを地の果てまで追い掛けてきよるか……なら仕方無いな……。ああ、仕方無いな!!)
「……ヒデヨシくん?」

俯き、自らの思考の海に潜ってしまったヒデヨシの様子を見て思わず心配になった利休が思わず声をかけたその後。ヒデヨシはそっと真剣な表情で利休を見据え、彼女の予想だにしなかった言葉を伝える。

「利休殿、ワシはこの大陸で大勢の敵と試練と戦い続けて来た。約2年以上にも及ぶ激闘の末に命からがら仲間達と何とか生き延びる事が出来、今ある平和を取り戻す事が出来たんだ」
「……うん」

ヒデヨシが感じてきた沢山の想いを聴き遂げる様に、優しく相槌を打ちながら聴いてくれる利休にヒデヨシは感謝しつつ言葉を続ける。

「じゃがもし、利休殿がこの大陸で見たことを全て親方様に伝えたとするならば、必ず親方様はこのたった三日で辿り着く事が出来る大陸を掌握しようと動き出す!!」
「どうしてそう言えるの?」
「親方様はワシと良く似た考え方を持たれるお方じゃからじゃ! 自らの野望が達成できる望みがある並ば決して妥協する事はしないし、死ぬまで諦める事は無いじゃろう!!」

そう言い切ったヒデヨシの考えは利休も納得出来るものらしく、彼女はその意見を否定はしないまでも言葉を選んで返答する。

「では、ヒデヨシくんはどうしたいの?」
「ワシは利休殿に、この大陸で知り得た情報を誰にも伝えない事を前提にしたノブナガ殿との架け橋になって頂きたい。
それならば、信頼出来ないノブナガ殿の配下の方との不必要な接触を避ける事も出来るし、我々との交渉役となった場合、利休殿の価値はノブナガ殿に取って重要な役回りとなるじゃろうし。もし利休殿が何故情報を言わないのかと問いただされた時の為の言い分にもなろう」

その説明を受けた利休は再び暫し考えた後、言葉を返す。

「……その言い分をノブナガ様が断り。持ち帰った情報だけを私に求められた場合はどうする?」
「……それに関しては、個人的に話があるのじゃ」
「解りました、どうぞ仰ってくださいませ」

ヒデヨシはそう利休から促されて、今日一番の緊張を味わい。思わず手元にあった緑茶を飲み干してから、驚きと何かを堪えている様な表情を浮かべている利休を見つめながら真剣なお願いをする。

「利休殿、ノブナガ殿との交渉等を抜きにしてワシの……よ……友人になってはくれんか? 必ず幸せにする」
「……ヒデヨシ……くん……」

その一世一代の告白の様なスカウトを受けた利休は思わず両手を口元に当てながら少し目を潤ませて、頬も赤らませてしまい返事に詰まる。

「必ずじゃあ! ワシはこの大陸をちまたで流れている噂話の中の空想の島では無く、本物の南の楽園としてみせる!!! そんでもって、ワシと同じ様に戦国の世が嫌で苦しんでおる者達を助け!! 平和で、毎日が楽しみに満ちるような大きな国を必ず作ってみせるから!!
その夢を苦労多き利休殿にこそ、理想に一番近い所で共に味わって欲しいんじゃよ!!
長く戦いが続き、人の命が駒の1つとして扱われ様なあの戦国の地ではなくここで!!」

その真剣なヒデヨシの告白は利休にも伝わった様なのだが、何処か様子がおかしい。

「ぷっ、ふふっ……」
「利休……殿?」

口元を両手で抑え、体を前のめりにさせて小刻みに震えながら何かを堪えている様子であり。思わずヒデヨシが彼女の身体に何か悪いことが起こったのでは無いかと駆け寄ろうとした処で、彼女の抑えていて口から噴水の様に笑い声が沸き上がった。

「あははははは!!! く、苦しい!! あは、あははははは!」
「ええー……」

自分の告白を真剣に聴いてくれているのかと思いきや、只の笑い物にされたのかとヒデヨシは弱冠女性不振になりかけながらも、目の前で涙を流して爆笑している利休を唖然としながら見つめる中。

数分間笑い苦しんだ利休はヒデヨシにまず謝罪する。

「ふう……ごめんなさいヒデヨシくん。貴方の素敵な告白を馬鹿にしたかった訳じゃ無いの、ただ……ふふっ、そのね?」
「うん……」
「貴方が散々飲むのを渋っていた私がたてた点茶(たてちゃ)を緊張のし過ぎで、迷わずに飲み干してしまったものだから、ふふっ、ね?」
「あー……利休殿……ワシは肝心な所でまた失敗してしまった訳じゃな……」

最早先程までの勢いは完全に失せ、真っ白に燃え尽きてしまっているヒデヨシの隣に利休はすり寄り、微笑みながらおでこにキスをする。

「あっ」

思わず何が起きたかを理解することが出来ず、呆けてしまうヒデヨシであったが。右隣で微笑みを浮かべながら居てくれる利休を見て脳内の情報処理が終わり、今度は熟れたトマトの様に赤面しながら混乱させられる。

「利休どののの?!! まさかとは思うのじゃが、その、今ワシに?!」
「ヒデヨシくん、1つ大きな賭けをしましょう」
「か、賭けとな?!!」
「ええ、私はこのままノブナガ様の元に戻り、ヒデヨシくん達が纏めてくれた書状をお渡ししてきます。そこで私はノブナガ様に情報を尋ねられてもお答えしない事にします」

そのとんでもない話に、慌てふためいていたヒデヨシも頭を切り替えて理由を聴く。

「ちょっと待て!! そんな事をすれば利休殿の身が……!!」
「ええ。下手をすれば、見せしめとして極刑を受けるかも知れませんね」
「それを分かっていながら何故!?」
「貴方に、私の一生を賭けるだけの価値があるか。そして、どちらの殿にお仕えする事が良いかを見極める為です」

そう言いきった利休の表情は、ヒデヨシが見せた夢と残酷な現実の間で揺れ動き、痩せ我慢をして笑っている様な表情をしており。
ヒデヨシは自らがその命を賭けるだけの覚悟を終えさせてしまった利休の姿を見て、思わず名一杯抱き締めそうになる心を堪えて話し合う。

「利休殿!! 頼むから無理はせんでくれよ!! ワシは利休殿にそんな危険な道を通らせる為に夢を語ったのではない!! ただ幸せに生きて欲しいだけなんじゃ!!」

その叫びを聴いても利休の意思は固く決まっている様であり、彼女は必死に無茶をしようとしている自分を止めようと思わず叫んでしまったヒデヨシを見据ながら微笑む。

「大丈夫、私は必ず旨くやって見せるから。ヒデヨシくんは自分の言った事を守って見せてね?」
「ぐっ……利休殿……」

何とか死地に向かおうとしている利休を今度は力ずくで止めようとするヒデヨシだったが、突然睡魔が襲って来て、身体に力が入らなくなって畳みに倒れてしまう。

「……ごめんなさいね、貴方が飲んだお茶には恍惚とさせる薬を混ぜていたの。身体に害は無いから、そこで休んでいてね……」

そう言って利休は持ってきていた茶器を荒布で拭き取って綺麗にしてから風呂敷に包み、そのまま茶室を出ていってしまい。
ヒデヨシはその後ろ姿を朦朧とした意識の中で見送る事しか出来なかった。

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