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神殺しの英雄譚

作者: バナナ

僕の名前はレジナルド。僕はこれから神を殺す。

異界の、ゴブリンどもが崇める神だ。

神を殺すなどと格好をつけたが、何も剣をとって首を刎ねるわけではない。僕は争いごとが苦手だ。たとえゴブリンであっても殺すことにためらいを覚える臆病者だ。

だから僕は決して勇者なんかじゃない。一度、人間の女王への従軍を拒否して刑務所に収監されたこともある。その時は良心的兵役拒否と褒めてくれる人もいたが、なんのことはない、ただ戦うのが怖かったのだ。

そんな僕が、ゴブリンの神を殺せと命じられた。理由は一つ。人間の側で、僕が一番ゴブリンの生態に詳しいからだ。

ゴブリンは、皆一応に背が低く、浅黒く黄色い肌をしている。群れを組んでの集団生活を好み、住居は粗末で、臭く粗雑な衣服を身に纏っている。また、ひどく好戦的で、時にゴブリン同士で殺し合いを演じるほどだ。さらに人の武器を奪うばかりか、模倣して量産するほどの狡猾さを兼ね備えている。

これが人間が思い描く一般的なゴブリンの生態である。

ある日突然僕はゴブリンが支配する島国に召喚された。剣を取ること知らない僕は、彼らに従うことを選んだ。

彼らの奇怪な言語を学び、醜悪な文字を解読し生態を研究した。彼らと同化するほか、生きる術がなかったからだ。

ゴブリンと共同生活を続けるうちに、僕は知ってしまったのだ。粗野で野蛮と思われたゴブリンの世界に驚くべき精神性に富んだ文化が存在することに。ゴブリンたちは原始的なアニミスムの宗教観を独特に展開させ、生活のいたるところに神を見出し、それに恥じぬよう敬虔で勤勉である。彼らの奇怪な文字を知れば知るほど、それは洗練された絵画のようであり、彼らの不明瞭な言語は幾重にも内包された美しい音律を持っていた。

僕はゴブリンの世界に魅了され、ゴブリンの女を妻にめとり、間に二人の子供を設けた。

幸福な時代だった。

しかし人間はゴブリンの繁栄を人類の危機とみなし、全面戦争が勃発する。

ゴブリンと人間の、生死をかけた決戦である。僕はゴブリンから敵と見做され牢へとつながれた。ゴブリン側に立って人間と戦うことができない僕にはむしろ好都合だった。

やがて人間は禁術である終末兵器を用いてゴブリンの都市を二つ廃墟にし、ゴブリンは全面降伏に至った。

そして牢を出た僕は、人間の総司令官から生ける神にしてゴブリンの皇帝を殺すことを命じられた。

神殺しである。

剣を持って首を刎ねるのではない。ペンをもって詔書を起草するのだ。

ゴブリンの数は1億を超える。すべて殺すことは不可能だ。ゴブリンの皇帝を殺せば怒り狂ったゴブリン達が捨て身の反撃に出る。そう総司令官は考えている。ただ、今後ゴブリンたちを飼い慣らすためには、彼らの精神的支柱を破壊せねばならない。ゆえに総司令官は僕に命じたのだ。

「ゴブリンに一番詳しい君に、ゴブリンどもの精神的支柱である皇帝の神聖性を排除してもらいたい。幸いゴブリン皇帝は聡明であり、自らを神と名乗ることを否定している」

だから僕はゴブリンの皇帝の詔書を起草した。


朕ト爾等国民トノ間ノ紐帯ハ、終始相互ノ信頼ト敬愛トニ依リテ結バレ、単ナル神話ト伝説トニ依リテ生ゼルモノニ非ズ。天皇ヲ以テ現御神トシ、且日本国民ヲ以テ他ノ民族ニ優越セル民族ニシテ、延テ世界ヲ支配スベキ運命ヲ有ストノ架空ナル観念ニ基クモノニモ非ズ


僕の名前はレジナルド。レジナルド=ブライス。

僕が起草に加わったこの「人間宣言」により昭和天皇は万世一系とつづく神話の現人神から人間となった。

僕の神殺しを総司令官、ダグラス=マッカーサーは満足したようだ。

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