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第1話
闇姫という剣がある。
日本刀なのに、フェンシングで見るような細い片刃のレイピア。
柄の部分に黒い石がはめ込まれているから闇姫なんて名前がついているんだと思う。

黒宮家の刀士がうったものだけど、何でも黒い石は裏山の泉で発見されたものらしく、その石を使って刀を打つ場合は必ずこのレイピアにすることが代々伝えられているそうだ。
光にかざすとキラキラ光ってきれいなこの石を、小さい頃の花梨は黒いダイヤモンドだと信じて疑わなかったけど、その話を聞いて裏庭にダイヤモンドがあるはずがないと真相にがっかりしたものだ。

「違うとわかってても、ダイヤモンドみたいだよね」

ようやく片付けた座敷の縁側で、花梨は闇姫を太陽にすかしてみる。
黒い石を守るように蛇が絡みついたような凝った意匠の柄は、ちょっと見外国製のように洒落ているのだ。
花梨は大好きな剣なのに、この闇姫。黒宮家の家宝とも言うべき大事なものだから滅多に人の目に晒されない。
黒宮家の一員である花梨でさえ、年に1回見られればいい方だ。
それが今無造作に花梨の手にある。
それというのも、昨日花梨と草司は17歳の誕生日を迎えた。
17歳というのは黒宮家にとって元服の年とも言われ、草司のお披露目の会が行われたのだ。
刀はそのために厳重にしまってあった蔵から出されたもの。
草司は闇姫と共に大勢の前で舞を披露したけれど、私から言わせれば、嫌いだ~という気持ちが動きに出ていた気がして気に入らない。
案の定、師匠である叔父にも終わった後に叱られていたみたいだけど。

そういうわけで、滅多に見られない闇姫がここにある。
絶好の機会をこの花梨さまが逃すわけがないのだー!
闇姫を膝の上に置いて花梨はふふふとほくそ笑む。

道場が並ぶ表とは違って、プライベートスペースであるここは家族以外滅多に入ってこない。
今は使用人も現れない時間。
邪魔者はいないのだ。

「さあ、闇姫ちゃん。一緒に舞ってもらうわよ」

花梨は座敷の真ん中に立った。

「何がいいかな……」

50近くある剣舞には全て名前がある。『加護』や『安寧』なんて意味のわからないものから、『防守』や『天晴』なんて言葉の意味はわかってもそれが舞と何の関係があるのかわからないものまで。
多分、当主になる草司はこれからそれを学んでいくのだろう。
やっぱり女は損だ。
むうっと唇を尖らせたけど、花梨はすぐに闇姫を握りしめて笑みを浮かべる。
いいもんね。草司を脅してでも自分も教えてもらうから。

だから舞の意味を知らない花梨は、動きや呼吸法で好きな舞を選ぶ。

舞を踊るための独特の呼吸法。
気持ちを静めて、体に分散した力をお腹の下に集めるようなイメージ。
体がほんのり温かくなるのは気のせいじゃない。
気持ちが高められたのを意識して、花梨は口を開く。

「壱の七、『帰還』」



まだトリップまで至りませんでした。異世界に立つまで、少し早めの更新をします。読んでいただいてありがとうございます!


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