泣き虫小僧はいつも泣いていました。悲しいとき、苦しいとき、辛いとき......いつも、いつもでした。
でも泣き虫小僧が泣いていた本当の理由は、悲しいからでも、苦しいからでも、辛いからでもありませんでした。
泣き虫小僧は悔しかったのです。
自分が何も出来なくて、いっしょうけんめいやっても失敗ばかり。ちっともうまくいかない。何もうまくいかない。
それが情けなくて、どうしようもなくて、ずっとずっと心の中にたまっていったのでした。
どんなに強がっても、どんなに笑おうとしても、小僧は泣く事しかできませんでした。
もう、少しの強さも、楽しさも、小僧の中には残っていなかったのです。
ある日、泣き虫小僧は広場に出かけました。きっとまた、情けない思いになるとわかっていました。きっとまた、悲しい思いをするとわかっていました。きっとまた辛い思いをすることはわかっていました。でも小僧はその明るさに、もしかしたら、自分をここから連れ出すなにかがあるかもしれない。そんな期待をほんの少しだけ抱いたからでした。
流れ出そうになる涙をぐっとこらえてまわりをながめると、ちょっぴり寂しそうな男の子に気付きました。
泣き虫小僧はなんだかその男の子がとても気になって、「こんにちは」と言いました。するとその男の子はとてもうれしそうな顔をしました。
それを見て、小僧もうれしくなりました。ほんの少し、あたたかい気持ちが心の中に広がりました。
それから小僧は何度も男の子に会いました。会っているうちに、ほんの少しずつ、小僧は元気になっていきました。それはほんの少し、涙の数を減らしました。
男の子はあまりしゃべりません。でも、名前と笑顔があればいいや、泣き虫小僧はそう思っていました。
ゆうちゃん、と泣き虫小僧はいつも男の子に呼びかけました。男の子はいつも変わらない笑顔を向けてくれました。
それからまた時間がすぎていきました。ゆうちゃんは少しずつ話をしてくれるようになっていました。
「ぼくはね、小僧がうらやましい。だっていつも気持ちがだせるじゃない。ぼくは、うれしいとか、悲しいとか、みんな忘れちゃったんだ。一つだけ残っていたのは寂しいっていう気持ちだけ。だけど、小僧が話しかけてくれたとき、ぼくはうれしいっていう気持ちを取り戻したんだよ。」
ゆうちゃんはことばを選びながら、小僧に短い話をしました。
小僧もいいました。
「ゆうちゃんが笑ってくれるのがうれしかった。そうしたらいつの間にか泣かなくなった。ゆうちゃんが元気になると、小僧も元気になれるんだよ。」
二人は顔を見合わせました。
そして同時にいいました。
「ありがとう」
それは、とても大切な気持ちのように感じました。
長い長い年月が過ぎました。泣き虫小僧はやっぱり泣き虫で、ゆうちゃんはやっぱり寂しそうでした。でもそれは昔の泣き虫小僧とゆうちゃんとは違った気持ちからでした。それはほんの少しの違いでした。だれも気付かないくらい、小さな小さな変化でしたが二人は知っていました。大切だと思える気持ちがなんという気持ちなのか。そしてそれを知ったことで何が変わったのか。
二人の長い長い影の先には、小さな小さな花が咲いていました。
了 |