傷だらけ
ここには主に傷ついた子しかいない。
まるで、彼ら彼女らは自らが被害者で、私達が加害者のような口ぶりで言う。
「なんか勝手に引き離されて、奪われた」と。
まるで皆打ち合わせでもしたかのように同じことを言う。
そして、引き離された側もまた、彼ら、彼女らに会いたいという。
どんなにひどい目にあってもこの子達にはたった一人の親であるからだろう。
ここは虐待児童預かり施設である。
体に傷のある子供たちの多くは親を悪いようには絶対に言わない。だが、親に強くぶたれて悲痛な泣き声をあげる子達の多くは、将来、自分に子供や婚約者、恋人などが出来たとき、相手に暴力を振るうケースが後をたたない。
この施設はそうならないためでもあるが、このままでは親に殺されてしまうという子供たちが親元を離れ保護されるための施設である。
悲しいことではあるが、この施設が必要であることは言うまでもない。
ぶつ以外のコミュニケーションの仕方がわからない児童も居れば、耐えに耐えて自傷行為を行う子もいる。
中にはヒステリーを起こしたり、気に入らないことがあればすぐに他の子を叩く子もいる。
皆、普通とされる愛情表現がわからないままに育ち、何かが欠けて狂ってしまう子ばかりなのである。
一見普通に見える子でも、頭が傷だらけであったり、性格がひねくれているように見えるだけであっても小さな傷やアザが絶えなかったり。もっと厄介なのは普段普通であるし、これといった外傷も見受けられないのに怒りにまかせて軽犯罪を置かしたり、物を壊したりする子である。
傷の治りが早いのか、傷があってもわかりづらいのかはわからない。だが、そういう子ほど偏見の目にさらされ、さらに居場所をなくすもので、また、私達の手が最も届きづらい児童でもある。
やり場のない怒りの矛先がどこに向かうのか、私達にはわからない。
ただ、今日も私達はそんな親達から子供を守り、見守って育てていくのである。
どうか、彼ら彼女らの未来が明るく幸せでありますように、と願いながら。