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とある学校の崩壊

作者:ぼっち球
 それが何なのかは分からない。
 空を覆い尽くす程に巨大なそれは、僕たちからはかけ離れた存在だった。
 僕たちを百でも千でも呑み込んでしまいそうな程の大きく冒涜的な口には、粘液にまみれた見たこともないヌメヌメと光沢を放つ器官が這いずり蠢いている。
 忌まわしき病的な瞳は僕たちを見つめ、深淵へ連れ去ろうと狙いを定めている。

 何故。何故。何故。
 僕たちが何をしたというのか。ただただ、平凡に暮らしていただけではないか。


 * * *


「おはよう」

 水面に朝陽が降り注ぐ景色を背に、僕はいつものように学校へ登校した。
 教室に来ているのは僕を含めて、ほんの数える程度だ。皆それぞれ、他愛のない話を興じている。
 昨日まで続き、そして今後も続くのであろうと信じて疑わなかった心地の良い時間。星屑のように砕け散った陽光は、そんな僕たちを暖かく包み込んでいる。

 しかし、その平穏無事な時間は突然悪夢へ変貌を遂げた。


「あれ……?」

 突如夜がきたのかと錯覚する程に辺り一面が恐るべき闇に塗り替えられた。皆、不安を(あらわ)にキョロキョロと周りを窺う。
 そして気づいた。僕たちを嘲笑する地獄の権化に。
 それは僕たちの世界を終焉へと導かんとする魔神の如く、空の遥か彼方から不気味なほど静かに見下ろしていた。歪な球体と、それを支えるかのように付随した見たことの無い筋肉らしきもの。しかしそれは巨大すぎるが故、完全に視界の中へと収める事は出来そうにない。
 不完全な球体の下方にある、三日月形に裂けた口とおぼしき部位からは、数多の牙が見え隠れしている。その少し上には、深淵に繋がっているとしか考えられない程に暗く深い穴。その更に上部には、爛々と危険な光を秘めた眼球が見て取れた。

「な、何なんだよアレ……」

 その呟きに応えられる者などいなかった。誰しもが驚愕し、言葉を失っていたからだ。いや、仮に冷静であったとしても応えられなかったであろう。このような、常識を逸脱した悪魔のような存在を、僕たちは知らないのだから……

【タ0暙メ「ツ�M�ツ・・芒�ワ1タkクC^環|誅ヤ�gH%3・イL��AハN】

 光を闇に塗り替えた未知なる存在が、言葉らしき音を発した。それは身体を震わせる程に低く名伏し難い声。恐怖と絶望が、理性の崩壊を引き起こした。
 本能的に身が竦み、逃げるという選択肢が脳の奥へと押し込まれる。

「あ、ああぁ……ぅあ……」

 もはや言葉ですらない無意味な音が口から零れ落ちる。しかし、それを自覚するだけの精神的余裕は皆無。

【(タタ��(瑩�ClM・rp�チ b到�n6@>�;�ナBンk閇N瓠ミtg・ナc・€P鈐】

 またも怪物が、不快な音を発した。僕たちとはまるで異なったその言葉らしき音に付き従うように、視界に収まりきらない怪物の頭部とおぼしき球体がゆっくりと動く。
 そして球体の横に現れたのは、やはり巨大な触手だった。巨木のように、先が幾本かに枝分かれしている。その先端部すら、僕たちの身体よりも大きい。

 死を覚悟した。生き残れる筈がない……
 きっと、この未知なる冒涜的存在は僕たちの世界を全て終わらせてしまうのだろう。そして僕たちには、それに抗うだけの力は無い。
 僕も、学校の級友も、家族も、親戚も、全て死ぬ。それは種の根絶。
 無理だ。どう足掻いても絶望……

 やはり緩慢とも思える動きで、怪物は先端が裂けた触手を伸ばしてきた。空が崩れ、歪な波紋が怪物の姿すらぼやけさせる。
 見開いた瞳に映るは、僕たちへ迫る死を乗せた触手。

「逃げろぉぉぉおおお!」

 その時、級友の一人が叫んだ。
 はっと我に返る。そうだ、逃げろ逃げろ逃げろ!
 泡が弾けたかのように、固まっていた身体に希望の光が灯る。絶望の闇の中に灯った小さな光。その光を求めて、我武者羅に進む。

 死んでもいないのに、諦めていた自分に気がついたのだ。僕はまだ生きている。
 幸い、怪物の動きは鈍い。逃げる事ができるんだ。生き残る事だってできるんだ!

 必死に前へ前へと、狂ったように身体を動かす。
 背後から膨大な土煙が流れてきた。怪物の触手が地を(さら)ったらしい。だが、僕はまだ生きている!


 僕たちの逃走を妨げるかのように、前方の空が歪んだ。土を舞い上げ現れたのは、触手……ではなかった。数えきれないほどの繊維が均一に編み込まれた物体だった。繊維同士の隙間は小さく、僕たちでは潜り抜けることは出来ないだろう。
 慌ててその物体を避けるように進路を変更する。

「ぎゃあああぁぁぁ!」
「ひぃぃぃいいい!」

 だが、僕よりも先を進んでいた級友たちは避けきれなかった。断末魔の叫びをあげて発狂したように暴れだす。
 未知なる繊維物体は驚くべき強度だった。少なくない数の級友が死にもの狂いで暴れているのに、その冒涜的なまでに強靭な繊維が切れる気配がない。

「いやだぁぁぁあああ!」
「死にたくないよぉぉぉおおお!」

 横を通り過ぎる時、物体に捕らえられた級友たちが天の彼方先へと運ばれて行くのが見えた。
 助けたいが、助けるだけの力が無い。その無力感を拭い去るように、一心不乱に先へと急ぐ。


 それにしても、今の繊維物体は何だったのだろうか。
 やはり触手と同じくあの狂気に満ちた球体生物の一部なのだろうか。でも……


 一度危機を脱したからだろうか。冷静になりつつある脳内に、そんな疑問が浮かび始めた。しかし、それは考えても答えの出ない類のものであろう事は明らかだった為、逃げる事だけに専念する。

【\u,7甫 ・sk嶝靦�璉 €シ"タ・犲・��ワム �wE€�8 ��ネ虹 ネ�xXテ+ホH�qg�b�・])ニkメ・ X,%Z�コ ・e ・・ 畧�】

 三度目の心臓を鷲掴みするかのような音が響き渡った。その音に病的なまでの狂喜が宿っているようで、これまで以上に不愉快な音に聞こえる。

「そんなに、そんなに嬉しいのかよ!」

 思わず逃げながらも叫んでしまった。
 理不尽な怪物の、理不尽な殺戮。それを嬉しいと感じるだなんて、やはり理解できない。沸々と怒りが込み上げてくる。
 だが、やはり立ち向かったところで勝ち目など無い。はらわたが煮えたぎるのを、必死に抑える。

 また前方の空が歪んだ。例の触手だ。
 それを避けるように――

「……え?」

 避けた先に、繊維物体があった。

「くっ!」

 反射的に身を翻して、繊維から逃れようとする。しかし、そんな行動も無駄だった……
 地を這うような動きで、土煙を上げながら僕に追いついた繊維物体がその勢いのままに急浮上する。ゴリゴリと僕の腹部を擦り付ける忌まわしき繊維。
 ついに捕らえられた僕は、身体が傷だらけになるのも構わず、なんとか繊維から逃れようと体当たりを繰り返す。
 しかし、繊維物体の浮上は止まらない。やがて水音と共に、捕らえられた僕の身体が水上に出てしまった。

 息が……出来ない……


甅ィィ鋪/l(よっしゃ!)
 甫・sk嶝靦�璉€(また捕まえた!)

 薄れ行く意識の中で、また怪物の発する音を聞いた。
 霞んでいく視界には冒涜的なまでに毒々しい色彩の数々が映って…………やがて目が見えなく…………

�~漾�Yヨ�クゥ(こんだけ捕まえれば)!レ�Mc�(充分だな。)
 |1タkクC^環誅ヤ(メダカの観察日記が)閇N瓠ミt(書けるぞ!)







 僕が目を覚ますと、そこには捕まったはずの級友たちがいた。

「……ここは、天国なのか?」
「いいや、地獄だよ。もうすぐ、人間という怪物が帰ってくる……
 毎日毎日、俺たちを観察するんだ……」
改題
メダカの学校の崩壊

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