ツナサラダ
いつの日からか始まって、母の日はなぜか決まってツナサラダ。
僕が初めて覚えた料理はただただ普通のツナサラダ。
僕がレタスを剥いて、僕がキュウリを切って、僕がトマトを切って、妹がマヨネーズとツナを混ぜて、僕と妹と盛り付けた、なんてことないツナサラダ。
それでも母は、毎年毎年『美味しい。』といつも笑いながら食べていた。
でも、僕は知っていた。多分妹も分かっていただろう。あんなサラダ美味いはずがない。レタスは水切りが甘くてびちゃびちゃで、トマトとキュウリは不揃いで、ツナはマヨネーズの味しかしない。そんなサラダ美味いわけはないのに。
それでも母は、毎年毎年『美味しい、美味しい』と笑いながら食べていた。
久しぶりに会った妹は、兄というお世辞抜きに綺麗になっていた。目元は一段と母に似てきた。
久しぶりに会ったにも関わらず、『ハゲたね』と、子供のころと変わらない無邪気な笑顔でそうからかわれた。
別にツナサラダを作ったところで、映画のようにふと出会えるとは思ってもいない。
ただ、それが決まりだから。
それが我が家の伝統だから。
あの頃よりも格段に美味いものをご馳走してやるから。
あなたがいない母の日も、僕はあなたにレタスを剥こう。
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