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ノイズ
作:あきざくら


人の波
自動車の流れは信号機に支配され、機械的で常に一定
ひとりひとりが違う存在で異なる意思を持っていたとしてもこの大きな流れには逆らえない


うだるような暑さのなか、人の波に乗って
ひとり…
ひたすらに歩く
街の喧騒は煩いぐらいだが、どこか遠い世界で起こっている出来事のようで、彼女の耳には届かない

珍しく友達から借りたMDをポケットの中に忍ばせて、さっきから聞いている曲はずっと同じ
いつだか、幼なじみの彼が"綺麗"だと言っていた曲
でも、"悲しい"とも言っていた曲

しかし、そのメロディも耳をかすめるだけで、心までは届かない

彼女の思考を支配しているのは、先ほどの幼なじみの彼との電話のやり取り


「ねぇ、あの曲なんて言うんだっけ?」

『あの曲?』
「ほら、この前新一が綺麗で悲しいって言っていたあの曲よ
凄く気になるの。メロディは浮かんで来るんだけど、歌詞も曲名も忘れちゃって思い出せないのよ」
『あぁ…あの曲は確か……』


『でも、なんでその曲が気になるんだ?』
「う…ん、なんでかな?」
『まぁ、別にいいけど…』
「それより新一、いつ帰って来れるの?」
『あぁ〜…まだまだ当分かかりそうなんじゃねぇ?』
「…まだかかりそうなの!?新一、腕落ちたんじゃない?」
『バーロ…次から次へと難事件が起きてあっちこっち引っ張りダコなんだよ!
腕落ちた訳じゃねーし、ヒマしてるわけでもねー
今だってなぁ〜、仕事の合間を縫ってこうやって電話してあげてんだよ』


「……わよ」

『は?』

「…そんなんなら電話しなくてもいわよ!!」

『ら…蘭?』

「忙しいんでしょ!?
仕事で忙しくて電話する時間も勿体無い位に忙しいんでしょ!?
だったら、無理に電話する時間なんて取らなくてもいいから!!
もう電話しなくてもいいから!!
メールもしなくてもいいから!!
…貴重な時間をどうもありがとうございました」



気がつくと、家の前まで辿りついていた
いつもと同じ道を通ってきたはずなのに、何処をどう通ってきたのか、記憶が危うい
もう何度目にもなる同じ曲
綺麗なメロディ
寂しい歌詞
強く悲しい曲

階段を登り、静まりかえった家のドアをあける
2階の事務所の中には人の気配はなかった
靴を脱ぎ捨て、リビングを通過し、自分の部屋へ直行する
ベランダに干してあるものは…今は無視
ポケットに忍ばせているMDから耳に繋がるイヤホンはそのままで
重力に逆らう事なく、真っ先にベッドに倒れこんだ

あ…
制服にシワがよる…

でも身体は動かない

窓から差し込むオレンジ色の光はカーテンで遮られ、室内を力弱く照らす


今日、お父さんは近所の人達と飲みに行くって言ってたっけ…

コナン君は、阿笠博士の所で夕ご飯を呼ばれてくるって言ってたっけ…

塵一つ動かない部屋の中、耳に届く唯一の音は悲しくなるほど綺麗で強く、寂しい


何であんな事言っちゃったんだろう?

いつもなら、なんでもないように受け流せるのに
たった一言だけだったのに
我慢出来るのに

ゆっくりと目を閉じる



もし、私が居なくなったら新一はどうするんだろう?


あぁ…

今日だけは休ませて
今だけでいいから

何もしなくてもいいよって言って
今だけは休んでいいよって…


コナン君が帰って来るまでには、いつも通りの私に戻っているから


いかがでしたか?精神的にかなり疲れきった蘭ちゃんが痛々しいお話しですが…。ちなみに、本文中にでてくる曲については、曲名を意図的に名前を伏せています。一応、元になる曲はあるのですが、これと決め付けてしまっては、読む楽しみや想像する楽しみが減ってしまうと思いまして…。ですので、本文中に出てくる曲名は、皆様のご想像におまかせします。最後までおつきあい下さりありがとうございました。













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