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悪魔の円盤

作者: 目262

「この機械、壊れているのかな?」

 ケンジ君はジュースの自販機の前で首を傾げた。消費税の増税は小学生にも厳しい。塾の帰りに偶然見つけたその自販機は、珍しく百円で売っていた。しかも当たり付きのやつだ。喉の乾いていた彼は、しめたとばかり硬貨を入れたがジュースは出てこない。

 実は百円と間違えて五十円玉を入れたのだが、金額の表示器が故障していて彼は気付かなかった。返却レバーを引いてもお金は出てこないので、少年は肩を落として家に帰った。ただ、どういう訳か当たりの表示器だけは派手な点滅をして大当たりの文字を液晶ディスプレイに浮かび上がらせていた。

 数日後のアメリカ、ニューヨークでは世界中の科学者が終結して、泊まり込みの重要な会議を開いていた。ノーベル賞を受けた著名な天文学者が声を震わせて報告する。

「先程、海王星が破壊された」

 会議場がどよめく。議長が憔悴した顔で天文学者に尋ねた。

「円盤の軌道は変わったか?」

「いや。あまりにも大きすぎて何の影響もない。木星衝突まであと四日だ。その十五時間後には……」

 会議場にいる全員に絶望が重くのしかかった。二日前、太陽系外縁に突如出現した巨大な物体が冥王星に衝突し、これを破壊した。科学者たちは至急調査を始めたが、わかったのは太陽の三倍の直径を持つ巨大な金属製の円盤が秒速一万キロで移動しており、その中心部が地球と衝突するということだけだった。

「悪魔の円盤か……」

 大量の放射線を反射しているために正確な測定ができず、全体に靄のかかったような不鮮明な円盤の遠距離写真が大型スクリーンに映写されていた。その不気味な全貌を見つめながら、議長が呟く。

 そんな中、日本代表の科学者は円盤の表面に薄く浮かぶ模様のような陰影を眺めて、あることに気付いた。これ、どこかで見たぞ。彼は自分の財布の中身を覗いて愕然とし、即刻部下に携帯電話をかけた。

 さらに四日後、悪魔の円盤は木星を破壊し、その存在はついに全人類に知れ渡った。

 今や円盤は肉眼でも確認可能で、その見た目は月よりも大きくなっていたが、太陽光の反射が強すぎてその輪郭しか見えなかった。あまりにも巨大すぎてどの国の軍隊でも手の打ちようがない。世界中でパニックが起き、死傷者が続出した。誰もが諦めかけたその時、日本代表の科学者が重大発表をした。

「悪魔の円盤の中心部に、直径八十万キロの丸穴が開いていることを確認しました。地球は円盤を通り抜けます!」

 全ての人類は大歓声を上げた。議長は泣きながら日本代表にノーベル賞に推薦することを約束した。

「ありがとう。君の発見がなかったら、多くの人々が自暴自棄に陥って自決していただろう。しかし、全てのセンサーがろくに動かないのに、よく観測できたね」

 議長の疑問を彼は苦笑いでごまかした。悪魔の円盤は地球を通過して太陽系を離脱した後、出現した時と同様に突如として消失してしまった。

 結局何もわからないまま事態は終結して元の日常が戻った。帰国後、日本代表は部下を集めて言った。

「真相は絶対に秘密だ!超巨大な五十円玉が太陽系の惑星の三分の一を破壊したなんて知られたら、日本人は袋叩きにされる。それから我々が暴落した優良株を底値で買い漁ったこともだ!」


 暫く後、件の自販機の前に立っているケンジ君の姿があった。

「この前は五十円玉を入れちゃったんだ。でも、今度は大丈夫」

 彼は手のひらに乗せた硬貨を見て、満足の笑みを浮かべた。宇宙の悪魔ケンジ君は十円玉十枚を次々に自販機に放り込んでいった。


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