少女は何もない正方形の部屋で目覚めた。
「ここは、どこなの?」
辺りを見回すが何もない。本来部屋に必ずあるはずの窓も、ドアもなかった。ただ一つ、大きな箱が置かれているだけだ。
少女は箱を開けてみた。そこにはパンと水が入っているだけだ。少女はパンを見て、自分が空腹だという事に気付いた。そして貪るようにしてパンを食べ、ゴクゴクと水を飲み干した。
パンを全て食べ終わると、少女はやっと落ち着きを取り戻した。そしてゆっくりと状況を確認し始めた。
「私はさっきまで友達と遊んでいたのよね」
「私の家は、こんなんじゃないわ」
「私の家、友達は…あれ?」
少女はそこで、言うのを止めた。
「…思い…出せない…どうして?だって私は…」
ワタシハダレダッタッケ?
「私の名前なら分かる。メリッサだ。だけど…」
ワタシハナニモノナンダ?
メリッサが何もない部屋で目覚めて五日目となった。彼女はずっとそこで寝起きしていた。
パンと水は毎日のように、部屋にある箱に入れられていた。彼女が寝ている時に入れられているのだろうか。メリッサにはいつパンが入れられているのか分からなかった。
毎日、代わり映えのしない日々。一人には大きすぎる空間。
孤独孤独孤独孤独……気が狂いそうだ。
メリッサは一人でいる事に、耐えられなかった。
ダレカ、ダレデモイイ。
彼女は目覚めて三日経った日から、ずっと泣いて暮らしていた。
メリッサが目覚めて、今日で一週間だ。この日は普段と違っていた。何に使うのか見当も付かない器具が部屋の隅に置かれていた。そして普段ならパンと水しか入っていない箱には一冊のノートが置かれていた。
メリッサはノートを手に取った。ノートの表紙には『人間の作り方』と書かれていた。
そのノートにはビッシリと『人間の作り方』について書かれていた。それによると、部屋に置かれている器具は『人間を作る』ために使うようだ。
メリッサは箱の中のパンと水には目もくれず、器具に近付いた。そしてノートを見て、人間を作り始めた。彼女には難しそうな内容だったが、そんな事は問題なかった。彼女にとって一人でいる事は耐えられなかったのだ。
トモダチガホシイ…
トモダチガホシイ…
メリッサは幾度となく呪文の様にそれを繰り返しながら、一心不乱に寝食忘れる程『人間作り』に取り組んだ。だが、彼女は幾度となく失敗を繰り返した。
シッパイ。シッパイ。マタシッパイ?
何かしらの形がみえたかと思えば、それが瞬く間に崩れる。メリッサは徐々に初めはあったはずの自信を、そして生きる気力を失いつつあった。
ヒトリハイヤ。ワタシノハナシアイテガホシイ。
少女は目覚めた。そこは何もない正方形の部屋だった。辺りを見回すと、部屋の隅で寝ている少女が目に止まった。
少女は寝ている少女に近付いた。安らかな寝顔の少女の顔には、涙の後がうっすらと残っていた。
コノコハダアレ?
少女は目を覚ましたようだ。上身を起こし、辺りを見回した。そして少女を見るなり、泣き出した。
ウレシイ。ウレシイ。ワタシハヒトリジャアナインダ。
メリッサは自分の涙で視界がにじみ、姿で認識しにくくなった。そのため彼女は少女の体に触れ、その存在が本当かどうか何度も確認した。
ヨカッタ。ホンモノダ。
メリッサは少女を抱き締めて、泣きながら言った。
「あなたは、私が作ったの。私はメリッサ。あなたはアルミナよ。話し相手になって」
アルミナはそんなメリッサを優しく抱き締めた。
「いいよ」
部屋の中には少女が二人になった。二人はとりとめもない会話を繰り返していた。それでもメリッサは嬉しかった。友達が出来たのだから。
メリッサは、アルミナとの会話を楽しんでいた。
この場所にはメリッサとアルミナの二人しかいないから、内容も当然重複する時もあった。だが、アルミナは常に初めて聞いたかの様に対応してくれた。
そんな日が三日経った時だった。メリッサの体に異変が起きた。息がし難いのだ。体が思う通りに動かせず、メリッサは床に寝そべった。アルミナが心配そうに様子を見守る。
ドウシテ?
メリッサは呼吸困難になり、意識が無くなってきた。目の前の景色が霞んで行く。
アレ?ワタシミオボエガアルヨウナ…
メリッサはそう思い、目をつぶった。そして静かに息を引き取った。
アルミナはメリッサを見て、涙ぐんだ。幾度も幾度も繰り返される、この光景。彼女は毎回、辛い想いをしてきた。
それでも彼女はメリッサを作り続けた。そしてメリッサも彼女を作り続けた。
なぜかメリッサは作ってしばらくは『部屋にいるのは自分だけ』、と思うようだ。実際は自分が死ぬまでの四日間、メリッサと一緒にいるのに。アルミナはいつも、死をメリッサに見てもらえなかった。彼女はそれも辛かった。
それでも彼女は一人でいる事の方が辛いのだ。自分が死んで、何も残らなくなるのが、苦しいのだ。
アルミナは何日間か寝転んだまま、暮らしていた。それも、幾度となく繰り返される光景だ。そして彼女は毎回同じ日にメリッサを作り始める。
その都度、彼女は出来ていくメリッサに話しかける。
「また、あなたを作ってあげるから。あなたもあたしを作ってね」
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