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 一刀の目の前に自分の主を見つめる者がいる。
一刀は皆の前に立ち決意を話しだした。
一刀の覚悟~そして荊州へ~
 一刀の目の前には兵が集まっていた。しかも完全武装した兵達およそ5千。
こんなにも集まった理由は大きく言えば3つあった。

1・張世平と蘇双の2人が軍資金を出してくれたこと。
2・風と稟が南陽周辺に「天の御遣い」が現れたと噂をばら撒いたこと。
3・冀州の鉅鹿で太平道の教祖張角が一斉蜂起し全国に反乱軍が広がったこと。

まあ他にも条件が重なったが、やっぱりこの3つによる事が大きい。

 1つめと2つめは関係が有り、風と稟と俺の3人で今後の事を話し合っていた朝に
張世平が扉の向こうで聞いていたのだった。しかも途中からは蘇双も一緒に。
俺としては恥かしいが全然気付かなかった、それほど彼女達と真剣に話し込んでいたのだ。
 彼女達との話を終え、自分達のやるべき事を頭の中で整理し、寝ようとした時だった。

「失礼します。張世平ですが、少し宜しいでしょうか」

と扉の向こうから声がする。

「少し待って頂けますか?今開けます」

と、言って扉を開けると張世平と蘇双の2人が立っていたので、部屋に入れ椅子に座って貰う。
俺が椅子に座った処で張世平が話を始めた。

「単刀直入に言います。貴方の手伝いをさせて頂きたい。横にいる蘇双も同じらしいです」

「私も1枚噛まして貰う。私が軍資金で張世平が馬ではどうだ」

俺は何が何だか分からずに聞いていたが、我に返り聞き直した。

「何の話をされているのか分りませんが……一体どうなさったのです?御二人とも。
馬だの軍資金だの。言っている意味がわかりませんが……」

すると張世平が顔は笑ながらも眼は真剣に

「聞いてしまったのですよ貴方の話を。違う世界から来られたとか」

それを聞いて俺の頭の中が真っ白になった。真っ白になった頭で考えて彼等に言った。

「俺の与太話かも知れないのに信じると仰いますか。本当に良いのですか?」

すると張世平が少し表情を緩めつつ

「私達は商人です。その人の性格や人柄を見抜く力がないと話になりません」

彼等は俺と話ていた時も俺の眼を見ていた。俺もそれに気づいていた。俺も覚悟を決め、

「それならば聞いて頂きましょう。俺の世界の事を。向こうで何が起こって、
そして、今からこちらで起こる出来事を」

そして風達に話した事を彼等にも話した。

 はじめは信じられないと言う顔をしていたが聞き終わると蘇双が俺に向かって言った。
そして「少し待ってくれるか」と言って蘇双は部屋の外に出て行った。
 5分程して蘇双は稟と風の二人を連れて戻って来た。
「一刀様」稟は俺に仕えると言った時より俺の事をこう呼ぶ様になっていた。
 風は「ご主人様〜」こう呼ぶようになった。風にその呼び方を変えてくれと言ったら

「貴方〜」と呼ばれたので

「マジ、勘弁して下さい」

机に両手を付き頭を下げた。一応俺って風の主になってんだよな……
(こいつは絶対わかってやってる!。確信犯だ)

結局、風には「ご主人様」で手を打った。
なぜか風が「貴方」と言った時に、稟が顔を真っ赤にし、息を乱していたのかが不明だったが……

 蘇双は風と稟に今までの事を話した。そして気持ち良いくらいの笑顔で

「私らも1枚噛まして貰おうと思う。だから貴女達と私達は仲間だ。はっはっは」

すると張世平が稟や風の方を向いて微笑みながら言った。

「そうですね。私達は剣を持ち闘う事は出来ませんが、貴方達を金銭で支える事はできます」

俺は自分にここまでしてくれる、2人に失礼を承知で尋ねた。

「お二人に聞きたいことが有ります。なぜ、俺にそこまでしていただけるのでしょうか?
俺はこの世界に来て時間が短いので、余り詳しい事は解りませんが大度と器量でしたか。
俺の世界では貸し借りと言いますが、もう充分に貸しは返して頂きました。
反対に借りを作っているぐらいです。俺にそこまでの価値が有るとも思えない。
だから、そこまでしていただける理由を俺は知りたいのです」

その話を聞いていた4人はいきなり笑いだした。
俺が何が起こったのか解らずに唖然としていると張世平が風と稟に向かって、

「貴女達は良い主人を見つけましたね。しかし底抜けな器量の為に人の気持ちが読めないと見えます。
そこで貴女方が必要だと思われます。この方を支えてやって頂けますか?お願い致します」

稟達二人は協力してくれる二人に向かい

「もちろんですよ〜。私達のご主人様ですからね。ね〜稟ちゃん」
「もちろん初めからそのつもりです。しかしお互い苦労しそうですね」

と俺の訳が分からない所で話が進んでいるし、張世平の隣では
蘇双が一体何が可笑しいのかまだ笑っている始末。

「おいおい。皆、何の話をしてるんだ?蘇双さんも一体なにがそんなに可笑しいんだ?」

というと、蘇双はさらに大笑いし、残りの3人は「ふふふ」とほほ笑んでいた。

 その場は風と稟が後で説明すると言う事で納まり、その後張世平と蘇双が真名を教えてくれた。
張世平が利準、蘇双が利祉と言った。そして皆で真名の交換をし、これからのことを話し合った
俺がこれから恐らく起きると思われる事を順次話していく。

黄巾の乱、宦官と何進将軍との朝廷内の争い、董卓の暴政、反董卓連合、群雄割拠である。

黄巾の乱に対してはここ南陽と荊州も激戦地な為、ここで名を挙げるのが良いと言う事に決まる。
今の内から少しづつでも兵糧や武具を集める事になり、それらは利準と利祉に任せた。
稟と風は各地の情報を集めるため、利祉達の商人達の情報網を使うと共に
自分たちでも密偵を放ち情報を集めた。
 そして各地の都市に、ここ南陽に「天の御遣い」が現れた事をばら撒いた。
そして俺は集まった兵に戦い方を教えていった。今戦えるのは俺だけだった。

 教えたのはスリーマンセルつまり3人ひと組で戦い、
1人目が盾を、2人目が槍、3人目が剣を持ち、
攻撃を盾で防ぎつつ、近距離なら剣が、敵が離れているなら槍で攻撃し、又は同時に攻撃し
どちらかが攻撃している時は周りに注意をしつつ、相手の攻撃も防ぐ事を繰り返す。
そんな戦い方だった。慣れるまで時間は掛ったが、慣れてしまえば有効な戦い方だった。
後で、稟にも見て貰い、組を入れ替え修正したりして熟練度をあげる事を行う。
そして、俺は兵達と共に過ごす事により、この大陸の知らない事等をさらに吸収していく。

 稟は最初、兵達と過すのに反対だった。俺の威厳と尊厳性を損なうと言う事だったが、
俺と兵達とが、親しく話して一緒に食事をしているのを見て諦めてくれた。
そんな事で2週間ほど過ぎた時だった。とうとう冀州、頴川、豫州で反乱が起きた。

    黄巾の乱の勃発だった。

 反乱は瞬く間に全国に広がり、当初は太平道の信徒だけだったが、
食い詰め農民や盗賊等を加えて、膨張し続け総数30万にまで膨れ上がった。
黄巾党は到る所で官軍を破り、破竹の勢いで戦線を広げていった。

後に稟曰く
「私に、黄巾党の初期段階で指揮を執らせて頂いていたら、全国制覇できた自信が有りました」

との事でそれほどまでに凄まじい勢いだった。
でも、彼等は所詮烏合の衆だった。補給路を無視し、戦線を拡大し続けた為に限界が近付いていた
しかも、官軍も黙っていない。優秀な指揮官を投入し戦線を立て直し始めた。
皇甫嵩、朱儁、盧植がその例である。

 ここ南陽にも初期段階より、黄巾党の攻撃はあったがその全てを撃退した。
南陽太守は初老の女性で、俺を客将として迎えると共に色々な面で優遇してくれる。
俺達は当初、自分達で物資は賄えると言い断っていたが、最後には太守自ら俺達の所に来てたので
彼女の面子を潰さぬ様に、俺の方から頭を下げて客将となったのである。
そして、この街の外側、つまり城壁の警備を願い出て受入れられ、何度も黄巾党を追い払った。

 そう、俺達の初戦は篭城戦だった。
自分達の3倍は有ろう敵を追い払い皆、自信を持ってくれたみたいだった。
でも、籠城戦であるから城壁や城門等の身を守る物が有るから戦い易いのも事実。
平地で戦えば、自分達はどうなるか分からない。だから俺としては素直に喜べないのだ。
皆の前では顔には出さず、喜んで見せていたが。風と稟には気づかれたが。

 それからしたある日のことだった。
太守から呼び出され、何事かと思いつつも稟と風を連れて城まで行った。太守は俺を見るなり

「こっちに来て貴方に見せたい物が有るの。この書簡よ。後ろの2人も見て御覧なさい」

 そう言われ太守から書簡を受け取った。それは荊州で官軍を率いている偉い人からの手紙。
内容は回りくどく、難しく書いてあるが簡単に言えば

「荊州の黄巾党が強くて手に負えないから助けろ」

である。それを見た太守は

「貴方達の強さなら如何にか出来るんじゃないかと思って受けたの。どう行ってみない?」

俺としては余計な事を…と思ったのだが風と稟は違った。
彼女達はこれを好機と捉えた様だ。太守に少し考えさせて頂けますかと城を後にし
俺達の詰め所に戻り話合った。まず稟が

「これを好機と捉えて荊州に入り名を更に挙げるべきと思います。
しかも、向こうから手伝えと言って来ているのですから。これに乗らない手は有りません」

と稟は賛成する。すると風も

「そうですね〜向こうから遠回しにとは言え、援軍要請ですからね〜
これに行くだけでも諸侯に名前は売れますし、欲を言えば美味しい所を取りたいですね〜」

と風も賛成する。でも俺は怖かった。成功すれば名声と力が手に入る。しかし失敗すれば
俺の命位なら安いものだが、皆の命まで危険にさらし奪う恐れがあった。
俺はその事を稟と風に伝えた。すると稟が風に何かを告げ風は詰所の外に出て行った。

「お優しい一刀様がそう思われる理由は解ります。兵は何十人、何百人と死ぬでしょう。
しかし彼等がなぜ貴方に、命を掛けてまで貴方と共に戦う事選んだのかを考えた事がございますか?
それは貴方が、貴方こそが、この乱世の世に終止符を打ってくれると信じ
皆が笑って暮らせる、世の中にしてくれると信じているからこそに他なりません。
私はもちろん、風もそう思っているからこそ、貴方に何かあれば命を投げ出す覚悟です」

そこで一旦区切って俺に厳しい目をしながら続ける。

「しかし貴方は今、御自分の命を安いと仰せられた。
それは、この前の戦闘で命を落とした者達への裏切りに他なりません。
貴方の命はもう貴方だけの物では有りません。味方は勿論、敵にも志あった者も居りましょう。
その者達全ての犠牲の上に成り立つのが「天の御遣い」北郷一刀。貴方の命です。
私の言葉が信じられなければ外に出てください。
それで解らなければ、貴方にこの乱世を鎮める事は出来ません」

稟はそう言うと外に向かっていった。

俺は稟の言葉に反論出来なかった。いや稟の眼を見る事さえ出来なかった。
俺は上辺だけの覚悟はしていた。自分の命は自分だけの物で、それをどう使おうが人が助かるなら
俺の命なんか、どうなってもいいと思っていた。
 
 しかし先程の稟の言葉は、それらの覚悟を全て叩き壊した。
彼女は、稟や風や俺についてくる兵は、自分の命を犠牲にしてまで俺を生かすと言っている。
それは言いかえれば、皆の命を握っているのは俺だと言う事。
皆の命を奪うのも俺。皆の命を守るのも俺だと言う事。
彼女は責任を持てと言っている。皆の命を預かる責任を。
俺にそんな重いものが持てるのか……

 そんな事を考えていると外から

「をおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉl!!!」

ものすごい喚声があがった。驚いて外に出てさらに驚いた。そこには

 俺に共に闘ってくれる者達、俺を主と呼んでくれる者達、俺を後方から支えてくれる者達。
皆がいた。俺が詰め所より顔を出すと、また

「をおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ」

と喚声をあげる。ヤバイ ヤバイ ヤバイ
 俺は詰所に戻り溢れる涙を拭った。でも零れる。すると後から、

「解りましたか。貴方が持つべき物が。聞えましたか?貴方の事を信じる者の声が」

俺は涙を堪え稟に向かって笑おうとした。が無理だった。そこに風もやって来ていう。

「大丈夫ですよ〜。そうならない為に、私達が貴方の先に罠があれば、罠を外し進む道に
虎がいれば虎を排除するなり、安全な違う道を探し出す。それが私達の仕事です」

「一刀様には、貴方を信じる者の声と覚悟を覚えて頂き、それを一生背負って頂きます」

2人に背を向け気持ちを落ち着ける。そして詰所の外に出て集まった皆に向かい
これからどうするべきかを考えつつ、自分の考えを皆に言う。

「俺は弱き者を助け、弱き者を害する者に天誅を加え、
時には手を貸し、時には突き放し自律を助ける。そんな君主を目指す。
その為には君達の力が必要だ。俺は武力を使う。その時君達の内の誰かは死ぬだろう。

それでも俺に付いて来てくれるだろうか? 俺は君達の死を乗り越え、また一歩前進する。
 
それでも俺について来てくれるだろうか? 俺は君達の命を預かる。

でも、俺は約束する。この戦乱を終わらせ、皆が笑い合える世界を。

そして、戦乱を終わらせ平和になった時に聞こう。その答えを……」

        
俺が言い終え、詰所に入ろうとしたその時、

「うわああああああああああああああああああああああああああああああ」

その歓声を止め、ただ一言「ありがとう」と言い、詰め所に入って倒れた。
 憂鬱です。
この章の稟の言葉の何割かは実話です。
昔に働いていた人に言われた事を思い出し、
それに少しアレンジを加えました。
 
 張世平と蘇双の2人に真名を付けました。
張世平が利準で利益は二の次と言う意味です
蘇双が利祉で「祉」の字は広い意味で安寧とかの意味もあります。
まだこの二人には活躍して貰おうと思ってます。

次回は荊州に一刀の軍が出陣します。 
恋姫無双 稟 風


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