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電撃お題チャレンジ作品集

晃の世界

作者: 空ノ

 近くのファミレスを訪れたのは、正午を回ったころだった。

 入店すると、従業員がにこやかに近づいてきた。

「いらっしゃいませ、お」

「三人です」

 僕が遮るように言葉を返すと、従業員の笑顔は消え、代わりにポツポツと疑問符が浮かんだ。

 ――やっぱりこんな反応か。

 引き止めを気にせず、そそくさと窓際の四人掛けテーブル席へ向かった。



「ねぇ晃ちゃん、あの店員さんなんか驚いてたね」

 対面に腰掛け、クスクスと笑みを漏らすのは親友の蓮。僕の理想を絵に描いたような可愛らしさを体現している。

「まぁ、平日の昼間に来る高校生なんて珍しいだろうしね」

 僕と蓮は体調の不良を理由に、そろって休学中の身だ。だからといって家にこもりきり、精神まで崩してしまっては元も子もない。

「とりあえずコレとコレっ。晃ちゃんはコーンスープだよね」

 蓮はさっそくメニューを流し見て、テキパキと注文を決める。優柔不断な僕とはまるで正反対で、本当に助かる。

 ふと――

「ケイ君は何にする?」

 蓮の顔が右を向く。

「うん……うん、おっけー、じゃあボタン押すね」

 次は左を向き、店員を呼び出すためのボタンを押す。

 呆然とする僕に気付いたようだ。蓮は僕の目の前で「おーい」と言いながら大きく手を振った。



 友人をつくることが苦手だった僕にとって、いつも一緒に遊んでくれる蓮は、心の支えだった。まだ物心さえついていなかった頃だけれど、蓮の存在は血のつながった兄妹以上の想いを僕に感じさせてくれたことを覚えている。

 中学へあがったころ、僕らを置いていった旅行での事故により、両親が死んだ。そして残された僕と蓮は祖母に引き取られ、今も三人で暮らしている――

 ――はずだった。



「え? ……うーん、そうだけどさぁ、私トマト嫌いなんだもん」

「あーわかるわかる! なんかちょっぴり切なくなる感じがまたいいんだよねー」

 手振り身振りを加えながら、蓮はとても楽しそうに隣の男の子”ケイ君”と話している。

 僕がやった視線の先に彼はいない。いるのは、奥のテーブル席から身を乗り出して僕らを見ている幼い女の子だけだ。



 蓮からケイ君を紹介されたのは、ごく最近のことだ。

 両親を失ったショックで感情が消えてしまった僕を支えるために、五年ものあいだ気丈に振舞い続けた反動だったのだろう。蓮の心はある日、一瞬で深海の底まで沈んだ。大きな瞳はうつろい、さながら捨てられた人形のように動かなくなってしまった。

 今度は僕の番だ。蓮が支えてくれた五年間のお返しをしたい。僕が蓮を救うんだ。

 そう思いながらも行動に移せない自分の腐った性格が心底恨めしかった。

 しかし、ある日、蓮は突然もとの明るい姿へ戻り、言った。

「彼、ケイ君っていうの。今日から一緒に暮らすんだけど、仲良く……してくれるかな」

 蓮の隣は、ただの空間だった。

 でも僕は”理解した”から、こう言った。

「うん、もちろんだよ。みんなで生きていこう」

 どこか後ろめたさのあったような蓮の表情が花開き、「晃ちゃん大好き!」そう言ってギュッと抱きしめてきたあのシーン。僕は一生忘れないだろう。



 三人分の料理を運んできた従業員が、怪訝な目で僕らを見ていた。

 ドリンクバーに向かうカップルが、およそ同じような所作で僕らをチラ見した。

「んー、おいし」

 蓮は幸せ満面に平らげていく。自分とケイ君”二人分の料理”を。ある時は僕へ笑いかけ、またある時はケイ君へ話しかけながら。

 周りの席から感じる冷めた視線。

 窓の外を歩くサラリーマンの侮蔑的な眼差し。

 正直に言えよ。おまえら誰と話してるんだ? ってさ。言葉には出さず心の奥で嘲ることの醜悪性を、あんたたちはなぜ理解しない? だから嫌いなんだ。他人なんて悪の塊だ。

「晃ちゃん、どうしたの? 大丈夫? コーンスープ冷めちゃうよ」

 聞きやすく適度に甘い蓮の声。ゆがみそうな心を優しく包み込んでくれるその声かけに、僕はもう数えきれないくらい救われた。

「大丈夫だよ。それよりさ、ケイ君、今日はなんだか雰囲気違うね」

「うわっ晃ちゃんすごい! そうそう、ケイ君ね、今日はちょっとだけオシャレしたんだよ。ね?」

 だから僕は喜んで嘘をつこうと思う。


 失意に沈んだ僕を現実に引き上げてくれた君の幸せを、僕はいつだって願っているから。

 たとえ僕が一番でなくたっていい。君に幸せの灯を燈してくれる彼の存在を、僕は”認める”。

 君が笑っていてくれるなら、ずっとそばにいてくれるなら、嫉妬心なんて道端の石ころのように蹴飛ばしてやるさ。


 絶望に落ちた蓮の、その心を持ち上げてくれたのは彼だ。

 そう、僕にとっての君の存在と同じ。


 僕は死ぬまで嘘をつき続けるよ、蓮。



 ◆



 家族でファミレスに来ていた幼い女の子は、長椅子の上に膝立ちして後ろのテーブル席を不思議そうに眺めていた。

 母親に叱られながらも、女の子は純粋に、かつ無垢な様子で正直に疑問を告げた。


「ねぇママ、あのお兄ちゃんなんでずーっと独りでおしゃべりしてるの?」

読者に理解してもらうための努力が足りない作品です。

反省ばかり粗ばかり……orz

やっぱり2,000字は難しいッスね。

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