9月の海はくらげの海PDFで表示縦書き表示RDF


タイトルは、ムーンライダーズというグループの『9月の海はクラゲの海』からです。もう20年以上前の曲です。
内容的には全然関係ありません。でも好きな曲です。
良ければ検索かけて聴いてみてください。
9月の海はくらげの海
作:金城 ユウ


 9月の海はくらげの海。
 そう歌ったのはどこのアーティストだっただろう。
 子供みたいに愛しても、大人みたいに許したい。
 そんな感じの歌詞だったと思う。
 だけど、僕らが9月の海にいるのは、別にそんな甘いシュチュエーションとは無縁だった。
 海に来たのは、ただなんとなく。彼女と一緒になったのは、ただの偶然。
 いや、僕も彼女も受験生、高校3年生の日常というものから、逃げ出したかったかもしれない。
 そして、高校3年生の夏という残照を探して。



「暑い……」
 バイクから降りた僕は、ヘルメットと肩や肘の部分にプロテクターが取付けられたセーフティージャッケットを脱ぐ。
 9月に入ったといえ、フル装備でのツーリングは思ったよりも暑かった。
 今年になって、受験という逃れられないもののために、勉強漬けになっていた僕は、とうとう切れた。学校から帰るなりガレージに眠っていた、愛車『SUZUKI GSX1100S刀かたな』にまたがると家を飛び出した。
 どうせ切れるなら夏休みに切れてれば良かったのに、間の悪いことだ。
 そんなことより、今は何か飲み物が欲しい。販売機に向かうと、すぐそばのベンチに見慣れた制服。うちの高校の女生徒の制服だ。珍しいなと思う、ここすでに隣の県だ。制服のままこんなところまで出かけてくるやつもそういない。
 うつむいているため顔はわからないが、ネクタイの色からすると3年の同級生。声をかけようか迷ったが、やめておいた。話すことも無いと思うし顔見知りとも限らない。
高木たかぎ君?」
 販売機に目線を戻し、何を飲もうかと思案していると例の女生徒から声をかけられた。
 女生徒の方をみると、よく見知った顔がそこにあった。
 三嶋佳奈みしまかな、クラスメイトだ。まじめな性格で地味、あまり目立つことは無いがクラス内でも可愛いほうだと思う。これはあくまで僕の主観だが。そういえば、今日は学校を休んでいたはずだ。
「三嶋さんか、どうしたの、こんなところで?」
「うん、誰もいない海が見たくなって……」



 彼女の話をまとめると、今朝、いつもどおり家を出たのだが、急に「海が見たいなぁ」と思って、そのままここまで歩いてきたということらしい。
「三嶋さんって……」
 ばか?と思わず聞きそうになった。
「なによ?」
「電車かバスに乗れば、よかったんじゃないかな。と思ってさ」
 その言葉を聴いて彼女は「あっ」という顔をした。どうやらその選択肢は頭に無かったようだ。
「それで、まだ海を見に行くの?」
「そのつもりだけど。もう足がパンパンだよ」
 そうだろうな。すでに僕らの通う学校から20キロ以上離れている。
 今からバスや電車を使っても、暗くなる前たどり着けるかも怪しい。
 まあ、僕も海を見に行きたいと思っていたところだし。
「それじゃ、送っていくよ」
「えっ、でも……迷惑じゃない?」
「ぜんぜん。僕も海に行くところだし。でもヘルメットが無いな」
 まさかノーヘルというわけにも行かない。僕は彼女に荷物と小銭を渡す。
「ヘルメットを調達してくるから、荷物番しててよ。ジュースおごるからさ」
 うなずいた彼女をおいて、僕は店を探しに出た。



「海だー」
 彼女がヘルメットを脱いで、浜辺へ駆け出していくのを見送る。はしゃぐ彼女を見ていると学校での地味なイメージが希薄になっていく。さて、どちらが彼女の素の姿だろうか?そんなことを考えながら、僕は彼女の後を追ってゆっくりと歩を進めた。
 再び彼女の姿を見たのは、沈んでいく太陽の残照を受けて、一人波打ち際にたたずむ一枚絵のような情景。
 素直に美しいと思える風景に、彼女を拾ってきて良かったと思う。ヘルメット代とかマイナス分を差し引いても本日の収支はプラスで終わるだろう。
「ねえ、高木君」
 いつの間にか、夕日の沈む海を見ていた彼女が振り返り、僕を見つめていた。
「連れてきてくれて、ありがとう」
 そう言って笑う彼女と背景の海に、学校から帰って来た時の閉塞感は、どこかに吹き飛んだ気がした。



 日が沈んで真っ暗になった波打ち際で、靴と靴下を脱いではしゃぎまわる彼女の事を、僕は眺めていた。
「ねえ、高木君もおいでよ」
「僕は、いいよ」
「ノリが悪いなぁ」
「言っておくけど、くらげには気をつけろよ。たまに毒のあるやつもいるから、刺されたら痛いぞ」
「嫌っ、ちょっと、どこ」
 あわてて海から飛び出してくる彼女。その様子を見て噴出す僕。
「あー、ちょっとひどくない」
「あはは、このあたりのはミズクラゲだし大抵は大丈夫。でも、たまに悪いヤツがいてチクッと――」
 突然、唇に暖かい感触。彼女にキスされたと気が付いた。
「な、なに?突然」
「うん、なんとなく。高木君にファーストキスあげてもいいかな。と思って」
「思いつきでするか普通……それで僕のファーストキスも奪ったと」
「ごめんね。嫌だった?」
 その口調は全然反省してないなとわかる。僕は苦笑しながら首を横に振る。
 彼女は僕の隣に腰掛けた。わずかに二人の間に訪れる静寂、聞こえるのは波の音だけ。
「今朝ね。わたし何をしているのかわからなくなって。いつもと同じように学校に行って、友達とちょっと騒いで勉強して、学校から帰っても家庭教師と勉強で……明日ね、誕生日なの。17歳、最後の日にいつもと変わらないのが、なんだか許せなくて……」
 なんとなく彼女の気持ちが判る気がした。あの、どうあがいても何も変わらないという息苦しさ、閉塞感。それに耐え切れなくなって僕も家を飛び出してきたのだ。
「そんなときだったから、高木君が話を聞いてくれて、送ってくれると言ってくれた時はうれしかった。オートバイにも初めて乗って、あの感覚ってすごく気持ちよかった」
「そうか。それはよかった」
「うん。よかったよ」
 月明かりと波音をBGMに星空を見上げる。
 どのくらいの時間が経っただろうか。隣に座る彼女存在感だけを強く感じる。こうも意識してしまうとは、あまり良い状態とはいえない。そろそろ、帰ることも考えたほうがいいかな。
「この後、どうする?家の方は大丈夫なのか?」
「もうちょっと、ここにいたい。家は父さんも母さんも仕事人間だから、別に何もいわないし」
 少しさびしそうな顔をする彼女、だが視線は夜空を見上げたままだ。彼女の両手が自分の両肩を抱いている。
 夜も更けてきたせいか少し肌寒い。彼女にセーフティージャケットを脱いで渡す。
「え、いいよ。高木君が寒いでしょ」
「人の好意は、素直に受け取っておけ」
「うん、ありがとう。高木君は優しいね」
 そう言われて、僕はどんな顔をしていただろうか。前から彼女のことは可愛いと思ってはいたが、何でこんなことしてるんだろうな。付き合ってるとかデートというわけでもない。ただ、彼女が海に行きたいと願って、ただ、行き先が一緒だったというだけの関係。
「優しくないよ。たぶん下心ありありだ」
「そっか。下心ありありかぁ」
 どちらともなく笑い声が上がった。




 腕時計が、日付が変わったのを告げる。
「誕生日おめでとう」
「うん。ありがと……」
「もう帰るか?」
「うん。今日は友達とパーティーだし」
 彼女が立ち上がり背伸びをする。僕も帰路につくために立ち上がる。
「三嶋さん」
 僕は彼女を呼び、振り返った彼女に、昨日買ったばかりの白いヘルメットを放り投げる。ヘルメットは放物線を描き、彼女の腕の中にしっかりと納まった。
「可愛いリボンは付いてないけれど、誕生日プレゼント。ついでにリアシートも空けておくからさ」
「うん。また連れてきてくれると、うれしい」
 こうして僕らは家路つく。9月のくらげの海を後にして、受験生、18歳の日常へ。
 そしてまた二人で、訪れるのだろうか。この海に……


最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

もっと短く(2/3ぐらい)収めるつもりだったのですが、結局いつもの長さに……まあ、しょうがないか(笑)

もう昨日になりますが、仕事が休みだったので海を見てきました。半日以上、本当に何をするでもなく眺めてきただけですけど(笑)癒されました。

最後に影響受けたエロ漫画(笑)があるのですが、見つけた方はニヤリと笑ってください。

※06:15分に本文を修正しました。
完全にエロ漫画 (もしくはエロゲ)的な展開は置き換えました(笑)
キスされちゃうシーンもどうかと思うのですが、置き換えの代案が浮かばないのでそのままにしておきます。幸いなことに高木君視点で、彼女の心理描写まったくしてないし(笑)













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