「幸せの代償」後編。
答えはでません。
ひっぱります。
※作中の医師のセリフを不快に感じた方がいらっしゃったらごめんなさい。
あの医師はそう感じたってだけのセリフです。
悪魔の薬編―胎動―
8.a sacrifice of happiness(the latter part)
俺の家は貧乏だった。
そのせいで、
腹が減っても、まともに飯すら食えず、
病気をしても、まともに薬すら買えなかった。
そのくせ、俺たちのクソ両親ときたら、
ガキのために限界以上に頑張りすぎ、
結果俺は早くに親を亡くすハメになった。
俺には妹がいる。
今の仕事のおかげで一日人並みに生活するくらいの金は得たってのに、
病気がちのコイツのせいで、結果貧乏なままだ。
まあ、家の掃除や飯の支度くらいの能力はあるから、
薬買わずに死なれるより、生きててもらった方が楽だし、
仕方ないから養ってやっている。
けど、
働きもできねぇゴクツブシが家に四六時中いるときたもんだ。
イライラするから飯食う時と寝るときしか家には帰らない。
それ以外は外でずっとギャンブルしてる。
いわゆる現実逃避ってやつだ。
いいだろ?このくらい。
俺が自分のために自分で稼いでる金なんだぜ?
だから、他の奴がどうなろうと俺の知ったこっちゃねぇんだよ。
たとえ、
そのせいで誰が薬漬けになってようが。
金づるであるギルティン氏がいなくなってしまっては困る。
参ったなぁ…
―――― a sacrifice of happiness(幸せの代償)(the latter part)(後編) ――――
「おい」
薄暗い路地裏、
声をかけられ、振り返るとそこには
銀髪の魔導師――シャンドラ・スウェフィードが立っていた。
フィード 「ギルティンはどうした」
問いかけられたハンチング帽の男は嫌な予感がしつつも答えた。
ハンチング「いなかった」
案の定、フィードはハンチング帽の男の胸倉を掴んで壁に押し付けた。
ハンチング「本当だって!
なんでも昼ごろに事件があったとかで、かなりの騒ぎになったらしい。
ああいう生業の人だからさ…」
フィードはハンチング帽の男の胸倉から手を離した。
フィード 「”芋づる”に大人しく生ってるワケにゃいかねってか」
フィードは空を見上げた。
建物と建物の隙間の狭い空、
太陽は見えないが、大分頂点を過ぎていることはわかった。
フィード 「この町から逃亡するとしたらどのルートだ。」
ハンチング(…ギルティン氏はもういない。
ヘタな嘘ついてこの状態が長引いてもメリットはねぇな。)
「あの人北へ行くっつってたぜ。
人が多いところを狙ってあのラムネ菓子ばらまいてるらしい。」
フィード 「…」
ハンチング「嘘じゃねえ!
ギルティン氏がいなくなった以上俺があんたに何かするメリットはねえだろ!」
フィードは親指を口にあてた。
フィード (…それもそうか…?)
「北でヤツが立ち寄りそうな規模の町は?」
ハンチング「ここの登山口からのルートなら、ナイム国のエリドゥって町だ。
きちんと登山ルート通ってけば、立て札がご丁寧に道案内してくれるはずさ!
…もういいだろ?」
フィードはハンチング帽の男をまじまじと見た。
ハンチング「なんだよ…まだ何かあるってのか!?」
フィード 「金がねぇ」
ハンチング「…昼前にギャンブルでスッちまったよ。
これも嘘じゃねえ。」
フィードはため息をついてうつむいた。
ハンチング「じゃあ俺はここで…」
フィード 「待て」
ハンチング「…!?」
エオル(はー…どうしたものか…)
さすがに何しでかすかわからないフィードと共によしのを行動させるわけにもいかず、
かといってフィードのあの勢いも止められず、
エオルはよしのと共にギルティンの居所を知っていそうな人物が他にいないか、手あたり次第当たっていた。
先ほどからよしのはずっとうつむいたまま口を開いていない。
エオルも特に声をかけようとも思えず、ただただ重苦しい沈黙が続いていたが、
このままでも仕方ないと気の進まない口を開いた。
エオル「よしのさん、疲れた?」
よしのはうつむいたまま答えた。
よしの「いいえ、大丈夫です。」
「…」
エオル「…フィード、探そっか?」
よしのはうつむいたまましばらく無反応だったが、
やがて微かに震えながら首を横に振った。
絶対縦に振ると思っていたエオルは、
よしのの予想外のリアクションに、無意識に、何故だが焦りを感じた。
よしのは口を開いた。
よしの「心からは、そうお思いではございませんでしょう?」
エオルはギクリとした。
そうだ、今はどんなに頑張っても気持ちが動きそうにない。
けれど、なんとかせねばと、口実によしのを使った。
先ほどの訳のわからない焦りの正体に、エオルは自分に嫌気がさした。
そして、深いため息とともにしゃがみ込み、
わずかな沈黙ののち、うつむいたまま口を開いた。
エオル「ごめん、まだ気持ちの整理ついてなくて。
確かにフィードの言うとおり、
いつまでもここに留まっている訳にはいかないのに、
お金がないからどうしようもない。
でも、
どんな悪い人からだって、無理矢理奪うなんて…」
エオルはハッとして立ち上がり、よしのに無理矢理笑顔を作ってみせた。
エオル「ごめんごめん!弱音なんて、らしくないねっ!」
よしのは静かに首を横に振り、微笑んだ。
よしの「その弱音も、エオル様らしさですわ。
人が困ることはしない、誰か困っていたら助けたい、
私の知るエオル様は、そういうお方です。」
エオルはきょとんとした。
エオル「あ…ありがと…」
よしの「私も落ち込んでしまって申し訳ありません。
エオル様お一人にいろいろ考えていただいてしまって…」
エオル「ええっ!?いや、そんな、」
よしの「どうしたらいいか、一つずつ考えてまいりましょう!」
よしのの微笑みは先ほどの柔らかなものとは打って変わって、
とても力強いものだった。
よしの「まずは」
エオル「フィード探し!」
よしの「それはダメです。」
エオル「へっ!?」
よしの「まずはフィード様に納得していただける代替案を持っていかなくては、
またお2人とも、喧嘩なさるでしょう?」
エオル「うっ…」
エオルはなぜか、
学生時代にイタズラがばれ、
教師から首根っこを掴まれた記憶がよぎった。
(と言っても、フィードから被された濡れ衣だが)
エオル「ごもっともです…」
よしの「ギルティンさんの情報か、お金の工面かのどちらかになりますね」
エオルは顎に手をあてた。
エオル「どちらかと言えば、
お金の工面の方に天秤が傾くね…
…よしのさんには悪いけど」
よしのはにっこりした。
よしの「構いません。
お2人の喧嘩の火種はこの際忘れます。」
エオルは頭が上がらない気持ちになった。
エオル「スミマセン…」
よしの「その代わり、時間を作ることができたら…」
よしのはチラリとエオルの顔を伺った。
エオル「ん?」
よしの「あの女性をお見舞い…いえ、代わりにお花だけでもお渡ししたいです…」
エオルは二コリと笑顔を向けた。
エオル「うん!そうしよう!
できるだけ時間を作るように努めるよ!」
よしの「私もです」
エオルはハハと笑って訂正した。
エオル「時間を作るよう努め"よう"!」
しかし、方向性は決まったものの、
具体案はなかなか出てこない。
エオル「…やっぱり…消費者金融か…
質に入れるようなものも…バッヂぐらいしか…
いや、どのみちアシつくな…」
よしのは漆黒の大きな瞳をまん丸とさせて、エオルを見た。
よしの「その、消費者金融やシチというのは何なのですか?」
エオルは苦笑した。
エオル「ああ、簡単にいえば、
消費者金融っていうのはお金をあとで何倍かにして返す代わりに、
一時的にお金を貸してくれるとこで、
質屋っていうのはモノを預ける代わりに、
その分のお金を貸してくれるとこ」
よしのはエオルの言葉を噛み締めるように小声で繰り返し、
ポンと手を叩いた。
よしの「では、ヤサカニを質屋様に預けましょう!」
エオル「ああ!そっか!その手があっ
ってダメーーーーーー!!!」
よしの「後でお借りした額をお返ししたらよいのでしょう?
何もよろしくないことなどないかと…?」
エオルは慌てて付け足した。
エオル「いやっ!
質屋っていうのは預かった物を商品として一般に売るところでもあってね…
買い戻す前に誰かが買っちゃうってこともあるんだよ!」
よしの「ではそうなったら、
ヤサカニをお買い上げになった方から売っていただきましょう!」
エオル「いや、あのね…
世の中そんなに甘くは…」
よしの「とりあえず質屋様を探しましょう!」
エオルはよしのの後ろでため息をついた。
エオル(やっぱりバッヂしかないな…
てか、よしのさんてこんな強引な人だっけ…)
ハンチング帽の男の家――
簡素なテーブルに肘をつき、
フィードはダルそうに溜息ばかり繰り返していた。
室内は生活感に溢れていたが、
あまり手入れが行き届いているようではなく、
ハッキリ言って、荒んでいる。
ハンチング帽の男は
妹が家事をしているが、
最近は床に伏せっていて、何もしないのだとぼやいていた。
しかし、妹の部屋だという扉の向こうからは、
人の気配がない。
魔導師として、そういった察知能力は一般人より長けているフィードは、
妹の気配がない、
ハンチング帽の男は自分の依頼で出かけている、
とあって、台所で食べ物をいそいそとあさり始めた。
けれど、調理済みの食べ物はいくつか見つかりはしたが、
何日も放置してあるのか、どれも食べられたものではなかった。
結局ハンチング帽の男の帰りを待つことしかなく、
ダルそうにテーブルに頬杖をつき、
空腹紛れにため息ばかりついているのだった。
しばらくして、玄関のドアが開いた。
ハンチング「お待たせしました!フィードの旦那!
受け取って来ましたぜ!」
ハンチング帽の男はテーブルにドサリと布にくるまれた直方体の塊をフィードの前に放り投げた。
フィードは布をはぎ取り、
中から飛び出した札束の枚数を数えだした。
ハンチング帽の男は「おお」と声を上げた。
ハンチング「"そんなツテ"があるなら、
ハナからそうすりゃよかったのによ!」
フィード 「さっき裏ギルドでちとやらかしてな。」
フィードはチップとして数枚ハンチング帽の男の前に差し出した。
ハンチング帽の男はそれを受け取り、苦笑した。
ハンチング「確かに、ひでぇことになってたな。」
ハンチング帽の男は笑うのを止めた。
ハンチング「もういいだろ?
とっとと消えてくれよ。」
フィード 「なんか食い物ねえ?」
ハンチング帽の男はさも迷惑だと言わんばかりの溜息をつき、
妹の部屋の扉を蹴りつけた。
ハンチング「おい、客だぞ!
もてなさねぇか!」
扉の向こうに反応は、ない。
フィードは札束に手を動かしながら、口を開いた。
フィード 「そもそも気配がねぇぞ、その部屋。」
ハンチング帽子の男は扉をしばらく凝視し、
次の瞬間、蹴破った。
ハンチング「リディア!」
部屋はもぬけの殻だった。
乱暴に脱ぎ捨てられた衣服や、
クシャクシャのベッド、
閉まったままのカーテン。
ハンチング「…!?」
フィード 「…強盗か…?」
ハンチング帽の男は血相を変えて家を飛び出した。
フィードは舌打ちした。
フィード 「食い物食い損ねたか。」
フィードは立ち去ろうと玄関まで行き、
開けっぱなしのドアに手をかけ、
ハタと止まった。
ふと、エオルとよしのの顔が浮かんだ。
フィードは再び舌打ちした。
「質屋?」
すきっ腹にしみる香ばしいパンの香りに、
あふれ出る涎を押しこみ、
自然と商品にうつる視線を無理やり正面に向け、
エオルとよしのは”ピーター・ベーカリー(前編参照)”の看板娘(56)に
質屋の場所を訪ねていた。
気前のよさそうな大柄の看板娘は、
親切に町の地図を店の奥から持ってきて、
丁寧に行き方を説明してくれた。
礼を云い、ピーター・ベーカリーを後にしたエオルは大きなため息をついた。
よしの「どうなさったのですか?」
エオル「だめだ…質屋に行けないよ、よしのさん。」
よしの「なぜです?」
エオル「この町の質屋…
“あの宿”の真向かいだ。」
ここは砂漠越え山越え目的の旅人ひしめく宿場町。
どちらも平地を行くよりも倍の装備が必要であり、
見透かしたようにこの町の物価は平均より高めに設定されていた。
宿に集まる旅人達は、
普段の金額では十分な装備を揃えることなど、
到底無理であった。
エオル「つまり、そこで"あの"立地…
よしのさん、質屋案はナシだ。」
よしのはエオルをうかがうように目だけで見上げた。
よしの「…試しに行くだけ行ってみませんか?
他に思いつく方法もございませんし…」
エオル「…」
エオルは固く目を閉じ、眉間にしわを寄せ、少しの間、天を仰いだ。
エオル「よし!行こう!」
先刻、フィードとケンカ別れした建物の屋根の上――
そこから見えるはす向かいのあの宿は、
午前の騒ぎとは打って変わって、
いつもの平穏を取り戻したかのように静けさを湛えていた。
エオル(…?やけに騒ぎのおさまりが早いな…)
「……質屋は、と」
ちょうど、自分たちがいる隣の建物のようだ。
建物同士の隙間から、よしのは下を覗き込んだ。
よしの「エオル様、こちらに勝手口がございますわ」
エオルもよしのの隣から建物の間を覗き込んだ。
エオルの長い金髪が、ふと、よしのの手にかかった。
エオル「本当だ」
「よし」とエオルは隣にいるよしのに視線を向けた。
が、よしのはいない。
エオル「?」
よしのはエオルの後ろで手のひらをパタパタと顔を仰いでいた。
よしの「少し暑いですね」
エオル「や、少しどころかすごく暑いけど…
ずっと外にいるもんね!
じゃあ、あの勝手口からお邪魔させてもらおうか!」
建物を降り、
薄暗い路地から勝手口に回りこみ、
ドアノブに手をかけた、
瞬間――
エオルは後ろから肩を叩かれた。
エオル「?」
振り返ると、
そこには見ず知らずの男――
だが、エオルはその男が身にまとう衣服に見覚えがあった。
エオルは血の気が引いた。
男は口を開いた。
「あんたら、今朝うちの宿の窓から逃げた輩だろ?」
ハンチング「頼むな!」
ハンチング帽の男は手あたり次第の友人知人に妹の居所を訪ね回り、
捜索の手伝いを頼んでいた。
気のいい連中ばかりではないが、
何人かは手伝うと名乗り出てくれた。
これまで好き勝手に生きていたが、
こんなとき、
こんな自分に手を差し伸べてくれる仲間がいたことに、
ハンチング帽の男は
これまでの自分を悔やんだ。
名乗りを上げてくれる仲間に「頼む」と言って別れるたびに、
そのような思いがこみ上げ、
だが、それは一瞬のことで、
すぐさま妹の安否が確認できない不安で、
体中の臓器という臓器をギュッと握られる思いに駆られた。
しかし、
久々にこんなに動かした体と、年のせいもあり、
ハンチング帽の男はとうとう膝に手をついた。
「よう」
どこかで聞いただみ声。
ふと顔を上に向けると
ハンチング「…シャンドラ・スウェフィード…」
フィード 「気が向いたから手伝ってやるよ」
ハンチング「なんだよ、
さっきまであんなに早くここを出たいとかわめき散らしてたじゃねーかよ」
フィードは笑った。
フィード 「ちょいと事情が変わってな。
てめーを手伝わねぇと、
大事な荷物が持ってけねぇんだ。」
ハンチング「もうあんたにゃやれるもんはないぜ」
フィード 「てめーとは関係ねぇシロモノだから、安心しな。」
ハンチング「…よくわからねえが、だったら頼む…」
フィードは腕を組んだ。
フィード 「で?その妹とやらを探すんだな?」
ハンチング「ああ…
心当たりは手あたり次第探したんだが、
どこも最近顔を出してねぇらしい。」
ハンチング帽の男は話しながらも、
だくだくと心臓が脈打つたびに、後悔の念がこみあげて来るのを感じていた。
あいつはいつも必ず家にいて、
どんなに体調が悪くても、俺が帰れば「おかえり」と出迎えた。
外でメシ食って帰ったとき、
甲斐甲斐しく用意されていたテーブルのメシ、
あいつに人生縛られる気がしてイラついて、
ひっくり返したこともあった。
数え切れないほどたくさん酷いことをしたのに、
それでもあいつは俺を兄として慕っていてくれたのに、
あいつは、俺のたった一人の妹なのに、
なんだよ、なんで俺はあいつのことを、こんなに知らねぇんだよ。
ハンチング「ちくしょう…あいつにもしものことがあったら俺…」
フィードはやれやれとため息をついた。
フィード 「その"もし"は不毛だな。
クソの役にも立たねぇ。
しっかりしろ、てめぇは家族なんだろ」
フィードはハンチング帽の男のズボンのベルトをふん掴み、
魔導師の超人的な跳躍力でたちまち近くの建物の上に飛び乗った。
ハンチング「ぎゃーー!!殺す気か!!」
フィード 「上からのが見つけやすいだろ」
ハンチング「そうか!あんた魔導師だったな!
なら空飛ぶ魔法とか…」
フィードは笑った。
フィード 「あいにく、そっちは畑違いでな。
ちなみに一ついいか?」
ハンチング「ああ?」
フィード 「病院ってセンはねぇのか?
病弱だってんなら、出先で発作とか起こして運び込まれたとか」
ハンチング「あいつは病弱だからこそ、行動範囲は狭いんだ。
ここいらしか出かけねぇはず」
フィードは再びハンチング帽の男を男のベルト部分で持ち上げた。
フィード 「その"はず"ってのも不毛だな。
こういうときはあらゆる"もし"を考えるもんだぜ」
ハンチング「"もし"も不毛じゃねえのかよ。」
フィード 「ばーか」
フィードは建物の上をぴょんぴょんと駆けだした。
――質屋裏口前
エオル「えと…」
エオルとよしのは想定していた最悪の事態に固まっていた。
男 「あの女の件なんだが…」
エオル(う゛っ…)
「ど、どうなりました?」
男は迷惑そうなため息をついた。
男 「死んだよ」
よしの「え…」
男 「今流行りの魔薬の常習者だったらしくてな、
朦朧としたままお前ら追って窓から落ちて死んだ。
身元が分からなくて困ってる。
あんたら知ってんじゃないかと思ってさ。」
男は魔薬の受け渡し云々よりも、
とにかくあの掃除婦を何とかしてほしいといった様子だった。
エオル「いや…」
男 「知ってるみたいだな」
エオル「え…」
男の視線の先――エオルのすぐ隣を見ると、
よしのがポロポロと涙をこぼしていた。
エオル(本当は違うけど…会いに行くべきだよな…)
「案内、お願いしてもよろしいですか?」
街中の病院を回り、3か所目の病院の前にフィードとハンチング帽の男は立っていた。
ハンチング「おい…やっぱり病院ってセンはないんじゃねぇか?」
フィード 「まだ全部回ってねー。
ここでラストなんだろ?」
ハンチング帽の男は時間の無駄だと苛立ちを見せた。
ハンチング「これだけ探してダメだってのに…
しかもかなり離れたとこだぜ?
ありえねぇ」
フィードは冷静な口調で答えた。
フィード 「そいつは"ありえねぇ"ことを証明する根拠じゃねぇな。
そういうのは行ってみてから言いやがれ。」
フィードは勢いよく病院の扉を開け、
ズカズカと受付に歩を進めた。
ハンチング「リディアって女が運び込まれてないかい?」
受付の看護師は目をまん丸くさせて答えた。
看護師 「いえ」
ハンチング帽の男は「ほらみろ」とフィードを睨んだ。
看護師 「ですが」
ハンチング帽の男は「あれ?」と看護師に視線を戻した。
看護師 「今日昼ごろ、
身元不明の女性が一名運び込まれました…
ご確認いただいても?」
エオル 「…まさか
あのおじさんの妹さんだったなんてね…」
フィードはうつむいたまま腕を組み、黙っている。
遺体安置室前の廊下――
病院でばったり出くわしたフィード、エオル、よしのは3人並んで壁にもたれかかっていた。
エオル 「…どういう風の吹きまわし?
あのおじさんの人探しを手伝うなんて」
フィード「っせー…」
エオルはフィードを見た。
エオル 「なんだかんだ言って、
よしのさん並みに堪えてんじゃん。」
フィード「誰が」
エオルは数歩前に出て、振り返らずに続けた。
エオル 「…行こっか。
あのおじさんと妹さん、2人きりにしよう。」
フィードは顔を上げ、感情のない声で答えた。
フィード「そうだな」
エオルは泣きじゃくるよしのの肩に手を添え、病院を出た。
フィードも、
安置室を閉ざしている扉を少しの間見つめ、
そして、エオルに続いた。
ハンチング「お医者サマよ…」
ハンチング帽の男は扉のそばで手を前に重ねて立っていた医師に尋ねた。
ハンチング「こいつはなんでこんなことになっちまったんだい?」
それは、
“持病が原因で”という返答を期待してのものだった。
何でもいい。
とにかく自分を責めたかった。
しかし、
医師からの返答はその予想に反するものだった。
医者 「アルバイト先の宿の窓から落ちたらしい。」
ハンチング「…は?」
医者 「なんでも、窓から逃げた魔導師を追おうとしたんだそうですよ」
ハンチング(バイト!?何のことだ!?
それより、窓から逃げた魔導師って…まさか!!)
ハンチング帽の男は安置室を飛び出した。
医者 「ちょっと!まだ続きが…」
ハンチング帽の男は病院の廊下を右左と見まわした。
ヤツらの姿はない。
ハンチング帽の男は病院を飛び出した。
ザァァァァ…
雨が降り出した。
一人残された医者は独り言のように呟いた。
医者 「魔薬の興奮作用でおかしくなっていたみたいだが、
…ま、それ以前に持病にプラスしての流行りの魔薬だ。
いつ死んでもおかしくはなかった。
誰のせいでもない。
自業自得だよ、あなたの妹さんは。」
畜生!!
ちくしょう!!!
チクショウ!!!!
なんで妹が死んで、
ヤツらはのうのうと生きていやがんだ!?
返せよ!あいつを!!
絶対許さねぇ!!
地の果てまで追いつめて、
首だけになってでもヤツらを地獄に送ってやる…!!
絶対許さねぇ!
死んでも許さねぇ!
この日を境に、
ハンチング帽の男はキーテジの町から姿を消した。
フィード「天気はあいにくだが、
とりあえず、金も準備も万端だ。」
エオルは不審な目でフィードを見た。
エオル 「…ちなみにあのお金はどこから…?」
フィード「別にどっかから奪った金とかじゃねぇよ、安心しな。」
エオル 「どこのお金なのか聞かないと安心できないよ。」
フィードはニヤリとからかうような笑みを浮かべた。
フィード「貯金。」
エオル 「嘘くさっ!!
君、貯金とか絶対できないよね!?」
よしの 「あの…」
2人の魔導師はよしのに顔を向けた。
フィード「準備できたか。」
エオル 「似合うよ!」
よしのは
皮のブーツに
スリットの大きく開いたラベンダー色のワンピース、
レギンスに茶色のケープという装いで、
気恥ずかしそうに立っていた。
エオル 「あの格好はちょっと目立つからね。」
フィードは大きく息を吸い込んだ。
フィード「さて、行くか。」
一行の目の前には、
“ヴィンディア連峰 乗り越えた先の楽園 キーテジ登山口”
と書かれた看板と、
ゴツゴツとした岩肌の山道が広がっていた。
シェン「薬物汚染?」
リケ 「ええ、ムー大陸南部を中心に魔薬が蔓延しているみたいなんです。」
パンゲア大陸 ヴァルハラ帝国 グラブ・ダブ・ドリッブ魔導師協会管轄地区
対魔導師犯罪警察組織トランプ本部 第一会議室――
諜報が新たな事件を持ってきたとあって、
各軍トップとジョーカーで臨時会議が開かれていた。
カグヤ「それは、どこかの国から捜査協力の要請があっての話か?」
トランプは魔導師が関わる事件以外は基本的に依頼があってから動くのだが、
リケはカグヤの問いかけに、渋い顔をした。
リケ 「それが犯人が一般人のみならそうなるはずなのですが…」
シェン「魔導師が関わってるのか!」
リケはさらに渋い顔をした。
リケ 「ハッキリそうだと分かれば話は早いのですが…」
カグヤ「?」
シェン「?」
リケは2人の「どういうこと?」という視線を確認し、
口を開いた。
リケ 「"自分は魔導師だ"と名乗って問題の魔薬をばらまいている
"ギルティン"という男がいるのですが、
その男の在籍記録が魔導師養成学校にはないんです。」
カグヤは乾いた笑みを吐き捨てた。
カグヤ「魔導師詐称か、重罪だな。」
シェン「どんなやつ?顔割れてんの?」
リケは静かに、ところどころ黒いしみがついた麻の巾着袋を取り出した。
カグヤ「…血?」
リケは「ええ」と短く答え、
巾着袋の中から半分砕けた水晶玉を取り出した。
シェン「”メモリアリスタル”…だよな?」
※メモリアリスタルとは映像保存用の魔導師専用道具。ダイヤモンド並みの強度がある。
半分砕けたメモリアリスタルは
横幅のある大柄の男の首から下を映しだした。
男はこちら(メモリアリスタル)に近づいて手を伸ばし
…そこで映像は途切れた。
リケ 「うちの隊員が転送魔法で送ってくれました。」
転送魔法は捜査資料ほどの重要なものの転送は、普段行わない。
転送間違い等が起こりうる可能性が万に一つもあるからだ。
隊規を破ってまで送ってきた、そのことが示す事実は一つだけだった。
カグヤは淡々と口を開いた。
カグヤ「送ってきた者は?」
リケ 「…我々諜報は普段1人から2人の少人数で仕事しますが、
今回は巨大組織の氷山の一角という可能性も視野に入れ、
5人編成で調査に送りこみました。
けれど、
今日現在帰ってきた者は1人もいません。」
カグヤは舌打ちした。
カグヤ「クラブのキングは自分の部下がこのような目にあっているというのに、
一体どこをほっつき歩いているのだ。」
辺りは一瞬静まった。
シェン「ま、"あいつ"はトランプの仕事のためにトランプに入った訳じゃないからなぁ。」
カグヤは吐き捨てた。
カグヤ「最低限の義務すら果たさぬ最低の男だよ。」
リケ (…外からもぼろくそ言われてるなぁ…うちのキングは)
リケは苦笑した。
リケ 「話の続き、いいですかね?」
リケは世界地図を広げた。
そして、地図の左下の卵型の大陸――ムー大陸の南部に赤いインクの羽ペンで円を描いた。
リケ 「情報では、発祥は南部。」
次に、
リケはその赤い丸印から上に向けて矢印を描いた。
リケ 「そこから徐々に北上して被害が拡大しています。
現在確認できているのが、マーフ国の首都アートリーまでですね。」
シェンは先ほどのメモリアリスタルに目をやった。
シェン「それは、
被害がそこまで?調査がそこまで?」
リケは冷静に返答した。
リケ 「後者です。」
シェンは「ふーん」と両手を頭の後ろで組み、椅子の背もたれに寄りかかった。
カグヤは地図を眺めていた。
カグヤ「南部の薬物蔓延はいつごろからだ。」
リケ 「半年前からと確認しています。」
カグヤは顎に手をあてた。
カグヤ「半年でムー大陸中北部か。
…。」
シェン「何?」
カグヤはシェンとリケを交互に見、再び地図に目を落とした。
カグヤ「いや…もしこのまま海を越えてなお北上が続けば、
いずれはこのヴァルハラ帝国までやって来よう。
そうなれば他大陸への拡大も時間の問題。
最低限それまでには食い止めねばな…。」
リケは眉根を寄せた。
リケ (?
いつも攻めの姿勢のカグヤさんが珍しい?)
シェン「なんだよ?何か気になるんなら言いな?」
カグヤは黙っている。
シェン「確かに、最低限はそこって認識は俺もあってるよ。
けどさ、できることならなるべく被害は抑えたいじゃん。」
カグヤは再びシェンを見た。
カグヤ「…では、
あくまで"被害を最小限に抑える"という観点からの意見として聞いてもらいたいのだが、」
カグヤは地図のある一点を指差した。
カグヤ「今の時期、神使教徒の巡礼のコースだ。」
カグヤが指差したのは、
ムー大陸より北の大陸・パンゲア大陸の右下、
ファンディアス国のファリアス港
カグヤ「ここから年に一度、ジパング国へ巡礼専用の船が出る。
ちょうどあと4,5ヵ月くらいの時期だろう。」
リケ 「それってまさか…」
シェンは立ち上がった。
シェン「ばらまいてるやつが本物だろうが偽物だろうが、
これが魔導師だと名乗ってるやつの犯行で、
もし巡礼のタイミングでファンディアス国に蔓延すれば…」
カグヤは頷いた。
カグヤ「神使教から、
魔導師による薬物テロとみなされても仕方なくなる。」
シェン「デッドラインの訂正だ。
ムー大陸北部に防衛線を張る。」
カグヤ「待て、第一軍は他にも気に掛けることが多いだろう。」
リケ 「そうです!
W・B・アライランスにバッヂ偽造、それに"ルガト討伐"!!」
シェン「第二軍も同じことが言えるだろ?
手一杯のはずだ。」
カグヤ「しかし…」
シェンは不敵な笑みを浮かべた。
シェン「いるだろ?一人。
このクソ忙しい時に
けがのリハビリで久しぶりに仕事に出るとかぬかしてる怠け者が。」
カグヤはあからさまに不愉快な表情を浮かべた。
シェンは気にせず続けた。
シェン「リケ、クラブのキングとはどうあっても連絡つかないんだよな?」
リケ 「はい…八方手を尽くしてはいますが…」
シェンはリケに改めて向きなおった。
シェン「リケ」
リケは頷いた。
リケ「本件の諜報活動は私が担当しましょう。」
カグヤはさきほどから黙って腕組みをしていたジョーカーに視線をむけた。
ジョーカー「本件を"エース出動レベル"に引き上げ、
リケにアーティファクト使用許可を出そう。
トウジロウへの許可は…本人の希望次第ということでいいか?」
シェンは笑った。
シェン 「OK」
カグヤが手を上げた。
ジョーカー「何だ?」
カグヤ 「それは、"キング出動レベル"ではなく"エース出動レベル"に抑えるということか?」
シェンが大げさに笑った。
シェン 「エース飛び越していきなりキング出動なんて、
そりゃあトランプの威厳に関わるじゃん?」
※トランプの活動は魔導師協会加盟国(全世界の7割)への報告義務がある。
カグヤ 「…なればうちのエースでもよかろう。
わざわざヤツを出す必要はないだろう。」
シェンとジョーカーは同時に天井を見た。
シェン (…うーん)
ジョーカー(ヤレヤレ…)
リケ 「ハートのキング!どうか冷静に!
スペードのエースを選んだ条件は
エースの地位だから"だけではない"はずです!」
シェン (うお!)
ジョーカー(言いにくいことを…)
カグヤ 「貴様、エースの分際でキングである私に口応えするのか。」
リケは眉を釣り上げた。
リケ 「もうこれ以上仲間を犠牲にしたくないんですよ!私は!」
ジョーカーはリケを制止した。
ジョーカー「なんとか"エース出動レベル"に抑えたい。
エースの中で、"力"も"実績"もあるのは
お前と同じ"偉大なるの7人"であるトウジロウだ。
これ以上犠牲を出さないためにも
"ヤツの決定力"が外せん。」
カグヤは立ち上がり声を荒げた。
カグヤ 「大事なのは誇りではなく国際的な体面か!
他のエースの地位にある者への愚弄だ!」
ジョーカーはカグヤを睨みつけた。
ジョーカー「ではお前は命より誇りを選べと、そう自分の部下に言うつもりか。
それはただの押し付けにすぎない。独裁ともとられかねんぞ。」
カグヤ 「何だと…!」
シェンがへらへらと笑いながらテーブルに広げられた地図を片づけ始めた。
シェン 「まぁまぁ、ジョーカーもリケも、
お前が"いつかのモモ"みたくなっちまってるから、心配してんのさ。」
カグヤ 「…」
シェンはニヤリと意地悪な笑みをカグヤに向けた。
シェン 「いつまでも肩ひじ張ってっと、
“今度は”ハートのキングを引きずり降ろすぞ。」
カグヤ 「…」
カグヤはフッと笑った。
カグヤ 「それは勘弁願いたいものだ。」
そしてジョーカーとリケに向きなおった。
カグヤ 「すまなかった。
キングにあるまじき言動を謝罪する。」
ジョーカーは笑った。
ジョーカー「構わん。
ここには一般隊員はおらん。全くの内輪だ。
元気があって大変よろしい。」
カグヤはシェンを見た。
シェンはニカッと満面の笑みを向けた。
ジョーカー「では、
リケは本件の諜報活動を、
ハートはこれまで通りの事件を担当、
スペードはエース出動レベルの事件として新たに本件を加える、
でよいかね?」
シェン、カグヤ、リケは同時に答えた。
「了解!」
会議解散後の各執務室への帰路――
シェン「なんで渋ったんだよ?」
カグヤ「…なんの話だ。」
シェンは頭の後ろで手を組んだ。
シェン「巡礼の云々について。」
カグヤはシェンと目を合わせなかった。
カグヤ「…ジパング人だから、
とりわけ神使教徒を気にかけていると思われたくなかった。」
シェンは天井を見上げた。
シェン「お前がだれより公平に仕事に臨んでることはみんなわかってるぞ。
つっても、ま、デリケートな問題だからね~。」
カグヤ「…そういえばお前の奥方は…」
シェンは笑った。
シェン「俺と俺の嫁さんは関係ないよ。
それに、魔法圏と神使教との問題も過敏すぎないつもり。」
カグヤは笑った。
カグヤ「まるで、
問題に少しでも関心があるような発言だな。」
シェンは大げさに笑った。
シェン「超関心あるって!
…問題として挙げるべきってトコはね。
問題自体にあえて乗っかろうとは思わないよ。」
カグヤは瞳を伏せた。
カグヤ「それでよい、お前は。」
スペードとハートの建物の分かれ道――
シェン「じゃあ、ちょっくらモモに指示出して来るから、行くな。」
カグヤ「ああ」
カグヤはしばらくシェンの背中を眺めていた。
「調子は如何かな?」
骨のように白い肌に真っ黒な唇から黄色い歯をのぞかせ、
スーツ姿の男が、目の前の力士のような髭面の大男にゆっくりと語りかけた。
髭面の大男――ギルティンは満面の笑みを浮かべた。
ギルティン「よう!久し振りだな!フォビアリ!」
フォビアリは被っていたシルクハットを目深にかぶり直した。
フォビアリ「調子は如何かと聞いているのですが。」
ギルティンはガハハと唾を飛ばしながら豪快に笑った。
フォビアリは眉をひそめた。
ギルティン「まだ試作品だというのに、
あっちゅーまに広まりおったわい。」
フォビアリはギルティンの胸元を指差した。
フォビアリ「それは?」
フォビアリの指した先には5つの金色のバッヂが輝いていた。
ギルティン「ああ、アートリーとかいう大き目の町で、
"犬っころ"が嗅ぎまわっていてな。」
フォビアリ「確かに、
"私の案件"でトランプが来ていましたが、あなたのとこにも…
感づかれるようなことをしたのでは?」
ギルティンは笑った。
ギルティン「ガハハ!よいよい!
あくまで俺の目的は魔導師を装って神使教にこいつの完成品をばらまいて、
魔導師と神使教の仲を悪くすることにあるからよ。」
フォビアリは口角を釣り上げた。
フォビアリ「…魔導師による薬物テロをトランプは止められなかった。
魔導師協会の失墜は免れない…という"おまけ"がついてくるわけですか。」
ギルティンは酒瓶をグイッをあおった。
ギルティン「ガハハ!
しかも仲間をやられて躍起になっとるはずだ!
こりゃあ楽しみが一つ増えたってもんよ。
ところでフォビアリよ、お前さんはどうなんだ?
こないだどっかの大口つぶしたってのは聞いたが。」
フォビアリは呆れた。
フォビアリ「あなたのいたアートリーの議員ですよ。
まあ、でも、そこそこ収穫はあった。」
ギルティン「収穫?」
フォビアリは人差し指でシルクハットのツバを押し上げた。
フォビアリ「活きのいい新人魔導師と会いましてね。」
ギルティンは至極興味なさそうだった。
ギルティン「なんだ、"パーヴァー"の案件か。
あいつの仕事は地味だからな。」
フォビアリ「いずれ近いうちにやってくる"カーニバル"には必要ですよ。」
「クックックッ」と不気味な笑みを浮かべ、フォビアリは闇に消えた。
ギルティンは天を仰いだ。
ギルティン「カーニバルか、楽しみだ。」
パチパチと焚き火が音を立てている。
エオルとよしのの寝息に、フィードは思いがけず安心感を得た。
フィードは一人で笑った。
フィード「本当、重てぇ荷物だなぁ。」
「おい。」
何もない中空から、若い男の声――
フィード「なんだよ、人がせっかく物思いにふけってんのに。」
「ギルティンとかいう男、これ以上追うな。」
フィードは口を尖らせた。
フィード「なんでだよ。」
「お前らではかなわない。」
フィード「んだと?知ったような口…」
「この目で見た。
よしのちゃんについていったからな。」
フィード「…やべぇやつなのか。」
「あくまで忠告だ。
聞き入れるかどうかはお前次第さ。」
フィード「…」
フィードはおもむろに近くの小石をすやすやと気持ち良さそうに寝息を立てているエオルに投げつけた。
エオル 「いて!」
フィード「交替だ。寝る。」
エオル 「はいはい。」
むくりと起き上がったエオルはブランケットをフィードに投げ渡した。
フィードはごろりと横になると口を開いた。
フィード「ギルティンはもう追わない。」
エオルはきょとんと目を見開いた。
エオル 「どうしたの。」
フィードはまっすぐ空を眺めたまま答えた。
フィード「あきた。」
エオル 「君ねぇ…」
エオルは深いため息をついた。
エオル 「でも、よしのさんももういいって言ってたよ。
俺たちのケンカの火種は忘れるって。」
フィードは笑った。
フィード「サバサバした女だなぁ。」
「…」
エオル 「…」
パチパチと焚き火がはじける音が響いた。
フィード「悪かったな。やりすぎた。」
エオル 「いいよ、それだけ俺たちのことを思ってのことだったんだろ?」
フィード「………だといいな。」
エオルはヤレヤレと呆れた。
エオル 「素直じゃないんだから。」
フィード「…」
見上げた夜空に清々しいほど瞬く星々が、
まるで自分を責めているかのようで、
フィードはそらすように目を閉じた。
ギルティンの登場で、なにやらトランプに動きが出てきました。
大変なことにならなければよいのですが…。
ちなみにそのトランプのやつらが話題にしていた
ファンディアス国ファリアス港の巡礼船は
現在のフィードたちの目的地です(詳しくは第3話参照)
本編の更新は来月くらい。
次から数話は小話です。
もしよろしければ励みになります。
ランキング参加中です。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。