友達を怖がらせるのって楽しいよね
私は悠乃。
ホラー小説や漫画が大好きな小学4年生。
誰かが作った話を読むのも好きなんだけど、自分で作った話を友達に聞いてもらうのはもっと好きなの。
私がしゃべった時の、怖がっている顔!あれがたまらなく好きなんだ。
さて、また怖い話でも作るかな。
おばけが追いかけてくるってのはもうやったし、知らないところに迷い込むってオチも使っちゃったし、どうするかな。
あ、そうだ。普段見ているものが実はおばけだったっていうのはどうかな。
でも、それだけじゃオチが弱いよなあ。
じゃあ、この話を聞いたら…っての付けようかな!
死んじゃうってのは在り来たりだし、呪われるってのもつまんない。
よし、じゃあ時が止まっちゃうっていうのにしよう!
そういう話は私は読んだことないし、いいかも!
よーし、明日、真奈ちゃんを怖がらせちゃうぞー!
・・・・・・・
次の日。
「まーなーちゃん。」
「ん、何?」
あれ、いつもよりテンション低いな。ま、いっか。
「また、怖ーい話を仕入れてきたんだ!聞いて聞いて!」
「えーまたー?」
「ふっふっふ。今回のは、前回よりももーっと怖いから、覚悟してね?」
「分かったよ。」
何となくいつもよりテンションの低い真奈ちゃんに、私は話し始めた。
「あのね、この教室って、呪われてるんだって。」
「へえ。」
「どこがって言うとね、実は…窓なんだ。白っぽく見えているのがそのしるし。」
「手あかじゃないの?」
「よくぞ聞いてくれました!実は、あの白いの、洗っても洗っても落ちないんだって。それに、むりやり落とそうとした人は、謎の高熱にうなされたらしいの。」
「可哀想。」
今日はあんまり怖がってくれないなあ。ま、オチできっと悲鳴あげてくれるはずだよね。
「ふふっ。あ、いけない。大事なこと言うの忘れてた。」
「え、何?」
「この話を聞いちゃった人は、自分の時間が止まっちゃうんだって!それがいつかは分からないけど、急に動けなくなっちゃうんだって!」
「うん、知ってる。」
私は一瞬、耳を疑った。
「え?今、何て…」
「知ってるって言ったの。」
知ってるわけない。これは、私が昨日の晩に一人で考えたんだもの。
じゃあ、どうして?
似たような話をどこかで聞いたのかな?
「え、何で?どこで?」
困惑している私を見て、真奈は、はあ、とため息をついた。
「悠乃から聞いたの。この教室で。」
「え…?」
「それに、この話を聞いて、実際に悠乃の時間が止まっちゃっているんだから、見たら分かるわよ。
まあ、実際のオチは少し違ったみたいだけど。」
「ど、どういうこと…」
「まだ気が付かない?その話はね、聞いた人じゃなくて、しゃべった人の時間が止まっちゃうの。魂が、すぽっと抜けたみたいに。」
「え、でも私動いてるし…」
「今日、何日?」
「え?えっと、11月28日。」
「そこから丁度100日経っています!おめでとう!」
「え、え!?」
「私、悠乃からその話聞くの100回目。意味、分かる?もう聞き飽きたの。」
「ちょ、ちょっと待って。」
私は、何かおかしいと思って考えてみた。
もし、もし私の時間が止まってたとして、100日経ったとしたら、私が真奈にこの話をするのは何回目…?
「あ、あなた誰!?!?」
「あ、気付いちゃった?えへ。」
「あ、私がもし死んでるとしたら、ここは、天国?」
「行けると思っているの?」
「え、じゃ、地獄?あなたは悪魔?」
「悪魔もそんなに暇じゃない。」
「じゃあ、ここはどこなのよ!あなたは誰!?」
真奈によく似た人は、にいいっと口角を釣り上げて笑った。
「ここは、どこでもない。あなたの中。私はあなたの記憶の中の真奈って子に、自我が芽生えたもの。ま、見た目は真奈、中身は別人ってこと。」
「意味が分からない!」
「分からないってことは無いでしょう。最終的に、いつもあなたはそれなりに理解して帰っているんだから。」
「は!?」
「いい?時間が止まっているの。あなたの現実の時間。あなたはいつまでも11月28日をさまよっている。で、私は産まれた。あなたの記憶の中から。つまり、あなたは私のお母さん。」
「え、わ、私は、現実の私はどうなってるの!?」
「ふふ、安心して。本当に時間が止まっちゃっているから、あなただけ、動くことも話すことも無く、年を取ることも、死ぬことも無い。永遠に、このまま。」
私は必死に頭を働かせた。
おかしい、どこかおかしいはず。
「私は今、どこにいるの!?」
「いいとこ突いてきたね。今ね、病院。」
「病院!?」
「学校で、椅子に座ったまま動かなくなったからね。救急車呼ばれて、そのまま。医者がどんな診断しても分からないみたい。そりゃそうよね。どこも悪くないのに息もしていないんだから。」
「そんな…そんな…」
「あ、でもそろそろ不気味がられてる。このままだと、臓器移植にでも使われて、火葬かな。」
「や、やだ!私まだ生きているのに!!」
「落ち着きなよ。大丈夫。ここにいるあなたは痛くない。私はずっとここにいるから。」
「そうじゃないでしょ!」
「そう?すでに、指一本自分で動かすこともできないのに、そんな体が大事なの?」
「そういう問題じゃないから!」
「そうかなあ。ま、肉体が死んでも、私もあなたも死なないから。」
「うるさい!あなたなんか知らない!自分で起きる方法考えるから!」
「そっか、そっちの部屋に戻るんだね。」
「1人でいたいの!」
「分かった、おやすみ。」
悠乃は、おやすみという言葉を無視して、部屋に入っていった。
「あーあ、あの部屋に入ったら全部忘れるのに。」
真奈によく似た人は、笑いながら悠乃の入っていった部屋を眺めていた。
「おやすみ、お母さん。また、今日会いましょう。」