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ドラキュラは名探偵
作:太田 裕介



ドラキュラは名探偵・3


マサキに抱えられて、夜空のフライトも、まあ慣れたと言えば慣れてきた。
いつもは適当に、本当に散歩って感じ。
だから、こんな風に、目的地があるというのは、初めてじゃなかろうか。
しかも、それは、あたしの学校だ。
まさか夜中の3時に、パジャマにジャンパーを羽織って、マサキと二人で学校に行くことになるとは思わなかった。
「フミカさあ、やっぱり寒くね?」
まだ4月の終わりだ。夜は、結構寒い。
「気にしてくれるのは嬉しいんだけど・・・」
こらえようのない怒りの感情が、ふつふつと沸いてきていた。
「どっかの覗き魔がいなけりゃあ、ちゃんと服着て来れたのにねっ!」
「別にフミカのヌードに興味はないって言ってるだろ?」
しれっと言い放つマサキ。
確かに、コイツは、裸に興味はないのかもしれないけど。
下着に興味があるというのなら、よっぽど変態以外の何者でもないではないか。
スカートなんか履いていようものなら、ほぼ100%めくるか覗くかしてくる。
見た目が中学生、ヘタしたら小学生にも見えかねない風貌なればこそ出来る芸当だ。
「アンタにパンツ、ガン見されるのが分かってて、着替えなんて出来るワケないでしょーが」
「いいじゃん、見て減るものでもなし・・・それに、フミカの下着は最近凝ってきてるから、見てて楽しいぞ」
ニヤリと笑う顔が、本当に卑怯極まりない。
イタズラ好きの男の子の笑顔に、本気で怒るに怒れないのだ。
「まだ殴り足りないようね、この変態」
とは言うものの。
・・・見られるのが分かってて、ヘンな下着なんて履ける訳ないでしょーが!!
なんて絶対口には出来ない事を考えながら、あたしは右手をゲンコツにしてマサキの目の前に振り上げてはみるけど。
それはポーズでしかないことは、もうマサキにも分かってるはず。
「ちょ・・・ちょっと待て!落っとこしたらどーすんだよ!」
慌てる様が、実にわざとらしい。
大体、あたしが本気で殴ったところで、本当は痛くもかゆくもないはず、なのだ。
「それを言うなら『落っことす』でしょ・・・」
言葉尻を取りながら、本当は、マサキに抱きつかなくても、落ちないんじゃないかなって思っている。
地上でマサキに抱きつく程度の軽い力で、空を飛んでいる間落ちないというのは、重力とかを無視しすぎだと思うのだ。
足は宙ぶらりんの状態なのに、飛ぶ方向に平行に体が向いているのも、明らかにおかしい。
でも。
ま、お姫様みたいで、役得な気がするから、いーかなっ!
なんてこっぱずかしい事を思ってみたりしてる間に、学校に着いていた。

もちろん玄関の扉には鍵がかかっているけど、マサキにかかれば鍵なんて何の役にも立たない。
それは悲しくも、あたしが一番よく分かっている。
「はい、不法侵入開始〜」
マサキは嬉しそうに開錠すると、ずかずかと校舎に入っていく。
「へ〜、これがフミカの学校かあ」
その表情と行動から、興味津々な様子が伺える。
「そんな珍しいモノなんてないよ?普通科の学校なんだし」
「いやいや。素晴らしいところじゃないか」
マサキの足取りが軽い。
素晴らしい?・・・そんな大した学校ではないんだけど。
適当な教室の扉を開けると、マサキは深呼吸をして、感極まった表情で。
「処女の香りが充満してる。ここに住めたら天国だな」
「・・・お願いだから、犯罪者にはならないでね、マサキ」
あたしはがっくりと額を手で押さえた。

「そんなことよりも、とりあえず、音楽室に行こうよ」
「うーん、俺としてはまだあと30分はこの空気を吸ってからにしたいもんなんだが」
本気か冗談か分かりかねる発言をするので。
「もう、先にあたし行ってるからね!」
ふくれて、あたしが音楽室へと廊下を歩みだすと。
「・・・まあ、フミカが行きたいって言うんなら、しょーがないなぁ」
そんなあたしの横を、ふわりと飛んで、すり抜けていくマサキ。
あ・・・そうか。
さては、あたしがビクビクしていると思って、彼なりに音楽室に向かうように仕向けたんだな。
やっぱり、あの幼い表情とは裏腹に、200年生きてるだけはある。
「ちょっと!待ってよ、マサキ!」
あたしはマサキの後を追った。

そして、音楽室の前。
扉はもちろん鍵がかかっていた。
月明かりだけが頼りの暗い建物の中で、ドラキュラと二人で学校の探索。
しかもその理由は、音楽室にいるかもしれない幽霊を探すっていうんだから。
どんだけファンタジーな事になってるんだ、あたしの人生は。
なんて考えていると、ちょっと怖さがなくなってきた。
もちろん、そう思えるのは、隣にいるマサキの存在が非常に大きいわけで。
「ありがとね、マサキ」
なんて、照れくさくなるセリフを言ってみた。
「ん?」
扉の鍵が、カチリを開く音がする。
「そうかそうか。ようやく俺様に血を吸わせる気になってきたんだな」
「い・・・いや、それはないから」
すっかり忘れていたことを、あっさり言われてしまったので、慌てて否定する。
最近めっきりそういうことを言わなくなってきたと思ってたのに。
あたしの血は、特別なものらしい。
何が特別なのかも、あたしには分からない。
そう言えば、出会って間もない頃は毎日のように『血を吸わせろ』と言っていたものだけど、最近は全く言わなくなったな。
・・・なにか、あったのかな?
相変わらず、この少年の様なドラキュラは、つかみどころがないままだ。

「さーて、ではでは、幽霊さん、いらっしゃーい」
いつもの通りの余裕の表情で、マサキは勢いよく扉を開いた。
・・・ピアノの音は、聞こえない。
しん・・・とした空気だけが、あたし達の周りを包む。
「なんだ、誰もいないじゃん」
マサキはずかずかと中に入っていく。
あたしはと言うと、ちょっとやっぱり怖くなって、扉の前でお留守番。
「ふむ、ピアノ、ねえ」
おもむろに、マサキはピアノの蓋を開いた。
「・・・・・・」
急に、マサキの表情が変わる。
「ど、どうしたの?」
真剣になったときのマサキの表情は、凛々しくもある。
だけど。
・・・怖いのだ。それは。
「いや、別に」
マサキの表情は、すぐに戻った。・・・良かった。
「別にって・・・何かあったの?」
「うーん、あまりにも簡単すぎて、馬鹿馬鹿しくなってきた。フミカ、帰ろうぜー」
「簡単って・・・」
あたしが次の言葉を選んでいる間に、マサキは結論を出した。
「とりあえず、フミカの言う幽霊の正体、見たり、だな」
ぽいっと、何かをあたしに投げてきた。
不意打ちだったので、落としかけるけど、何とかしっかり掴んでみると。
「あ・・・」
それは、何の変哲もない、ただの、テープレコーダー。
まさか・・・。そう思いながら、再生ボタンを押してみる。
・・・このメロディは。
・・・風香ちゃんのピアノの旋律が、流れてくるではないか!
「な、なにこれ!?これが幽霊の正体!?」
「ま、そういうことみたいだな」
何の興味も沸かないと言わんばかりに、マサキは続ける。
「どっかの誰かが、ご丁寧に音楽室にわざわざ来た挙句、ピアノの蓋をあけて、迷惑にも夜中に音量を大きくして聞いてた。ってことになるな」
なんという迷惑なお話だろう。
「だ・・・誰よ!それ!」
思わず、あたしの語気が強まってきた。
「それは分からないけど」
それをあっさり受け流して、またもマサキは真剣な表情になる。
「フミカ、がんばって、そいつを探してくれない?」
「え・・・?」
いつもそうだ。彼の真剣な表情は、それだけで、あたしの思考を鈍らせる。
「多分、そいつ、憑かれてるぜ・・・?こっち側のヤツに、な」
今回だけは、マサキの真剣な顔が、崩れることはなかった。














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