手のひらの上
「ママなんか、大っきらいだ!」
大きな声でそう言うと、シュンは大好きなリュックを棚からひったくった。だいじなアイテムをいっぱい詰める。ゲーム、お菓子、小さい人形その他いろいろ……。
それからばたんと大きな音を立てて、ドアを勢いよく閉めた。
門を出て、四つ角を曲がって、いつもの空き地も過ぎて。
途中で後ろを振り返ってみたけど、ママは来ない。
(ほら、やっぱり!)
ボクのことなんか要らないんだろうと、シュンは思った。
どんどんどんどん歩いていく。
ちょっと遊んでたくらいで怒られる家なんて、ないほうがいい。
お腹がすいたら、お菓子を食べればいい。とってもいっぱい持ってきた。
どこか秘密基地をつくって、そこで寝ればいい。きっと家より気持ちいいはず。それに宿題とか片付けとか、いろんなこと言われないですむ。
そうやって考えながらずっとずっと歩いて、気がつくと知らない公園の前にいた。
「うわぁ……」
思わず声をあげる。
ぐるぐる回る大きなすべり台は、降りるところが二つもある。
丸太を組んで作った高くそびえる台からは、ターザンみたいにロープにぶら下がって、降りていけるヤツまである。
他にも大きな砂場、迷路、ブランコ、名前を知らない面白そうなもの……。
「ねぇ、ボクにもやらせて!」
「いいよー。じゅんばんね」
遊んでいた子たちに声をかけて、入れてもらって、いっしょになって走り回った。
かけっこ、鬼ごっこ、登ったり降りたり転がったり、息が切れてもまだ遊ぶ。
「おまえ、名前は? どっから来たんだ?」
「シュンだよ。ボク、家出してきたんだ!」
「すげぇ! 家出とかカッコいいじゃん」
みんなが目を丸くして自分を見つめて、シュンはちょっと得意になる。
家出したボクが、いちばんすごい!と。
でもそのうち……みんなが騒ぎはじめた。
「ヤバいよ、雲、真っ黒だもん」
「なんか、カミナリなってる? あたし帰るね」
遊んでいる友だちが減っていく。
だんだん公園がさみしくなる。
ぽつんと冷たいものが、シュンの顔に落ちた。
「ふってきたーっ!」
わっと誰もが走り出す。
「ひゃー、ぬれるぬれる」
「またねっ!」
たちまち公園から、子どもたちの姿が消えた。
(どうしよう……)
家出してきたシュンには、帰るところがない。そもそも、帰り道が分からない。
ともかく濡れないようにと、シュンは丸太で組まれた遊具の中に逃げ込んだ。
雨がだんだんひどくなってくる。
しかもカミナリが、すごい音で近づいてくる。
(こ、こわくないやい!)
強がってみたそのとき、けたたましい音を立ててカミナリが落ちた。
「ひっ……」
文字どおり縮み上がる。
怖い怖いコワイ。やっぱり怖いものは怖い。お菓子もゲームも持ってきたけど、カミナリなんて考えなかった。
半べそで、隠れ屋の隅にうずくまる。
そのとき、声がした。
「あー、いたいた」
聞きなれた声。
「あーもう、おかげで濡れた濡れた」
いちばん聞きたかった声。
「ママっ!」
よっこらっしょっと言いながら、入ってきたママにすがりつく。
「ママ、カミナリ……ひゃぅ」
ちょうど雷がゴロゴロと鳴って、思わずおかしな声が出る。
「ばっかねー、雨降りそうなのに、家出なんかするから」
それは何か違うと一瞬思ったが、また鳴ったカミナリに、考えは吹き飛ばされた。
「ママ、どうしよう……」
「そのうちやむでしょ」
「やまなかったら……?」
「そのとき考える」
やっぱり何か違う気がしたが、それよりも安堵のほうがまさった。
すりすりと、ママにくっついてみる。
そしたらぱちんと軽く、おでこを弾かれた。
「でもママ、どうしてここ、分かったの?」
「こ・れ・よ」
笑いながら、ママがケータイを出した。
「あんた、自分の持って出たでしょ」
「あ……!」
そうだった、とシュンは思い出す。最初にだいじなものをリュックに詰めたとき、確かにケータイも入れたのだ。
だってあれは、友だちはまだ持ってない、自慢のアイテムだったから。
「便利よねー、これ」
「――うん」
シュンの子供用ケータイは、親のケータイとリンクしてある。だから簡単な操作で、今どこにいるかがすぐ分かる。
なのに今日は、すっかりそのことを忘れていた。
ママが追いかけてこなかったのは、最初からケータイを持ってるのに、気づいてたからだろう。
「ボクこんど、ケータイ持たないで家出しようかな……」
「そしたら、さらわれたときどこにいるか、分からないけど?」
それは困る。
今日みたいに迷子になったときに、探してもらえないのもやっぱり困る。
家出するならケータイはあったほうがいい、そうシュンは思った。
「で、どうすんの? 家出続ける?」
「やめとく……」
今だってこんなに怖いのに、夜になったらと思うとぞっとする。
「じゃ、雨やんだら帰ろうか」
「うん!」
シュンは元気よく答えた。
拙作を読んで下さって、ありがとうございました。本家はライトノベルですが、たまにこういうのも投稿すると思います。良かったら、連載中のものも読んでみてください。
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