「平次?もうすぐホワイトデーやねぇ」
オレは居間でテレビを陣取るように、テレビの前で片腕立てて頭を手のひらに乗っけて寝転んどった。
ほんなら、オレの後ろで机に向かって正座しながら茶ぁシバいとるババァに喋り掛けられた。
「それが?」
オレはオカンの方を見んと、気ぃ悪そうに短い言葉を返した。
このオバハンの言いたい事は分かっとる。
「和葉ちゃんからもらったチョコのお返し、ちゃんと考えてる?」
「んなわけないやろ」
和葉からチョコもらったっちゅうんは、もちろんバレンタインの時の話や。
もらった言うても、和葉は作りすぎた"余りモン"や言うてオレに渡して来たただけやし、なんでお返しなんかしなアカンねん。
「んなわけないってあんた…和葉ちゃんかわいそうやないの」
「かわいそうちゃうわ!」
余りモンの処分をさせられて、かわいそうなんはオレの方やのに、なんでこのオバハンは和葉ばっかかばうねん。
それに、チョコやったら他の女からももらってんのに。
そんなん思いながらも、誰にもお返しする気ぃなんかないけどな。
「ちゃんとお返しするんやで!」
「…」
「平次!聞いてんの!?」
「うっさいなぁ!ほっとけや!」
オカンがやいやいうるさいからオレは居間から出て行く事にした。
「あ!コラ平次!」
オカンは怒鳴ってたけど、無視して立ち上がって自分の部屋に向かった。
ちゅーか、よう考えたら"余りモン"て"義理"より下やんけ。
オレはそんだけ和葉に嫌われてんか?
普段、あんなにくっ付いて来るくせに、ホンマはしゃあなしでやってるだけなんか?
不安覚えてまうわ。
自分の部屋の机に向かって、オレはそんな事を考えとった。
あめ玉一個だけでもやらな、オカンがうるさいからなぁ…
でも、たかが余りモンにがっつりお返しでやるんは嫌やしなぁ…
「…せや、ええこと考えた!」
目には目を、歯には歯を。
余りモンには余りモンを!
やったらやり返す!
和葉にもオレとおんなじ不安を抱かしたんねん!
オレって天才!
早くホワイトデーにならんかなぁ‥
今から楽しみやわ!
オレは小さな野望を胸に秘めて、決戦の日のための準備を始めた。
…いうてもお菓子買いに行くだけやけど…
ホワイトデー当日
「和葉、今日オレんち寄って行きや。渡したいモンあんねん」
「‥何?ニヤニヤして。気持ち悪いで?」
「ええから!来るんか!?来うへんのか!?」
「…行くけど‥」
学校帰り、オレは和葉を家に誘う事に成功した。
オレは和葉にばれへんように、小さくガッツポーズした。
「ただいま」
家の引き戸を開けて、オレに続いて和葉も家ん中に入る。
「お邪魔しまぁす!」
玄関先で和葉がそう言うたら、オカンがぱたぱたと足音を立てて、わざわざ玄関までやって来た。
オレがただいま言うた時は来んかったくせに。
「和葉ちゃん、いらっしゃい!ゆっくりして行きやぁ」
オカンはそれはもう嬉しそうに喋る。
「ありがとうオバチャン!」
和葉もそれに笑顔で答える。
「…」
オレはそんな二人を冷めた目ぇで見とった。
「ほんなら平次におやつ持って行かすから、先上がっといてくれる?」
「はぁい」
オレの目ぇに気付いたオカンは、和葉だけオレの部屋に行かせた。
「ほな平次、ちょう来なさい」
和葉の時とは違う、心なしか冷たい口調。
オレはそんなオカンについて炊事場へ向かう。
炊事場でオカンがお茶やらなんやら用意してんのを、オレは入り口んトコでもたれて待つ。
「平次」
「あぁ?」
「ようやった!」
「はぁ?なんのこっちゃ」
「和葉ちゃんにバレンタインのお返しするんやろ?」
「せやな。ある意味"お返し"やな」
思わず顔がにやけてまう。
「そうかそうか。頑張るんやで!」
オカンはにんまり笑って、おやつ一式を乗っけたお盆をオレに渡した。
「おう」
オレはそれを受け取って和葉の下へと向かう。
「和葉ぁ。開けてくれぇ」
お盆で両手が塞がってたから、和葉に中からふすまを開けてもらって、自分の部屋ん中に入った。
「いちご大福や!美味しそう」
「オカンが和葉のために買って来たって言うてたわ」
「あはは!今日お邪魔するて言うてないのに?」
和葉はオレのすっとぼけたボケに、素直にノッてきた。
よし、"つかみ"は完璧や!
今更笑いで幼馴染の心掴んでどないすんねんって話やけど、ウケたんは一応嬉しいやん?
だたそれだけ。
「わーい!いただきまぁす!」
和葉はホンマに美味そうにいちご大福にかぶりついてる。
「せや、和葉。これやるわ」
オレは通学カバンから、小さ目のスーパーの袋を取り出した。
そう、それこそ服部平次様特製お菓子詰め合わせセット(100円バージョン)や。
「え?これ何?」
和葉は少し驚いた顔して、大福を食う手を止めてオレの方を見てる。
「何って、余りモンや」
「余りモン?」
今度は訳分からんって顔してる。
「やから、今日ホワイトデーやん?学校でお返し配ってたら、余ってもうてな‥」
「‥平次、今までお返しなんかした事なかったやん」
「今年は気が変わったんや」
「…そうなんや…」
和葉は悲しそうな顔して俯いた。
「…アタシには‥余りモンなんやね…」
今にも泣きそうな声でそう呟いた。
「まぁ‥そうなる‥かな…」
ちょう待てや!
なんでコイツこんな泣きそうなんねん!?
余りモンて、お前かてオレに余りモンよこしてきたやんけ!
やから"お返し"しただけやのに…
なんやオレが悪いみたいになっとるやんけ!?
「こっ、コラ和葉!泣くなよ!?」
お前が泣いたら、いろいろと厄介な事なるんやからな!
オレが一人で焦ってると、和葉は顔を上げて、おもっきしオレを睨んできた。
あれ?
今度は怒ってはる?
「なんでアタシが泣かなアカンのよ?もしかして、嬉し泣きでもする思たん?」
「はぁ!?誰がそんなん思うか!余りモンや言うてるやろ!」
売られた喧嘩は買う。
言われたら言い返す。
オレん中の辞書が、そんな言葉を引き出して、和葉に対抗させた。
「何が余りモンや!こんな安っぽいお菓子の詰め合わせ、どうせいらんって断られたんやろ!?」
「ボケ!うまい棒バカにすんなや!」
「あんたをバカにしてんや!」
「なんやとぉ!?もうええわ!!今すぐオレの目の前から消え失せろ!!」
「言われんくてもそうするわ!」
和葉は勢い良く立ち上がって、すぱーんとふすまを開けて出て行った。
オレのお返しを持って…
「閉めてけや!」
オレがそう叫んでも、和葉は無視して階段を降りて行った。
…なんでオレがキレられなアカンねん。
部屋の入り口が開けっ放しやから、玄関の方から、オカンと和葉の会話が聞こえて来る。
「和葉ちゃん、もう帰るん?」
「うん。平次に消えろ言われたらから」
「平次そんな事言うたん!?ごめんなぁ、後で叱っとくから」
「ええんよオバチャン。慣れてるから」
…慣れてるてどういう事やねん。
オレ消えろなんかめったに言わんぞ?
「ホンマにあの子は!」
「じゃあオバチャン、アタシそろそろ帰るな。いちご大福美味しかったよ!ありがとう!」
「そんなん全然いいんよ?和葉ちゃんのために買って来たんやから」
「ホンマに?嬉しいわぁ」
クスクス二人で笑い合っとる。
「ほんならお邪魔しました」
「気ぃ付けて帰りや」
カラカラと引き戸が開く音が聞こえる。
和葉、ホンマに帰ったんや…
ちょう言い過ぎたか?
なんか、アホらしなってきた…
「平次」
オレがちょっとしんみりしとったら、玄関におったはずのオカンが、部屋の前まで来とった。
「うわぁあ!なんやねんオバハン!?音も立てんと…」
「…」
「‥なんやねん?言いたい事あるんやったら言えや」
オレがそう言うたら、オカンは一言、
「あほ」
っとだけ言うて、炊事場に戻って行った。
「………」
…とにかく、少なくとも、和葉はオレと同じ気持ちを味わったやろう。
和葉への仕返し‥いや、お返しは成功や。
和葉にキレられようが、オカンにアホ呼ばわりされようが、オレは悪ない…
‥はず…
ホワイトデー翌日
「和葉、昨日服部君からバレンタインのお返しもろたん?」
「もろたよ。一応」
「ホンマに!?良かったやん!」
「良くないわ!余りモンもろただけやで!?」
「え?でも、服部君にチョコあげた子ぉら、お返しもろてない言うてたで?」
「へ?」
おわり
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