一緒に帰る
「一緒に帰る?」ウエダがぼそっと聞く。
「え?私と?」
「他に誰がいるんだよ」
なんで私と、そして何で私の事が…でも聞けない。
くじをつくり終わって、水本が用意した小さい段ボールにバラけさせたくじを入れて出来上がり。ウエダが黒板やロッカーの点検をして、私が日誌を書く。ウエダは手早く終わらせてまた席に戻り、私が日誌の残りを書くのを、机に肘をつき顎を乗せて見守る。
非常に書きづらい。
ウエダは私の書く字を見て、そしてたまに私を見る。
「ちょっ…ウエダ君、なんか書きづらくなるからあんま見ないでくれる?」
ウエダが返事をしない。嫌だな絡みづらい。
適当に、取り合えず早く書き終わらせる事に集中して日誌書きを終わらせ、私が日誌、ウエダが箱を持って水本のいる控室に向かう。
「お疲れ」と水本が軽い感じで、それでも私とウエダの顔を面白そうに覗き込みながら言った。
「くじでもジュンと一緒だったらいいのにな、ウエダ。ジュンを送ってやれよ、ちゃんと」
「あんたに言われなくてもわかってるって」
「あんたとか言うな、先生と呼びなさい。じゃあお前ら気を付けて」
「あの、先生大丈夫です」
「なぁユウ、大丈夫とか言っちゃうもんな?余計気になるっつうのよな!」
ウエダが私の腕を掴んで引っ張った。「もうこんなやつどうでもいいから。ほら!」
「また明日なぁ~」と言う水本にウエダは無言で、そして私も返事が出来ずに、結局私たちは一緒に学校を後にした。
学校から出てもそれとなく断ってみたが、結局私が乗車する学校のそばのバス停まで水本が自転車を押しながら一緒に歩く。私の鞄を前のカゴに入れてくれている。
非常に気まずい!日誌を書いていた時より気まずい。私の事を好きかもとか聞いた後では本当に気まずい。それがまた、本当かどうかもわからないので余計気持ちの持っていきようがない。
「2ケツで家まで送ってやろうか?」
「いいよ、うちさ、近くに交番あるから。二人乗り、つかまっちゃうよ」
私の乗るバスが来るまでウエダは一緒に待ってくれるという。
「いいよウエダ君。悪いから。別に暗くなってるわけじゃないから大丈夫だから」
「そんなにオレを帰らせたいの?」
「え?」帰らせたいけど?
「当たり、って顔してる!すげぇなお前」とウエダが笑う。「悪いから、とか言っといて」
「…そんな事ない…けど?」
「じゃあ絶対オレもここでバスが来んの一緒に待つ」
…なんでかな、私はすごく気まずい感じなのに、ウエダは結構ご機嫌そうな顔をしている。バスが来るまでの10分がすごく長く感じるのでとにかく話す事を探す。
「水本先生ってむかしから髪伸ばしてるの?」
「伸ばしてるっつか、すぐ伸びるから仕方なくくくってんじゃね?」
「そんなに伸びるの速いの?」
確かに自分でも言ってたけど。
「親がそんな話してたけど。オレも小さい時には遊んでもらったけど最近は会ってなかったから」
「え、それ面白い。何して遊んでもらってたの?いいなぁ」
「良くねぇよ。なんか…よく変な虫とかカエルとか捕まえてきてオレに無理矢理見せてきたりしてたけど」
「そうなの?可愛いな水本先生」
「もう水本の話はいいよ。…お前水本の事も好きだもんな」
「…好きっていうか…良い先生だと思うけど」好きだよね、どっちかっつったら結構好き。
「もしかしてお前、いろんなヤツの事すぐ好きになんの?」
びっくりする。
そんな事ないけど、そんな事ないとはいえない超個人的な設定を毎日してるもんね。
答えにくい。「そんな事は…ないよ?」
だって好きだと思うだけで、付き合ったりチュウしたりしたいって思うような好きじゃないもんね。…でも水本だったら…
「なに、その答え方」
と言われて、水本とチュウするところをあやうくバス停で想像しそうになっていたのを止めた。
「ほんとにそんな事ないから!誰でもは好きにはならないよ」
翌日。朝のショートホームルームで自分の作ったくじを引く違和感。
ウエダがあんな事言うから。
ウエダのせいにするけど、私は水本の夢を見てしまった。
水本が髪をほどいていて、私に撫でてくれって言う。え~~先生ぃ~~と思うが撫でたいので撫でてしまうと、水本は日向ぼっこをする年寄りの猫のようにうっとりとした顔をした。
なんか…よくわかんないけど…エロい夢のような気がした!
どうか当たり障りのない班に入れますように。班の残りの5人が私を普通に受け入れてくれますように。
昨日、バスの中でアキラからラインが入っていたので、「今終わってバスに乗ってる」と返した。
「ずいぶん遅かったじゃん」
「なんか水本先生も途中で見にきて邪魔されたりとか」
バス停まで一緒にウエダと帰ったりとか。
一緒に帰った事教えたらアキラ、どう思うかな。
どう思うかな、と思ってしまったので教えられなくなった。
「それでウエダに何か言われた?」と聞かれる。
「何も」
いろんなヤツすぐ好きになるのかって聞かれた。
「いや、なんか言われたよね?」
「帰ったら電話するから」
帰ってすぐアキラに電話するとすぐ、「何?やっぱり告られた?」と聞かれる。
「ううん。」
水本もそんな事言ってたけど、本当に私を好きかどうかも怪しいのに。
「今、間があったよね」とアキラの突っ込み。
よし!と思う。この際。この際、私はタケノシタ君、て事で。
「アキラが心配してるような事にはならないよ。ていうかそこまで心配するって、アキラはウエダ君の事好きなんじゃないの?言ったじゃん。私好きな男の子が出来ても、そんな盲目的に好きになったりはしないし。誰かに好きって万が一言われたとしても、ちゃんとほんとの本気でその人が言ってんのかどうか考えられるよ」
「うん。心配し過ぎてるだけだからいいじゃん」
「私だって好きな人はいるんだからね」
「…え、だれ?」
「わかんないでしょ?ね?好きな人が出来ても変わらないでしょう?」
「だれ?」
「教えないよ。アキラは心配し過ぎるから。今はいいな、って思ってるぐらいだから」
「じゃあ別に好きなんじゃないんじゃん」
「いいの。好きなの!私、アキラが心配し過ぎた事、ちょっと怒ってるんだからね。もっとその人の事好きになったら教える。それかアキラの好きな人教えてくれたらなんとなく教えるかも」
言ったらアキラが黙っているのでちょっと心配になって来る。
言い過ぎた?私。
が、アキラは言った。「なんか…ジュン可愛い…そういう感じでウエダと喋ったら絶対ダメだからね!」