五 ・ 探索
それは待ちに待った時間だった。
まだまだ寒さを感じる早朝に、翼をはじめ、部活のメンバーが揃った。
眠そうな徹は、いつもの様に木箱の上に寝そべっている。
「どこをどう探すんだ」
と、誇彦が腕を組ながら言う。それに答えたのは定だ。
「取り合えず、終業式が終わった後に、阿莉奈が行きそうな場所を調べてみようか。それと、校内も少し見ておくべきだね」
さすが部長。自信を持って言った彼は、更に続ける。
「じゃぁ今日は、誇彦と歌江、それから私が、街を調べるから、翼と徹は学校を調べでくれないか」
「分かった〜」
ごろごろとしながら手をあげた徹に、定は頷いて、ぞろぞろと部室から出ていく。
他の部活もやってないような早朝。学校を調べると言っても、何を調べればいいんだろうか。
「徹先輩……どうしましょうか」
「ね。どうしようか。何すればいいのか分からないよね」
起き上がり、言った彼は、ぼんやりと窓から校舎を見上げるだけ。そうして見上げながら、あぁ、と呟いて徹は立ち上がる。
「教室……阿莉奈の教室見に行こう」
学年が違うからか、翼は複雑な心境で頷きを返す。
一学年違うだけなのに、踏み込んではいけない気がするのはなぜだろう。
「大丈夫だよ。僕がいるんだから」
やんわりと笑って見せる徹に、翼は曖昧に笑いかえす。
確かに徹がいれば、誰か別の先輩に見られたとしても問題にはならないだろう。しかし。しかしだ。
今調べに行くのは、阿莉奈の机。
男子が女子の持ち物を覗くのは気が引ける。
「大丈夫だよ」
職員室から借りた鍵を回しながら、徹は軽く言う。
誰も居ない、校舎三階の廊下。
特別教室側にも、今日は人気がない。
「見付からないから、何してもバレないよ」
「……ですね」
ガチャリ、と意外と大きな音が響き、翼は廊下を見回してしまう。
誰も居ないって、と徹に言われ、翼も彼の後に続く。
夏休みと言うことで、閉めきられた教室は蒸し風呂の様になっていた。徹は、初めに教室の窓を全て開け、風を通す。
「さて……」
「阿莉奈先輩の席は……?」
一度教室ないを見渡した徹は、翼の言葉を聞きながら教卓の上にある、座席名簿を見付けて、見える座席と照らし合わせる。
阿莉奈の席は、窓側の後ろから二番目だ。
「翼君の直ぐ横の席だよ」
言われて、翼は素の机を見て……反応に困った。
「予想通りと言えば予想通りかな」
「女の子の机じゃぁないね」
教科書とプリントがゴチャゴチャに混ざった机の中に、流石の徹も表情を曇らせる。
それ以前に、夏休みだと言うのに、何も持って帰ってない彼女に驚きだ。
「取り合えず……ちょっと出してみようか」
苦笑しながら、丁寧にもプリントと教科書、ノートを分けて出して行く徹。その様子を見て、きっと徹の部屋は綺麗なんだろうな…と翼は思った。
と、徹が積み重ねた教科書らの一番上に上がっていた、小さめのフォルダが、するりと落ちた。
落ちた滑らかさに似合わない、大きな音を立て、フォルダの中身がぶちまけられる。
「あ〜ぁ……やっちゃった」
ばつの悪そうな表情になった徹が、ちらばった写真達を集める。
翼は写真集めを手伝いながらも、それに写っているのが、自分が知っている先輩達だけだと言うことに気が付いた。どれも楽しそうにしているのだが、一人だけ知らない人がいる。
髪の長い、女の人だ。良く見れば、今、目の前にいる徹と二人で写ってるものが多い。
その写真に写る徹は、今とは少し雰囲気が違った。微妙な違いなのだが、写真の方が元気があるというか、輝いているというか。
「翼くん、集め終わった?」
「あ……あぁ、はい」
自分が集めたぶんの写真を、適当にフォルダにしまいながら、徹が翼を見やる。その笑顔と写真の笑顔は……やはり違う。
自分で集めた写真を徹に渡した翼は、彼の手元を見ながら、ふと視線を下に向ける。
一枚、拾い忘れた写真があった。
「あ、先輩、ちょっと待ってください」
「ん?」
机の中にフォルダをしまおうとしていた徹に、翼はしゃがんだままで写真を渡す。
「僕、そこ知ってますよ。昔、一回だけ家族で行ったんですよね!」
そこは空気の澄んだ、とても涼しく美しい場所。森と湖、そして星空。
「そういえば、姉さんが教えたんですよね。定部長に聞きましたよ……徹先輩?」
懐かしい思い出の話をしたつもりだった。けれども、徹の表情は氷つき、瞳は見開かれている。
彼がこんな表情をするだなんて、思わなかった。
「せ……先輩、大丈夫ですか? 徹先輩!」
「………え、あ…あぁ、何? 大丈夫だよ。ゴメン、何かびっくりしちゃって」
そのただならぬ様子に、翼は立ち上がり、徹の肩を掴み揺さぶる。
がくがくと揺さぶられ、やっと気が付いた徹は、驚くほど変わらない笑顔で翼に微笑んだ。
手にした写真を伏せたまま、フォルダに入れると、無言のままに戸を閉めてゆき、気遣わし気な翼に気付いた様子もなく、徹は教室の扉に鍵をかける。
そして一階に着いた所で、徹が立ち止まった。
「翼くん」
「は、はい!?」
先ほどまでの様子に気をとられていた翼は、声をかけられた事に驚き、返事の声を裏返してしまった。
それに小さく笑った徹は、翼に鍵を渡す。
「え?」
「ちょっと悪くなっちゃったから……それ返しておいてくれる? 僕、帰るよ」
「あ、そうですね。先輩達には言っておきます」
「うん。ありがとう」
微笑んで、生徒用玄関へ向かう徹の背を、翼は見送った。
その後、部室で定らの、成果無しの報告を聞いてから、それぞれに解散した。
定と誇彦、歌江と翼。
その日、顔を合わせたのが最後だった。
次の日、歌江がいなくなったと連絡がくるだなんて……。
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