絆2 〜因縁編〜(13/13)縦書き表示RDF


絆2 〜因縁編〜
作:秋之



終りに…


 そこはカビ臭い、簡素な鉄の本棚が立ち並ぶ場所。首にデザインの光る布を巻いた青年が、比較的新しい資料を読んでいた。

 と、重い扉が開く音がして、カツカツと足音が近付いてくる。


「また読んでるのか、翼」

「……」


 現れたのは、スラリとした長身の青年。冷めた目には、その歳には不相応な微妙な疲れが見える。


「お前の父親が呼んでる。……つい先日捕まえたあの少年についてだそうだ」

「……」

「あぁ。似ている、では済まなくなったようだぞ」


 青年の言葉に頷き、パクパクと口を動かすだけの翼。彼は、生きる代わりに、声を失った。

 相方は、右肩を。

 翼と誇彦。二人は生き残り、そして翼の父親のもと、刑事として職についていた。

 翼の父親の後ろだてがあるせいか、はたまた業績がいいからか、署内ではかなり有名な二人は、つい先日、ある事件に関わった。と言っても、その時、翼はこちらに残り、情報の処理をしていたのだが。

 その事件とは、二人の少年同士の喧嘩、という枠にはおさまらない、死傷事件だった。家出人とされていた少女が殺されており、少女と同居していた少年は瀕死。

 そして、犯人の少年は……。


「拘置所だそうだ。行けそうか?」


 拘置所までの道のりを記した紙切れを翼に渡しながら、誇彦は問う。問われた翼は、開いていた資料を棚に戻して、笑顔で頷いた。

 翼が見ていた資料。それは定が残した、独白じみた遺書だった。

 彼の妹の死んだ場所に放置されていた、くまの人形。それが持つ封筒の中に入っていたディスク。その中身を印刷したものが、この資料。

 資料には、これから会いに行く少年が、いかに危険であり、同時に定自身が危険であったかが書かれていた。

 なんにせよ、それを読み返したところで、今更何もできないが。


「運転はまかせた」

「……」


 駐車場を歩きながら車のキーを翼に放って、誇彦は欠伸をする。

 当時からスーパーボーイと呼ばれていた彼は、今や万能と呼ばれても過言ではない能力を身に付けた。本人に面と向かって聞いてはいないが、ここ最近で、否定していた霊的生命体との遭遇まで果たしたらしい。

 翼には全く分からないが。

 運転席に乗り込んだ翼の隣で、助手席の椅子を倒した誇彦はシートベルトは着けずに横になる。

 軽く困ったような表情になりながらもエンジンをかけた翼は、比較的安全運転を心掛けてアクセルを踏み込んだ。制限速度は破るためにあるのだと思う。















 ガラス越しに対面した少年は、にっこりと笑った。

 数分前に別室で、翼の父親に渡された資料を眺めながら、誇彦は横目で翼を見やる。彼は、ただ少年にみいっていた。

 春日野 名鷹。長い白髪に、常人のそれではない目の光。そして……兄に、定に似ていた。


「久しぶり、お兄ちゃん?」


 少々馬鹿にするような笑みを含んだ声音だが、翼は動じることなく、むしろ笑顔を返した。それも純粋無垢な笑顔を。


「久しぶり、だそうだ」

「あ? あんた、通訳さん? 翼お兄ちゃんは喋んねーの?」


 お兄ちゃん、と言う響きがここまで似合わない人間も珍しいな、と思いながらも、誇彦は名鷹を一別し、首を左右に振った。


「俺は誇彦。こいつの相方だ」

「へ〜。……あぁ! 兄貴が邪魔がってた人ね。分かった分かった。凄い人だ」

「……」


 けらけら笑って、彼が動くたびに、ジャラジャラと音が響く。初めは何だろうな、と思っていた。しかし、それは直ぐに明らかになる。


「凄いって……あんた、どんくらい凄い? 俺より凄いのかよ」

「……」


 名鷹の言葉を聞いた翼が、小さく笑いながら、口を動かした。それを見た誇彦は表情をしかめ、名鷹は肩をすくめて口笛を吹く。


「格からして違うって? 言ってくれんじゃん」


 悪戯っぽく笑う名鷹だったが、翼ははっとした表情で彼を見て、誇彦は目を細めた。

 さも当然のように、翼に答えた名鷹だが、人の口元のみで言葉が理解できる者は少ない。普通はできないはずだ。


「何でそんな顔するんですか〜。普通じゃん、これくらい」


 なんて言いながら、テーブルに上げられた彼の手首には、何重もの手錠が。腕に至っては特殊なテープで巻かれる程の厳重ぶりだ。

 しかし、手錠は鎖が切れてしまった物も混ざっており、その耐久性が気にかかる。まるで、手錠をされたまま、何年も放置されたようなありさまになっていた。

 見せ付けるかのような、彼の力。


『痛い目を見るよ……』


 翼の頭に、あの日、そんなことを言われたな、という思いが浮かんで消える。

 定は気を付けろ、と言う言葉を残した。

 しかし気を付けるも何も、彼は、捕まってそしてここにいる。

 だが、名鷹は、言ったのだ。制限時間がくる直前に。


「ちょっと遊ばねぇ、お兄ちゃん達」


 余裕の見える笑み。遊ぶ時間はない、と言おうとした誇彦を、翼が制する。

 翼は黙って彼を見ていた。

 名鷹が言う遊びが、普通でない事を知りながら、それでも翼は聞いた。聞かねば、始まらない気がしたから。聞かねば、知らぬ内に始まり、終わっている気がしたから。

 そして名鷹は、『ありがとね』と笑ってから言った。


「俺にはさ、ぶっ壊したい物があるんだよ。それを賭けたゲームをしよう」


 面白そうだろ? と笑う名鷹。彼は、分かっているだろうか。自分がどんな状況に置かれているのか。これからどうなるのか。

 しかし名鷹は、そんな心配をあざ笑うかのように続ける。


「俺が壊したいのは人。ある一人の人間。すぐ分かるって。……んで、それを見事守りきれたら、そっちの勝ち。俺が壊しちゃったら俺の勝ち」


 きしし、と笑う名鷹。

 条件はあれど、賞金はないゲーム。いや、賞金は『壊したいもの』の命か。


「あの時のゲームは結果的に負けちまったけど、今度は勝つよ」


 あの時のゲームとは、定が立てた計画のことだろうか。

 ガラスを隔てた壁の向こうで、扉が開き、職員が名鷹にアイマスクを着けた。やりすぎではないか、と思いもしたが、名鷹はひょうひょうとしたまま、確りと立ち上がった。そして去り行く彼の背に、誇彦が尋ねる。


「あの時のゲーム……お前はどうなると思っていたんだ?」


 ぴた、と歩みを止めた名鷹。


「俺は……」


 その当時を思い出す分だけの間を置いて、彼は言った。背中しか見えねども、表情が分かるようなこわねで。


「俺は……全員が死んでると思ってたよ」


 そして、扉は閉まった。















 それから数時間後、一人の少年が拘置所から姿を消した。警察署からトンボ返しに戻ってきた誇彦と翼は、改めて彼の危険性を認識した。

 定の弟。母親から継いだであろう禁断の思考。父親譲りの腕力。そして、彼自身が培ってきた能力。


「……」

「格が違う、か」


 どっちがどう違うのだろう。次々に運び出されて行く職員らと、血化粧で染まった施設内を一眸し、誇彦は呟いた。

 その時、翼は一瞬考えてしまったのだ。もし、この先彼を再度捕まえたとしても……彼を束縛しておくことは出来ないのではないかと。

 蘇るのは、あの日の定の言葉ばかり。

 でもやはり、全てが遅かったのだ。



 やがて、赤コートの死神、と呼ばれる様になる殺人鬼は、こうして野に放たれた。そしてそれは同時に、二人の死神狩りが誕生した日でもある。

 ゲーム上のイベントの様に行われる犯行に、二人は立ち向かう。

 死神が真に狙う者を守る為の、警察容認の特別執行官。二人に与えられた新たな肩書きは、たった一人の少年の為だけにつけられた。

 鳶、と言う名の、死神とは正反対の、華奢な少年の為に。















 これが長い始まりの終わり。

 僕が関わってしまった、異常な物語の始まり。

 そして始まりの物語の結末を狂わせた僕の名を、最後に書いておこうと思う。

 僕が居なければ、とめる者がいなければ、多分、本当に全員が死んでいたと思うから……。



 介入者
  片岡 翼

 生き残り
  百合荻 誇彦






 僕らの話は終わった。でも、僕と誇彦先輩の物語は漸く始まったばかり……

 物語は、続いて行く。


















.


 お疲れ様でした。貴方には壊してしまいたい物語がありましたか? 知りたくなかった真実がありましたでしょうか……。 しかし残念ながら、それが現実なのです。  それでは、また。













ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP


小説家になろう