エドワードが錬金術で、血液を固めた道を進む。
だが、行けども行けども果ては見えない。
「さっきから、どれくらい歩いタ」
リンは疲れた息を吐き出しながら同行者たちに問いかける。
「さぁな」
考えたくもないという返答のエドワード。
「………………」
そして、足元を見つめながら無言のまま機械的に足を前に出し続ける凛。この中でも最も体力がないのは彼女だ。すでに限界など超えている。
「一度、休憩を取るべきだと思うが」
少し先に行ったところに、比較的大きな瓦礫があるのに目を止めたアーチャー。疲労に関して無縁な存在ではあるが、自身の主がかなり厳しい状態であるための提案だ。
「アーチャー。私は……」
「凛。ここで無理をしても何にもならん」
アーチャーは凛に最後まで言わせず、そう断言する。
「そうだな」
エドワードがアーチャーの提案に頷く。自分もリンも体力はまだ残っているが、ゴールの見えない行軍で、精神的には疲労がかなり溜まっている。
一度、休憩するのも悪くはない。
両の手を合わせて錬金術を行使し、アーチャーが示した瓦礫へ向かう道を作る。
瓦礫の上に辿り着いた時には凛だけでなく、エドワードやリンも息が切れすぐさまその上にへたり込んでしまった。
「腹……減っタ」
仰向けに倒れ込んだリンが喘ぐ息の合間に漏らす。
「おまっ、またソレかよ」
とはいえ、エドワードのお腹も先ほどから空腹感を訴えている。
「なんか、食べ物……クレ」
ひどく情けなく、哀れっぽい声を上げるリン。
「なぁ、リン、知ってるか?」
そのリンに、ニヤリと意地の悪い笑みを見せるエドワード。左足の革靴を脱いで振ると中に溜まっていた血液が零れる。
「革製品って食えるんだぜ」
「靴って……お前……」
リンが弱々しく抗議の声を上げるが、エドワードは無視。
「あ、やべ。鍋がねぇ。ま、いっかその辺のモノで錬成してやれ。水は、血液から精製すればいいか」
言いながら着々とお食事の準備を進めるエドワード。
「あんたねぇ。バカじゃないの?」
凛はそれまで一応黙ってはいたが、さすがにこのまま話が進めば本当に靴を食べさせられることになる。
「んだよ、文句あるなら食わなくてもいいぞ」
鍋に水を入れ、火にかけ始めるエドワード。
「文句ならありまくりよ。なんでわざわざ靴を食べる必要があるのよ。あんたの錬金術って物質を分解して再構成できるんでしょ」
「それがなんだよ」
切れる息の合間に言う凛の言葉の真意がつかめず、エドワードが首をかしげる。
「だからっ! そこらじゅうに掃いて捨てるほどある血液から、たんぱく質とか脂質を取り出して肉でもなんでも再構築してやればいいでしょうが」
「お、そうか。その手があったか」
ポンと手を打つ。
「結局、俺は碌でもないものを食うわけカ……靴よりマシだけど……血の塊……マシだけド」
ブツブツと何やら文句を言っているが、それが血の塊であれ、靴であれ食べる事だけはリンの中では確定事項のようだ。
「凛、休憩の間に私はこのあたりを偵察してくる」
サーヴァントであるアーチャーは食事を摂取する必要がない。だから、休憩中の間にも周辺の状況を探ってくる許可をマスターに求める。
「そうね。お願い、アーチャー」
凛が答えると、アーチャーはそこから霞のように消えた。
「な!? 消えた」
その事実に驚く、エドワード。
「さっき、説明したでしょ。彼は幽霊みたいなものだって。霊体化して、このあたりを少し見回ってきてもらっているのよ」
「人一人がいきなり消えて、驚かない方がどうかしている。って、お前、驚いてないな」
アーチャーが消えたところを同じように目の当たりにしていたはずのリンだが、寝そべったまま動揺する気配の欠片もない。
「驚いても……腹は、膨らまナイ」
「あっそ」
呆れてものも言えないとは、まさしくこのことだった。
「すまないナ」
食事を終え、一息ついたところでリンがエドワードにそう切り出した。
「何が?」
リンを見るエドワードの方は、本気で何を謝られているのか理解できないといった体だ。
「俺をかばったばかりに、こんなところに放り込まれて、えらい目にあってサ」
「別に。こんなんガキの頃の修行に比べりゃ、大したことない」
血の海に囲まれ、ここからの脱出のための出口すら見えない暗闇の中でも、エドワードはこの状況を『大したことはない』と言い切る。
「一体、どんな幼少体験ダ……」
「確かにここがどこかは分からんが、ピンシャンしてるから出口探せるしな」
片膝を立てそこに肘を乗せて、息をつく。
「前向きだナ」
「つぅか、生きることにねちっこいだけだ」
ニィと笑うエドワードには、無理をしている様子はない。
「ちょっとでも諦めたらアルの鉄拳が飛んでくるからな。っと、おい、遠坂。遠くへ行くなよ」
瓦礫の下におり、血の海に突き刺さっている他の瓦礫を見て回っている凛にエドワードが声をかける。
「ね。さっきからずっと思っていたんだけど。ここにある瓦礫って、時代バラバラじゃない?」
瓦礫の山を見上げながら、凛が二人に問いかける。彼女がここに来る途中に見たのは、列車の残骸だった。今この辺に占める多くのモノは、どこかの神殿の遺跡のような石材で造られている柱や壁の一部。
「どういうことなのかしら?」
近くの柱に手を当ててみる。冷やりと冷たい感触が手のひらに伝わる。大理石のような硬い石は、表面が綺麗に磨きあげられ柱の頂上には精緻な彫り物が刻み込まれている。
「そういや、その柱の様式、どこかで見たような……」
「おイ! 遠坂だったナ。こっちに戻レ!」
唐突にリンが緊迫した声を上げる。見ると、リンは青白い顔で暗闇の向こうを睨みつけている。
「どうしたのよ」
その必死な形相に驚いていた凛だが、彼女もまたビクンと大きく体を震わせて、リンと同じく闇の彼方を見通すように視線を向ける。
「んだよ」
「何か……来るわ」
一人だけその気配に気づいていないエドワードに凛が言う。そうこうしているうちに、ザバザバと水音が聞こえ始める。
「あらら、明りが見えるからもしかしたらと思ったら、お前たちかよ」
そう言いながら松明の光の輪の中に、へそ出し半ズボンの黒髪の少年が入ってきた。
「何よ……アレ」
ソレは、少なくとも見た目通りのモノではないと凛の感覚が告げる。感触的にはサーヴァントに少しだけ近いが、全くの別物。魔力とも違う、非常に濃いエネルギーの塊が人間の姿をしている。凛が知る中で、あのエネルギーに最も近いのは、キャスターが柳洞寺に貯め込んでいた、人の生気を集めたモノ。だが、アレよりもずっと醜悪でえげつない。
あれが、彼らのいうホムンクルスなのか。
そう思い、エドワードたちの方を見ると。
「出口教えてクダサイ!!」
いきなり下手に出ているエドワードがいた。
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