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第一章 異世界への転移
第三話 錬金術とは
「こちらがどう説明したところで、私たちの素性を現段階では理解しがたいだろう」
 
 今のまま話が進めば、泥沼化するのは目に見えている。だから、アーチャーは話の矛先を転ずるために口を開いた。
 
「こちらも、この状況にいきなり巻き込まれたものでね。自分自身について証明できるものは何もない。ここは私たちの正体の究明よりも、この状況の打破のために協力し合うべきではないか?」
 
 至極もっともな提案を理論整然と述べる。
 
「私たちも、ここがどこで一体何が起こっているのか、全く把握できていない。だから、少なくともそれが明確になるまでは、君たちと敵対しないことを約束しよう」
 
「そうだな。オレたちとしても、さっさとここから抜け出したい。こんなところで、不毛な論議を繰り返すよりも、協力し合う方が建設的だ」
 
 付け入る隙のない正論。これまでの、魔法少女やしゃべるステッキなどに比べればずっと説得力のある話に、エドワードが頷く。リンの方もそれでいいという視線を送る。
 
「それじゃ、取りあえず現状の把握から始めましょ。私たちの方は、アレだから参考にならないけど、そっちはどうやってここに来たのよ。ホムンクルスに飲み込まれたとか言ってたわね」
 
「ああ。けど、アイツの腹の中がこんなに広いはずはない」
 
 エドワードが近くのガラクタに背中を預け、口元に手を当て考え込む。
 
「だが、見ろよ、こレ。俺たちがいた廃屋ダ」

 と、リンが瓦礫の一つを指さす。それは、木製の小屋と思わしきものの一部だ。
 
「な!? そういや、コレも中尉が乗ってた車!」
 
 自分の背中を預けているモノが、車の残骸であることに気がつきエドワードが声を上げる。
 
「んじゃ、マジでここって腹の中?」
 
「さぁナ。エンヴィーが俺を飲ませたがっていたくらいダ。ここがろくでもない場所だってのは、確かだろうケド……」
 
 リンは、松明をかざし周囲を見回す。
 その時、何かが光に反射したのにエドワードが気がついた。
 
「あ!?」
 
 リンから松明を奪い取り、血の海をかきわけて小山のようになっている土くれに上がっていく。
 
「リン、これ!」
 
 エドワードが掲げたのは、鉄製の鎧の左手の部分の一部。切れ目が、鋭利な刃物で切り裂かれたように滑らかだ。
 
「アルの手か?」
 
「手だけってことは、本体はこっちに来てないってことだよな」
 
 エドワードがほっと息をつく。
 
「けど、アル、心配しているだろうな……」
 
 真っ暗な空というべきか天井と表現すべきかわからない、上方を見上げる。
 そして、おもむろにエドワードは鎧の左手を掲げた。
 
「ぬおおおおおおお!! 都合よく目覚めよ。オレのテレパシー!!!! 届け、弟よ!!」
 
 力いっぱい、何かの念を送り始めるエドワード。
 
「一人でやってロ」
 
 リンは呆れて突っ込みも入れてやらなかった。
 
 
 
 
 
 
 そんな二人の真面目なのかふざけているのかいまいち判別しがたいやりとりを、凛とアーチャーは黙って見ていた。
 思いっきり部外者である自分たちが会話に入るよりも、彼らの会話を聞いていた方が得られる情報も多い。
 彼らは、おそらくホムンクルスと敵対関係にあること、軍関係者とも敵味方は不明だがなんらかの関係を持っていること、エドワードの弟はどうやらこの事態に巻き込まれずに済んだことなどが理解できた。
 
「それにしても、『腹の中』ってどういう意味かしら……」
 
 エドワードたちの会話の中に何度も出てくる『腹の中』という単語に凛が首をかしげる。
 
「さて、彼らの会話からすると暗喩や比喩の類とも思えん。本当に、腹に飲み込まれたという言う意味だと判断するのがよさそうだが」
 
「……ねぇ、ルビー。本当に、あんた一体どんな世界に放り込んでくれたのよ」
 
「いや、まいっちゃいますよね。初回から、わけのわからない状況のうえ、文字通りの血の海なんて惨状じゃ、視聴者が引いちゃいますよ~~」
 
「あんたに、聞いたって頓珍漢な答えが返ってくるだけだって分かってたのに、聞いた私がバカだった」
 
 あまりにわけのわからない答えが返ってきたせいで、目眩すら覚えてしまう。
 
「失礼ですね。私は、いつだって真面目に(凛さんが面白可笑しい目に会う方法を)考えていますよ」
 
「どっちが失礼なのよ、このバカ杖!」
 
「凛」
 
 アーチャーが名前を呼ぶ。一瞬、大声をあげたことに対するものかと思ったが違う。
 エドワードが何かをするらしい。
 両手を胸の前で柏手のように叩く。そして、その両手を血の海の中につける。途端、青い電光が走り、地面から半径1mくらいの円筒が生えてきた。
 
「何? あれ?」
 
 魔術ではない。魔力の発動は感じられなかった。
 なのに、まるで魔術のような経過と結果をもたらしている。
 
「ん? 錬金術を見るのは初めてなのか?」
 
 エドワードがアーチャーと凛の視線に気がつき、首をかしげる。
 
「今のが、錬金術?」
 
 錬金術にも様々な流派があるが、その中でも魔術の世界で最も力を持っているのがエジプトに居を置くアトラス院の一派。思考分割や高速思考といった人体を演算装置とする術に特化している分、魔術回路が少ない。そのため単体では自然干渉系の術は使えないが、武器や兵器の製造に優れているという特徴を持つ。兵器を作る目的は世界の破滅を防ぐためだという話だが、院に秘匿されている兵器自体が世界を破滅させることが可能であるという本末転倒な研究をしているらしい。魔術協会以上に秘匿性が高く、彼らに関する情報はほとんどといっていいほど流出することはないため、これ以上詳しいことは分からない。
 
 エドワードの錬金術が、アトラス院の錬金術とは異なっているのだけははっきりした。なぜなら、すくなくとも全く魔力を使っている様子のない上、道具を使っていない。
 
「……薄々は分かっていたけど、どうやら平行次元ところか異世界への転移に巻き込まれたみたいね」
 
 ため息を吐き出す。
 しかし、落胆していても事態が改善するわけではない。エドワードたちの話は、情報のすり合わせから、この場所の解明へと話が進んでいる。自分たちも参加すべきだと判断し、彼らの元へと歩み寄った。
 エドワードが造った円筒の中を覗き込んでみる。円筒によって血液が遮られ、黒い地面が露わになっていた。
 
「……血の塊のようだな」
 
 凛の隣から覗きこむアーチャーの言。
 
「ああ、そうみたいだ」
 
 円筒の中にいるエドワードが地面を構成している物質を拾い上げる。指の間に挟むだけでグズグズと崩れ落ちていくほどにもろい。
 
「とりあえず、穴を開けてみるか。えっと、血液の成分が、たんぱく質、脂質、尿素、鉄分にその他微量元素か……」
 
 呟きながら先ほどのように両手を合わせたあと、地面に両手をつくと今度は地面にポッカリと底の見えない穴が開いた。
 
「それどうやってるのよ」
 
「ん? 両腕で輪を作って力の循環と構築式をたてて、物質の構成元素を分解させたんだよ。今回は、血液の成分だけに限定して分解した。だから、血の塊の底にある本来の地面がこの下には露出しているはずだ」
 
 凛の質問に答えながら、エドワードは穴の中に松明を一つ投げ込む。投げ込まれた松明は暗闇の果てに向かって落ちていくが、地面に落ちる音がしない。
 
「おい、あんた、見えるか?」
 
 先ほど、目の良さを証明したアーチャーにエドワードが問いかける。
 
「いや、何も見えんな」
 
 肩をすくめてあっさりと答える。
 
「ちょっと、あなたの言う錬金術ってもしかして、現代錬金術のこと?」
 
 そんな結果は大方予想通りだからどうでもいい。凛は、エドワードに詰め寄る。
 
「だー! さっきからうるさいな。現代も古代も知るかよ。オレがやってるのは、錬成陣を書くって過程をすっ飛ばしてはいるが普通の錬金術だ。物質の理解、分解、再構築っていう3段階に分けて、構成や形状を変えて別のモノに造り変えてるんだ」
 
 噛みつくようにそれでも、錬金術について簡単に説明をしてくれるエドワードは、こう見えてもお人よしなのかもしれない。
 
 とはいえ、そのおかげで彼の使っている錬金術が少しだけ理解できた。物質の変換や構成を変えて別の物に造りかえるという近代錬金術に近いもののようだ。どちらかといえば化学に近く、魔力を使っていないことから、魔術とは異なる本質を持っていると考えられる。
 
「そっち系は専門じゃないのよね」
 
 組成や化学反応などは、ウィッチクラフトとも無関係ではないため勉強してはいるが、専門ではないため取り立てて詳しいわけではない。だが魔術の中にも物質の転換を行う術式があるし、西洋魔術に傾倒している現代錬金術もある。おそらくはそれらが一番彼のいう錬金術に近い。もっとも、様式や方式は全く異なっているため、今のところは、ソレに近い技術だという理解に留めておくよりほかない。
 
「っと、そうだ」
 
 エドワードは腰に下げていた一丁の銃の存在を思い出す。それを手に持ち、しばしの間睨みつけるが、息を吐いておもむろに何もない空間に向かって放つ。今度は逆方向に。そして思いついて上に向かっても放つ。
 
「右も左も上も反響音ナシ」
 
 リンが断ずる。
 
「ありえねー。なんだよ、この広さ」
 
 髪をかきむしるエドワード。
 
「しゃーない。歩いていけば、そのうち果てにつくだろ。あんたらもそれでいいか?」
 
 凛とアーチャーの方へ確認を取る。
 
「そうね。それしかなさそうだもの」
 
 凛が答え、アーチャーもそれに同意して頷く。
 
「よっし。それじゃ、行こうか」
 
 ザバザバと血の海をかきわけて歩き出す少年二人。それを見送る凛とアーチャー。
 
「って、なんで一緒に来ないんだよ!!」
 
 振り返ったエドワードが、地団駄を踏む。そのたびに、足元の血液がジャバジャバと跳ねる。
 
「え? だって、あんたが錬金術で足場を作るって思ってたから」
 
 こんな足を取られるような血の海の中をこれ以上歩いていたくないわよと、言ってのける凛。
 
「あ」
 
 かぱっと口を開いて、呆けた顔をしたエドワードからすると、その考えはなかったものと推測された。
 
 
6月まで待たせるのは、非常にまずいかと思ってみて。
今回頑張ってみました。
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