第一章 異世界への転移
第二話 混沌としつつある事態
「は?」
『国家錬金術師』という少年の自己紹介の中に出てきた聞き慣れない単語に、凛が疑問符を浮かべる。
「悪かったな。国家錬金術師に見えなくて」
だが、エドワードは全く別の意味で凛の反応を捉えていた。
頬を膨らませて、ふてくされる。おそらくは『小さく』て国家資格を持つようなすごい錬金術師には見えないという意味合いのことを何度も言われてきたというのが凛にも分かる。
「あ、別にチビなのは、どうでもいいのよ」
だが、凛にとってソレはどうでもいいこと。それよりも、彼の言葉から少しでも多くの情報を収集することが現状では最も優先される。
「……どうでも……いい……」
チビという単語に反応を示すものの「どうでもいい」と言いきられて、怒鳴り散らすべきなのかを悩みだす。これまで、チビと馬鹿にされてきたことは星の数ほどだが、身長が低いのをどうでもいいと言いきられたのは初めてで、対応に戸惑っている。
「国家ってことは、国家資格ってこと? そんなの聞いたことないわよ。だいたい、秘匿すべき技術なのに、国家資格なんてありえないじゃない。そもそも、資格ってなによ。錬金術に資格なんて必要なの?」
一方凛の方は、また別の困惑で首をかしげている。口元に手を当て思索モードに突入していく。
「エドワード、と言ったな。ここは、一体なんなんだ?」
それぞれで全く見当違いなことで悩みだす少年少女たちに半ばあきれ、このままでは話が進まないと判断し、アーチャーがエドワードに問いかける。
「オレが知るかよ。むしろ、オレの方が聞きたいくらいだ」
エドワードは、肩をすくめる。
「ふむ……つまり、君はもともとここにいたわけではないというわけか?」
「ああ。グラトニーに飲み込まれて、気が付いたらここにいた」
「グラトニー?」
全く聞いたことのない単語に、アーチャーが眉をひそめる。エドワードとの会話で先ほどから感じられるのは、知識の齟齬だ。聞いたことのない単語が出てくる上、同じ単語でも、微妙に意味合いが異なっている。面倒でも一つ一つ確認していかなければ、誤解や勘違いを生じる可能性が高い。
「ホムンクルスだよ。腹がバックリ開いて、何でもかんでもバカスカ飲み込みやがる。オレのほかに、リン・ヤオって奴とホムンクルスのエンヴィーが一緒に飲み込まれたのと思う。もしかしたら、オレの弟も飲み込まれているかもしれない」
そう言って、エドワードは小さく掛け声を一つ入れ勢いをつけて立ち上がる。
「あんたらも、ホムンクルスに飲み込まれたのか?」
「いや。私たちは、飛ばされた、というべきなのかね。凛?」
一応、専門家であるはずの魔術師へと質問を振る。
「ま、そういうところでしょうね」
アーチャーに声をかけられ、我に帰る凛。思索モード中でも、会話は聞いていたらしく、凛は首肯する。
「どこぞの誰かが、面白可笑しい展開を求めて、平行次元への転移なんてやらかしてくれたのよ」
「平行次元? なんだそりゃ」
今度は、エドワードの方が凛の言葉を反芻する。
「簡単にいえば、パラレルワールド。別の可能性を選択した世界ね。あ、信じてくれなくてもいいわよ。別に信じてもらおうなんて思ってないし。たんに、ここでウソついたり誤魔化そうとすると、余計に怪しまれるだけだから、説明しているだけよ」
あっさり、ざっくりと凛は真実を明かす。このあたりは、隠したところで意味がない。もっとも話したところで、信用してもらえるとも思ってはいないが。
「ウソかホントか、疑うか信じるかは、取りあえず後回しにする。そんなことよりも、ここを脱出するのが先決だ。せめて、バカ皇子と合流したい」
「賛成。ところで、バカ皇子って誰よ」
「さっき話に出た、リン・ヤオってシンの国の皇子様だよ。よく行き倒れて、ナンパしているバカだ」
「何よ、それ……」
今度は聞いたことがない国名だ。どんな国かは知らないが、行き倒れるナンパ師が皇子様とは、色々と突っ込みどころがありすぎて頭を抱える。
「凛。誰か来る」
アーチャーが凛に囁く。
彼が見ているのは、彼方の暗闇だった。
「おまっ、見えるのか!?」
エドワードがアーチャーの見ている方角へと視線を向けるが、暗闇ばかりで何も見えはしない。
「ああ。向こうが、明りを持っているからな」
「どんな奴だ?」
「黒いコートに黒髪の若い男だ。髪は後ろに一つで束ねているな」
アーチャーがこちらに向かってきている人物の容姿を簡単に説明する。
「ってことは、たぶんリンだ。おーい!! バカ皇子!!!!」
エドワードが声をあげて、向こうにいる人物に呼び掛けると、ザバザバと血の海を掻きわける水音が聞こえてくる。おそらく走ってきているのだろう。
「お前、一国の皇子に向かって何たる言い草ダ」
そう言って松明を掲げながら歩いてくる人物の姿が、今度はエドワードや凛たちにも確認できた。流暢な英語だが、僅かに訛りがある。おそらくは、シンという国は言語が違うのだろう。
「ん? そっちの二人は誰ダ?」
リンが、新顔の二人を指さしてエドワードに問いかける。
「こいつらは……っと、お前、本物か? エンヴィーが化けてたりしないよな」
説明をしかけるが、その前に確認すべきことを思い出し、警戒心丸出しの顔で、問い詰める。
「あのナ……なんなら、君らが泊っていたホテルで俺たちが食ったルームサービスのメニューを上から言ってやろうカ」
「よし、本物だ」
「そっちこそ、ニセモノじゃないだろうナ。このマ……」
「誰が、豆粒ドチビだ!!」
リンにみなまで言わせず、拳を固めて殴りにかかるエドワード。
「よし、本物だ」
それらを全て綺麗に受け流すリン。
「………………あんたら、一体何を確認しあってるのよ」
二人の少年によるテンポの良い漫才のようなやり取りだが、凛にはさっぱり理解できない。
「ホムンクルスに、エンヴィーって変身能力を持つ奴がいるんだよ」
「変身能力……」
エドワードの説明に、凛は頭を抱える。魔術師である凛は錬金術には詳しくないが、それでも複数の姿に変身できる能力を持つホムンクルスなど聞いたことがない。
「それで、エド。そっちの二人は何者ダ」
リンは顎でシャクって二人を示し、改めて彼らの素性を問いかける。
「そっちが遠坂凛で、もう一人がアーチャーだと。んで、何者なのかは問い質しているところだ」
「…………そっちの、女の子は別にしても……お前、本当に人間カ?」
細い目を見開き、鋭い眼差しでアーチャーを睨みつける。
「な!? リン、どういう意味だよ! こいつらが、ホムンクルスだとでも言うのか?」
声を上げ、エドワードは凛とアーチャーの二人を交互に見やる。
「いや、ホムンクルスとは少し違う感覚ダ。だが、人間の気配とも……違ウ」
エドワードの問いに首を横に振るが、彼としてもアーチャーの正体を断言することはできない。
リンの猜疑、エドワードの不審。それぞれ二つの視線をアーチャーは受け止めることになった。
二人から猜疑の目を向けられたアーチャーが息を吐く。
「さて、どう説明したものか」
腕を組んで考え込む様子を見せるが、そこに焦りや戸惑いはない。
「そうだな。一番近いのは、実体化することができるゴースト、というところか」
「な!? お化けってことか!?」
すごい勢いで後ずさっていくエドワード。
「もしかして、お前お化け怖いのカ? ホムンクルスみたいな化け物は平気なくせ二」
あまりに分かりやすい反応を示すエドワードにリンが突っ込みを入れる。
「べ、別に、怖いなんて思ってない。単に、科学的に説明できない存在が苦手なだけだ!!!」
威勢よく声を張り上げるが、どこか張り子のトラじみて見える。
「まぁね。こいつはある意味、科学とは対極の存在だしね」
凛は、腕を組んで息を吐き出しつつ頷く。できれば隠しておきたい事柄だったが、あっさりとバレてしまった。とはいえ、勘のいい人ならばアーチャーが半霊体であることに気がつくことが可能。だから、バレたことそのものはさして気にもしていない。問題は……
「なんで、そんな奴を連れてるのかってのと、一緒にいる私が何者なのかって話になるわよね、当然」
アーチャーに向けられていた猜疑の視線が、凛にも向く。
「まいったな。どう説明すればいいのか」
眉をひそめる。魔術は秘匿すべきものだが、この状況では彼らと協力するためにもある程度の情報の開示は必要だろう。だが、二人がどんな人物なのか分からない中でどこまでどう説明すべきなのかを迷う。
「悩む必要なんてないですよ。魔法少女と、使い魔で十分です」
唐突に聞こえてきたその場にいないはずの五人目の声に、二人の少年が目を丸くする。
「……あんたは黙ってて。話がややこしくなるだけだから」
小さな女の子がステッキに向かって話しかける様子に少年たちの生温かい視線が交錯する。
「杖が、しゃべってる?」
「あんたら、本当に何者ダ?」
警戒というよりも、今度は色々とイタイ人でも見たような意味合いが強い問いかけになる。
「そういや、あんたさっき平行次元への転移がどうとか言ってたな」
「なんだそれハ?」
妄想と現実を区別できない思考過程の持ち主なのではないかという疑念が二人に沸いている。
「ああ、もう。どうすんのよ、この事態……」
混沌としつつある事態に、凛は頭を抱えた。
とりあえず、ここまで。
続きは、プリズマ☆イリヤ クロスの方の話が終わってからになります。
だから、たぶん……六月?
小説家になろう 勝手にランキング
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。