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一応、前作は「不思議な士郎とアーチャー」になりますが、読んでいなくても全く問題ありません。
また、「プリズマ☆イリヤ クロス」とも全く関係のない話になります。
ようは、飛ばされた先が「プリズマ☆イリヤ」の世界か、「鋼の錬金術師」の世界かの違いだけです。

第一章 異世界への転移
第一話 血の海の中への転移
「一体、ここはどこなのよ!!」
 
 真っ暗な空間の中で、声を上げる十歳前後の少女が一人。
 奇抜とさえ言われそうな、金色のアクセントが付けられた派手な赤い衣装。機能よりも見た目を最優先にしたそれは、数年前のアイドルや魔法少女と言われればしっくりくるかもしれない。
 もっとも、この衣装は本人が望んで身につけたものではない。やむにやまれぬ事情があってのことだ。
 
「やむにやまれぬって、単なるウッカリじゃないですか」
 
 どこからともなく、可愛らしい少女の声で突っ込みが入る。
 
「人の心を読む様なマネはしないでよね、ルビー」
 
 手に持っているステッキに話しかける少女。
 
「一体、あんた、どこに飛ばしてくれたのよ。暗いし、やたらと鉄くさいし、下はぬかるんで歩きにくいし」
 
 辺りは、暗く自分の手元がようやく見える程度。その光源は、彼女が持つステッキだったりする。青白く不気味に灯るステッキは、杖の頭の金色の円の中に五つの頂点のある星を持ち、両端に白い羽をつけている。一見すれば女の子のおもちゃのような印象さえ与える。
 だがその杖の持つ禍々しいほど底抜けに明るく、何か企んでいそうな朗らかな雰囲気は決しておもちゃなどでは持ちえないものだ。

 唯一の光源であるステッキをかざして周囲を見回してみる。
 だが、視界に入るのは地面一面に広がる生臭い鉄のような異臭を放つ液体と、ガラクタの山。大きいモノはどこかの遺跡の石材やら何かの建物の素材である木材、あるいは機関車などの鉄材といった統一性のない瓦礫。その中に、時折混ざっているのは朽ち果てた白骨。かろうじて形の残る衣服をまとったものから、砕かれバラバラになりどこの部位の骨か分からないモノまで。少なくとも生きているモノの気配は見える範囲には感じられない。
 また、異様なほどの静けさはまるでこの空間の中に音の全てが飲み込まれているようだ。自分たちの会話の音声すら、どこに響くわけでもなく、暗闇の中に解けて消えていく。
 
「おっかしいですね~~、このあたりに魔法少女っぽい騒動があると思ったんですけど……」

 非常に呑気で、自己中心的な感想を述べるステッキの言動に、持ち主の精神は爆発寸前だ。
 
「この状況のどこが、『魔法少女っぽい騒動』になるのよ。だいたい、魔法少女っぽい騒動って何? ソレっぽい敵と私を戦わせたいわけ!? ていうか、人をそんなくだらない妄想に巻き込まないで!!!」
 
 杖頭についている羽の両端を思いっきり引っ張り上げながら、一息で声を張り上げまくしたてる。
 
「はわわわわ、よくそれだけ大声で一気にしゃべれますねぇ」
 
 叫びすぎて息を切らしている少女と、ひたすら感心するステッキ。少女がどれだけ怒鳴り散らそうとも、このステッキにとってはのれんに腕押し、糠に釘でしかない。
 
「ほんっとに、相も変わらずあんたとは会話が成立しないわね」
 
 額には青筋すら立てており、可愛らしい格好がかなり台無しな状況である。
 
「凛、漫才もその辺にしておけ」
 
 そんな少女に呆れた声をかける、赤い外套に黒い革鎧を着た騎士が一人。焼きついたような白銀の髪に灰白色の瞳、浅黒い肌の色の十代後半の少年の姿をしている。端麗とは言い難い容姿だが、やや童顔ではあるものの精悍な容貌は一度目にすれば忘れられない印象を残す。
 
「あ、アーチャー。あんたも巻き込まれてたんだ」

 たった今、彼の存在に気がつきましたとばかりの口調で話す凛。
 
「……ああ。君が、うっかりどこぞの金ぴかの宝具で若年化し、私まで同じ宝具で若返りをさせられた時からいる。あげくの果てには、君がサーヴァントへの魔力供給のために慌ててその愉快型魔術礼装を振りかざして変身し、別次元へと転移させられるという滅多に味わえないような体験までさせてもらっているよ」
 
 アーチャーは凛のちょっとした可愛らしい皮肉に対して倍返しとばかりの厭味な口調で、淡々とこれまでの経緯を説明してくれる。
 
「この、ひねくれサーヴァントめ。もうちょっと、この事態に慌てたらどうなのよ」
 
 異様な事態に対してあまりにも冷静沈着すぎる自身のサーヴァントに、無茶な注文を出す凛。
 
「マスターが、マスターなのでね。どんな状況に置かれても対処できるよう常に心構えをしているだけだ」
 
 アーチャーはそんな凛の言葉を流して肩をすくめ、周囲を見回す。
 
「それにしても、平行次元の転移先が血の池地獄とは、気が利いている」
 
 くっと、口元を歪めて厭世的に嗤う少年。
 
「あ、やっぱり、これ血なんだ」
 
 凛が足元を軽く蹴る動作をすると、バシャと重たい音がして足元に液体が纏わりついてくる。
 鉄錆の吐き気すら促す強い臭気。暗闇の中で僅かな光源では液体の色まで判別することがかなわなかった。けれど膝下まで浸かる液体が血液である可能性を凛も考えていたため、さしたる驚きはない。
 
「つまらない反応ですね凛さん。そんなんじゃ、魔法少女になれませんよ。きゃー、なんなの、コレ? 血? 血なの? とか、騒いでその挙句ウッカリ転ぶドジっ子プリを披露した上、いや~~って泣き叫んでくれたら萌える魔女っ子なのに」
 
 もったいないと、羽で器用に肩をすくめる。
 凛は、無言でふざけたことをのたまうステッキから手を離す。当然のことながら、ステッキは重力に引かれて、血の海の中にぽちゃんと音を立てる。
 
「きゃ~~血? 血です! いや~~~」
 
 泣き叫ぶルビーのワザとらしい哀れっぽい声。しかしこの場の誰も、このステッキに対して憐れみの視線を向けることはない。
 
「それにしても、本当に真っ暗ね。何も見えないわよ」
 
「いや、数キロ先に、小さいが明りが見える」
 
 血の海の中でバタバタともがいて遊ぶルビーを完全に無視して、アーチャーと凛が会話を進める。
 
「すごいわね。視力を強化しても、全然見えないわよ」
 
 凛は魔力を眼に流してみるが、暗闇以外何も視界に入ってこない。
 
「アーチャーの視力は伊達ではない。行くあてもなし、アレに向かって進んでみるとしよう」
 
 取りあえず、明りのある方角に向かって進んでいくことに話が決まる。
 
「ほら、ルビー。遊んでないで、さっさと行くわよ」
 
 血の海で、バタバタしているルビーに一応、声を掛ける。
 
「…………はぁ、このまま置いていかれても、面白くありませんしね」
 
 血の海から、浮かび上がりプルプルと身体(?)を振って、付着している血液を落とす。
 
「はいはい。こんな危険物を置いていくわけにもいかないし。仕方ないから連れて行ってあげるわよ」
 
 凛は嫌々ながらもルビーの柄を取って、アーチャーの後を追った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ほとんど明りのない空間で、しかも足元はひざ下くらいまでの血の海。血液は足にまとわりつくように重たい。しかも血液の下は一歩足を入れる度に沈みこむ泥となっている。そのせいで、足をあげるという行為だけでも労力を必要とする。おかげで、少し歩いただけでも息が上がってしまう。とくに今の凛は、若年化して十歳にも満たない身体である。体力もそれ相応のモノでしかない。
 
「っ……」
 
 そばの瓦礫らしきものに手をつき、切れる呼吸を整える。汗が眼に滴り落ち、それを拭いとる。さして距離を歩いているわけではないが、血液に足を取られて歩きにくく、体力の消耗が激しい。
 その凛の身体が、唐突にひょいと持ち上げられた。
 
「全く、君が弱音を吐くまで待っていては、日が暮れてしまう」
 
 アーチャーは、凛を横抱きに抱えあげて、先に進み始める。
 
「そんなの……待たないでよ」

 顔をしかめ、凛が攻撃の声を上げるがそれも弱々しい。それだけ、体力がこの行軍で奪われたのだ。
 
「そうでなければ、下ろせと言うのではないのかね」
 
 アーチャーの言葉を否定しきれない凛。もしも、ここまで体力を消耗していなければ、無理やりにでも下ろしてと騒いでいた。
 その場合、アーチャーが前置きもなしに抱き上げるというのが前提になるのだが、間違いなく妙なところで気が利いて、おかしなところで無頓着なこの男は、そうする。
 だが、何があってもおかしくない状況だ。できれば、アーチャーの両手は開けておきたいと考え、凛は自分の足で歩くつもりだった。それを、アーチャーに伝えようとするより先に、彼が口を開いた。
 
「それに、少々面白いものを発見した。少し、先を急ぎたい」
 
「何よ、面白いものって」
 
「さて。鬼が出るか、蛇が出るか、というところだ」
 
 そう言って、アーチャーは血の海に足を取られているとは思えぬほどの速さで駆けだした。その速度は、少なくとも、彼の腕に抱き抱えられている凛が思わず声を上げそうになり、彼の赤い外套にしがみつく程度のもの。
 
「ふむ……凛、これをどう見ればいいと思う?」
 
 上から声をかけられ、凛は閉じていた目を開く。声をかけられて初めて自分が目を閉じていたことに気がつき、少し悔しさを覚え唇を軽く噛む。
 凛は深呼吸を一つした後、アーチャーの示すものを見る。
 
「…………っ! アーチャーおろして!」
 
 下に降ろされた凛は、すぐさまそれへと駆けよる。
 それは、仰向けで血の海に浮いている少年だった。後ろで一つにくくられている髪は、血に汚れているが金色。やや粗野な印象を与えるが、整った顔立ち。日焼けして健康的な肌は白色人種のもの。身長は現在の若年化しているアーチャーと同じか少し低いくらい。特に目を引くのは、黒い上着から出ている右手。硬質な金属でできた手なのである。拇指対向性の手は実際の人のモノよりもやや大きいが、関節までも精巧に再現されており、おそらく何不自由なく動かすことが可能だろう。

 凛が知る技術の中には、ここまで機械的な義肢はない。
 四肢の一部が欠損した場合、魔術であれば人形作りの技術を応用して補うのが一般的だ。最高クラスと言われるアオザキ製の物ならば、本来のソレと全く同等のものをつけることができる。
 科学であれば、確かに機械的なものにはなる。それでもここまで精緻なモノはまだ開発されておらず、また基本的に義肢は本物に近づけることを目標としているため、ここまで金属質なモノは珍しいといえる。

「アーチャーはこういう義肢を見たことある?」
「いや。義肢は幾つか見知っている。魔術的なモノも、科学的なモノも。だが、これは初めて見る」

 一応、アーチャーにも確認して見るが、彼も知らないとの答え。
 見たことや聞いたことがないから、ありえないとは言うつもりもないが、少なくとも彼が特殊な存在である可能性は否定できない。もっとも、こんな血の海の中で一人浮いているのだ。それだけで、特異性は十分だろう。

 とにもかくにも、彼に話を聞くのが先決。少年の胸は微かに上下しており、少なくとも生きている事だけは確かである。
 詳しいことを調べようと、顔を近づけた瞬間、少年が目を覚ました。少年の透き通るような真っすぐな金色の瞳と目が合った。
 
「うどわぁあああ!!!!」
 
 少年が、言葉にならない悲鳴を上げ、ばね仕掛けのように上体を勢いよく起こす。そして、少年の顔を覗き込んでいた凛と正面衝突。
 二人は、あまりの痛みに言葉もなくその場でうずくまった。
 
「まったく、何をやっているんだ」
 
 上から、呆れた声をかけるアーチャー。
 
「あんたら、一体何者だ?」
 
 金髪の少年が、血の海の中で尻もちをついたまま、二人を睨みつける。
 
「……英語ね」
 
 凛は少年が口にした言語に少しほっとした。
 まるで、異世界か別の星にでも来たかのような光景に囲まれてはいるが、取りあえず初めて出会った人間には言葉が通じる。
 
「何者と問われても、さて何と答えるべきか」
 
 真剣なのか、ふざけているのかいまいち掴みにくい口調で言い、腕を組むアーチャー。
 
「私たちは、ここに放り込まれたばかりでね。右も左も分からず、途方に暮れているところだ」
 
「…………ホムンクルスじゃないのか?」
 
「ホムンクルスって……フラスコの中の小人のこと?」
 
 少年の口から唐突に出てきた、錬金術の専門用語を凛が反芻する。

「フラスコの中の小人なんて可愛いもんじゃないぜ、アレは」

 苦々しい口調で吐き捨てるように言う。よほど、彼はそのホムンクルスに厄介な目にあわされてきていることが想像に難くない。
 
「なんにしても私は、人間よ」
 
 はっきりと、凛は断言する。あえて、自分のことしか言わないが。状況も分からず、少年が何者なのかもはっきりしない中で、アーチャーの正体を明かすメリットは何もない。
 
「んじゃ、名前。何て名前だよ」
 
 血の海の上で胡坐をかき、少年がぶっきらぼうに質問を重ねる。辺り一面血なまぐさい臭いが充満している中でのその態度。少年もなかなかにずぶとい神経をしていることが見てとれる。
 
「私は、凛。遠坂凛。あっちは、アーチャーよ。というか、私たちにばかり答えさせてないで、そっちも名前くらい名乗りなさいよ」
 
「ん、ああ。悪かった。オレは、エドワード。エドワード・エルリック。国家錬金術師だ」
 
 金色の髪と金色の瞳の少年が、銀の鎖に繋がれた銀時計を見せながらそう言った。

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