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永遠の旅人

幻のキノコ

作者:宗像竜子
 果たしていつの時代か、いつの王の御世か。
 クアストゥール──『寄せ集め』と呼ばれる大陸群に、一人の冒険者がいた。
 彼の名は歴史の何処にも残されていない。しかし、遥か後世にまで、その足跡を語り継がれる事になる人物である。
 その詳細な出自こそ謎に包まれているが、彼はいくつもの大地が連なるクアストゥールの全てを踏破し、そしてそこで様々な物語を残した。

 これは、その無数とも言える物語の一つである──。

+ + +

 緑深い山中、向き合う二人の男がいた。
「オレが探す『ゴールデン・マッシュルーム』というキノコはだな、そんじゅそこらのキノコとは違うんだ」
 と、神妙な顔をしてそんな事を言ったのは、二人の内、中年にさしかかった辺りの男。顎に蓄えた豊かな髭を撫でながら、目の前に立つ人物に熱く語る。
「従来のキノコを『一』とするとだな、その幻のキノコは『百』の価値がある! オレはそれを何としても見つけ出したいと思って、この大陸中の山を渡り歩いたんだ」
「……はあ」
 熱弁に対する気の抜けた相槌の声はまだ若い。
 二十歳そこそこだろうか。その地方では珍しい、黒い髪と瞳を持つ青年は、男の情熱に気圧されているのか、それとも別に理由があるのか、困惑した表情を浮かべている。
「それで……、ゴールデン・マッシュルームでしたか? その幻のキノコとやらはどういう物なんです?」
「うむ、それはだな」
 よくぞ聞いたと言わんばかりに、男はずいと青年の質問に身を乗り出すようにして説明を始める。そうした事に頓着しないのか、距離の近さに青年が引きつった顔で僅かに身を引いた事にも気付いていない様子だ。
「形や生えている場所は普通のキノコとそう変わらない。だがな……、そのゴールデン・マッシュルームは熱を加えると数ラグ(1ラグ=5m程度)離れてもわかるくらいの、それはもう芳しい香りを放つんだ! 味に至っては今まで食べた事のない程の美味って言うんだからな、想像もつかねえ」
「へえ」
「大きさは出来るだけ小ぶりの物が望ましい。あまり育っていると味が落ちるらしいぞ。魚なんかと一緒だな。そして──いいか? これが一番重要な事だ……」
 男はそう言うと、一段と声音を落として厳かに言い放った。

「なんとそのゴールデン・マッシュルームはな──黄金色に輝くらしい……!!」

「──それは見つけやすそうですね」
 名は体を、どころかそのまんまである。他に感想の言い様がなかったとしか思えない青年の言葉に、男はとんでもないと首を振る。
「ばか野郎ッ! いつもピカピカ光っていたら誰だって気付くに決まっているだろう!?」
 そして再び声をひそめると、重大な秘密を打ち明ける顔で続けた。
「いいか、これはある信用のおける筋から入手した情報だが……ゴールデン・マッシュルームはな、生えている時は普通のキノコと変わらないんだ。だがな、切り取ってから暗い所へ持って行くとだな、ぱあっ! ……と光り輝くらしいんだよ、これが!」
「はあ」
「わかるか、このスリルが! これぞと思って採っても、それがそうかどうかはわからない。これだよ、これ。これこそ山の男のロマンと言うものじゃねえか、なあ? そう思うだろ!?」
 言っている間に興奮を押し留められなかったのか、結局元の声より大きくなった声でそう言いながら、男は同意を求めてくる。
 青年は肯定も否定も出来ずに曖昧な笑みを浮かべるに留めたが、男は勝手にそれを肯定と受けとめたらしい。その肩を嬉しそうにバンバンと乱暴に叩くと、よし、と頷いた。
「じゃあ、探すとしようか! お前はあっちの方を探してくれ、オレはこっちを探す。あ、くれぐれも毒蛇と毒虫、毒キノコには気をつけろよ!」
 口も挟めない勢いで嬉々として指示を出すと、男はいそいそと茂みの中を分け入って行く。その後姿を見つめながら、青年はどうしてこんな事になってしまったんだろうと途方に暮れた。
 だが、ここに一人立ち尽くしていても事態が変わるわけではない。彼は一度ため息をつくと、男が示した方角へと足を向けた。

+ + +

 クアストゥールの北方に位置する大陸の北東部は、冬でもその緑を失わない針葉樹が立ち並ぶ、ロナ・トトスと呼ばれる山岳地帯だ。
 ロナ・トトス──『ハリネズミの城』と名付けられたそこは、同時にその大陸における名産物、各種キノコの宝庫として近隣に広く名が知られている。
 青年がその大陸に訪れたのは、一月程前のこと。
 ここまで至る道のりで当然のようにそれらを口にしたが、遥か南方においては薬効があると珍重される物も、彼には少々薬臭いが今まで口にしたキノコと違うようには思えなかった。
 後に彼が南の地に赴いた際、それが一つで金十枚(彼が食べた時は一山で銀一枚だった)で取引されている事を知って驚愕する事になるのだが、それはまた別の話である。
 そんなキノコの宝庫とされるロナ・トトスだが、裏を返せばそれだけ田舎だと言う事でもある。
 道中、民家らしきものに遭遇したのは数える程、しかもどの家もキノコ採集で生計を立てている一家ばかりという有様である。
 保存食などの蓄えを補充する十分な場所もなく、山野で見つける物と言えばキノコばかり。しかもこの地特有のキノコも多く、素人目ではどれが安全か危険かもよくわからない。
 その上、北方に位置する為か、ロナ・トトスの夜の訪れは早い。彼は山の中で行き倒れになりかけてしまった。そこを助けてくれたのが、自称・大陸全ての山を知り尽くした男──くだんのキノコ男である。
 彼は大雑把なキノコの見分け方を彼に教えてくれたばかりか、数日ほど彼の面倒を見てくれたなかなかに懐の大きい男だったが

「ああ、礼なら労働力の提供でいいぜ! その様子じゃ懐具合も淋しいものだろ? はっはっは!」

と、ちゃっかりした面も持ち合わせていた。
 その結果──今の状況に至る。
 男は命の恩人だが、抱く夢は壮大なんだか、単なる無謀かよくわからない。第一、青年は黄金に輝くキノコなんて噂話すら聞いた覚えがなかった。
 だが、一宿一飯とは言えない世話になった身である。こうなったら付き合うしかないではないか。そう、腹を括ったつもりだったのだが……。

+ + +

「どうでしたか?」
「──……」
 半日野山を探し回って二人が集めたキノコは実に背負い籠で三杯程の量となった。
 大収穫である。
 だが、それを片っ端から暗い洞窟に持ち込んで調べていた男は、出てきた時にはその広い肩をがっくりと落としていた。
 ──なかったらしい。
「ま、まあ、今回は運がなかったって事で……きっといつか見つかりますよ!」
 あまりに深い落ち込みように青年が励ますと、男は鬼気迫る顔で頭を上げるとがしっと青年の肩を掴んだ。すわ、逆鱗に触れてしまったかと青年が身を竦めた瞬間。

「そうだよなあ、見つかるよなああああ~~~!」

 だあっと、男の両目から滝のような涙が溢れた。そしてそのままオイオイと泣き出してしまう。青年は安心すると同時に途方に暮れた。何しろ肩をがっしり掴まれている。逃げ場がない。
「うおおおおお~~~! 俺は、諦めねえぞぉおおおお!!」
 感極まったように男は吠える。
 たかがキノコ、されどキノコ。小さなキノコ一つにここまで人生をかけられるのは、果たして幸せな事なのか否か。
 青年は男が泣き止むまで、そんな哲学的な事を考えて時を費やした。

+ + +

「すまん、折角手伝ってくれたのになあ」
 ようやく泣き止んだ男は、やけにすっきりした顔でそう言った。
「いえ……、貴重な体験でしたよ(いろんな意味で)」
 答える青年の顔は疲労の色が濃かったが、夕暮れで視界が薄暗いせいか男はそれに気付かなかった。
「それより、俺も考えたんですけど」
「ん? 何だ?」
「その幻のゴールデン・マッシュルームって……誰か食べた事があるんでしょう?」
 そうでなければ、噂にだってなるはずもない。
「だったら実際に食べた事のある人を探して、何処でそれを見つけたのかを聞けば──何らかの手がかりが得られるんじゃないですか?」
 男の性格的に自力で探し出してこそロマンと思っている可能性も否定は出来ないが、男泣きを前に途方に暮れつつ、青年は青年なりに少しでも助力をと考えていたのである。
 その質問に男は虚を突かれた顔をした。
 まったくそういう事を思いついてなかったのか、そんな初歩的な質問を今更する青年に呆れたのか、どちらともつかない顔である。
 しかし、青年の期待した『そんなの、とっくにやったよ』という答えも、『そうか、その手があったな!』という答えもなかなか返って来なかった。
 微動だにしない男に青年がいささかの不安を感じ始める頃、男はようやくその顔に笑みを浮かべた。そして胸を張ってきっぱりと言い切る。

「何言ってやがる。誰も食べた事がないから『幻』なんだろうが!」

 今までの詳細な説明や『信用のおける筋から入手した情報』とやらは一体何だったのか。
 そんな一言で半日の労力を無駄にされた青年は、しばらくそのショックから立ち直れなかった。
 結局、男がその生涯を閉じる前に『幻のキノコ』を見つける事が出来たかは定かではない──。
こちらは拙作『永遠の旅人』(http://ncode.syosetu.com/n8855l/)と同一世界の物語となっています。特に読まなければならない繋がりはありませんが、興味のある方はそちらもどうぞ。

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