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蛹の玉響を書き終えて…

作者: 一二三四五六

・世界的な大傑作を書くつもりでゐた…

・私はラディゲの向うを張りたいと思つてゐた…

・その無慙な結果は、今、私の目前にある。私はこれを読み返す。そしてそのころの稚心を少しも恥ぢようとは思はない…

これは三島由紀夫最初の長編〈盗賊〉に付して著者自身によって書かれたものの中から抜粋したものである。

三島は幼少よりラディゲに心酔し、同じ歳で同じ質の作品でラディゲに張り合おうとこれを記したとある。

三島がラディゲに張り合おうとしたように、私は三島に張り合おうとした。

壮麗な文章技巧や堅牢な思想、そういったものを子供心ながら「張り合おう」と考えた。

描きたかったのはエピグラフにある通り、美の消費期限であった。同時に犯罪の可能性も描こうとおもった。美と犯罪はしばしば我々のあずかり知らぬところで密接に結びつくことがあるが、私はこれを人工的に構築することを試みた。

私が最も意図したのは、おそらく〈金閣寺〉であろう。

美意識に囚われた"私"は金閣寺を焼き払ったあの溝口から生まれたと云ってもよい。

私はワイルドや三島を通じて美と云うものを考え、それを自分自身の手によって形にしたいと思った。

ところがワイルドや三島に鏡花に谷崎、いろいろなところから好きなものだけを集めた結果、膨大な試食程度の浅薄な何かが出来てしまった。さらに言えば、真似の仕方まで真似をしているので、これが一体全体どう云うものになったか分かりかねる。

私自身、蛹の玉響は世界的な大傑作を書くつもりでいたし、三島に真っ向から張り合おうとした。そしてその無慙な結果は、今、私の目の前にある。

換骨奪胎と云うには余りに稚拙で、焼き回しにもなりはしまい。構文は上ずったように滲み、焦燥感のようなものが散見される。過剰なまでの装飾技巧は鏡花に親炙したためだが、これも摂取過剰に近い形で、鼻をつままねばならないほど歪さが目立った。理詰めも甘く、蒐集家の領域を出ないものとなった。

何よりも、デウスエクスマキナが作用しなければこの作品は永遠に完成しないと云うことが痛切に堪えた。

全くの実力不足である。

幸いにして私生活が忙しくなりそうで、また筆をとるには少々時間がかかりそうだ。その間に次は何を書くか考えることにしようと思う。

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