第8話 使い魔の事情
「えっへへ~♪」
ご機嫌な様子で、フォルが俺の髪の毛を弄る。
何でも、俺の髪の毛は手触りがいいらしい。まぁ、確かにさらりとはしていると思うが。
「あんまり弄り回すなよ?さすがに、ぼさぼさにはしたくない」
「は~い。えへへ♪」
分かってるんだか分かってないんだか。そのうち、「髪型変えさせて~」とか言い出してきそうな気がするな。
……まぁ、その時はその時に考えるか。俺自身は髪型とか良く分からんし。
「ねぇハルちゃん。おね~さんにも、髪の毛触らせて欲しいな」
俺の髪の毛を嬉しそうに触るフォルを見て、羨ましく思ったのか、セルニアがそんなことを言い出した。
「……別にかまわんが、お守りにするとか言って、引っこ抜いたりするなよ?」
「そ、そそそんなこと、し、しないよ?シナイヨ?」
慌てるセルニアに、俺は冷たい視線をプレゼントする。あの慌て方は、絶対引っこ抜くつもりだったんだろう。
「おね~ちゃん、髪の毛引っ張ったりすると痛いよ?ハルちゃんにそんな事しちゃ、だめ」
フォルの非難の声に、さらに慌てるセルニア。ああ、やっぱり、セルニアよりもフォルのほうがしっかりしてるよなぁ……。
衝動的にフォルの頭をなでたい気分に駆られたが、残念なことにフォルは俺の背後に居て実行には移せなかった。……って、何考えてんだ俺。危ない危ない。
「ぁぅぁぅ。お姉ちゃんの信頼度が、どんどん下がっていってる気がする今日この頃」
「そう思うんなら、少しは自重すればいいんだよ」
ごもっともです。と肩を落とすセルニア。もっとも、元から信頼があったのかも若干怪しいのだが。
あんまりセルニアが落ち込んで居たので、髪の毛を一房ほど分けて貸し出すことにした。
そうしたら、物凄い喜んで触り始めた。……そこまで嬉しいものなのか?人の髪の毛を触れるのって。
「わぁ~、さらさらだねぇ。羨ましいな、羨ましいな」
「うん。私もハルちゃんみたいに、こんなさらさらの髪の毛が欲しいな~」
俺の髪の毛を羨ましげに弄くる姉妹を横目に、俺は再度本を読み始めた。今読んでるのは、錬金術の入門書。
一通り必要そうな知識は手に入ったので、暇つぶしをかねて詳しく読んでいる。しかし、錬金術師を名乗るわりには入門用の本しか持っていないというのは、一体どういうことなんだか……。
そういえば、フォルはイセリナを師匠とか呼んでたな。そうなると、フォルも錬金術師を目指してるんだろうか?
ちらりとフォルを見る。満面の笑みで、俺の髪の毛に頬擦りをしていた。……錬金術の勉強とか、していなくてもいいのか?
そういえばイセリナはイセリナで、錬金術をやっているところなど見た覚えが無いし……この家、本当に大丈夫なのか?二人の様子からは、生活資金に困ってる様子は無いのだけど。
「あらあら~、ハルちゃんの髪の毛触らせてもらってるのね~。羨ましいわ~」
そんなことを考えてると、ご本人が登場した。ちなみに、先ほど部屋の中を見てみた時は、熟睡中で起きる様子はなかった。
「あ、おはよう~お師匠様~」
「おはようございます、イセリナさん」
「……おはよう、イセリナ」
「あらあら、おはようございます~。みなさん~」
相変わらずの天然っぷりを見せているイセリナ。最初に出会ったときと比べると、性格が変わってるようにすら見えるが、どうもこっちが素らしい。
……何故か興奮すると、ああなるらしい。それは、一度お風呂に連れ込まれたときに、骨の髄まで教え込まされた。
それ以降、俺はできる限りイセリナを刺激しないようにしている。暴走しなければ、ただのぽけ~っとしたお姉さんだしな。
ふと、イセリナが物欲しそうな顔でこちらを見ているのに気づく。……またか。
「ふふふ、お姉さんにも、ハルちゃんの髪の毛触らせて欲しいな~?」
「……別にかまわんが」
さすがに三人掛かりは、暑苦しくならんか?と思う。だが、イセリナは特に気にする様子も無く近づいてきて、俺の髪の毛を触りだした。
なでなで、さわさわ、わしゃわしゃ。
髪の毛を弄繰り回す音が聞こえる。さすがにちょっとウザったくなってきたが、下手に止めると今度は読書の邪魔をされかねないので、とりあえず放っておく。
三人も、さすがに髪の毛をぐしゃぐしゃにしたまま放置はしないだろうし。……多分。
「ねぇ、ハルちゃんは使い魔になる前はどこで暮らしてたの?この国で暮らしてたんじゃないよね?」
いい加減髪の毛を弄るだけでは飽きてきたのか、セルニアがそんなことを聞いてくる。
「異世界。日本と呼ばれてる国だな」
「へぇ~、そうなんだ。って、えええぇえ!?異世界!!?」
……うん。まぁ本でも、異世界から使い魔として召喚された例はほとんど無いと書いてあったからな。イセリナは軽く流してくれたけど、やっぱ普通は驚くところだよな。
「え?じゃ、じゃあハルちゃんってば異世界人?あ、でもさでもさ、ハルちゃんが会話できるのは分かるけど、本だって読めるじゃん。何で?何で?」
使い魔は、使い魔となった時点で、主から会話するための能力を引き継ぐことが出来る。だが、呼び出された当初の俺がそうだったように、読み書きをする能力までは引き継がれない。
「それは知らん。気づいたら読めるようになってた」
「あらあら~?ハルちゃん本を読めるのね~。お姉さん、知らなかったわ~」
……いや、もう本を読み始めてから数日たってるよな?その間、イセリナは何度か俺が本を読んでるの見たよな?
「え~?でも、ハルちゃんじゃなくても、私だってこの本読めるよ~?」
「あ、いや、そうじゃなくってさ」
不思議そうな顔をするフォルに、セルニアが苦笑いする。
「ハルちゃんが異世界人……他の国から来たのなら、来て直ぐに本とか読めるのは不思議でしょ?不思議でしょ?」
「そうなの?ハルちゃん~」
「いや、俺普通に本読めてるし、知らん」
本当は読めるようになったきっかけがあるのだが、とてつもなく嫌な予感がするので黙っておく。具体的には、下手に言うと偶像的な何かに祭り上げられそうな感じがするのだ。
「むぅ……ひょっとして、同じ文字が使われてたとかカナ?でもそんな事、聞いたことも無いしね~」
「そもそも、異世界から来る例が少ないんだから、なんとも言えないんじゃね?読めるもんは読めるんだから、別にいいだろ」
なおも、む~。とうなるセルニア。……だが、ふと、その表情が暗くなっていく。
「でも、それじゃあハルちゃんって、大変なんだね。元の世界に返れないんでしょ?」
「ああ、そうだな」
異世界から使い魔として召喚された例。それは、ほんの数えられるほどしかない。
そして、すべての例において、召喚された使い魔は元の世界に帰ることなく、死亡していた。つまり、今のところ異世界から来て、無事に帰った例は、無い。
……そもそも、単独で異世界を渡る方法は、まだ確立されていない。使い魔として召喚される場合であっても、相当の偶然が重ならないと起きないことらしい。
つまり、今の俺には元の世界に帰る方法は無い。どうしても戻りたければ、自力で方法を見つけるか、作り出さなければならない。
これらは、本が読めるようになってから、わりと直ぐに知ることが出来た。正直ショックが無かったとはいえないが、こっちに来た時点でそういうものだろうと思っていたので、比較的すぐに立ち直ることが出来た。
もちろん、まだ完全に吹っ切れたわけではない。目を閉じれば、両親や妹、幼馴染の姿が…………
何か別に、無理して帰る必要ない気もするな。うん。
「ハルちゃん……」
そんな俺の表情を勘違いしたのか、セルニアが俺をそっと抱きしめる。顔にやわらかい感触とふわりとした匂いを感じて……一気に顔が熱を持ち、あわてて逃れようとする。
「怯えなくていいの、ハルちゃん。あたしは、絶対にハルちゃんの味方で居続けるから。絶対に、味方で居続けてあげるから」
「私も私もっ!私も、ハルちゃんとはずっと、ず~っと友達だよ♪」
そういうと、今度はフォルがくっついてきた。力いっぱいぎゅっと抱きしめてくるので、ちょっと痛い。
色々と勘違いされてる気はするが、これ以上暴れると余計に心配されそうなので、とりあえず大人しくすることにする。まだ顔が火照ってるけど、何とか静める。
そんな俺に対して、安心させるかのように頭に手が乗せられる。……う、む。頭を撫でられるのは、やっぱその、恥ずかしいけど、別に嫌ではない。
「あらあら~。みんなハルちゃんが大好きなのね~。お姉さんも仲間に入れて欲しいな~?」
そんな中に、さらにイセリナがくっついてくる。さすがに暑苦しいし、恥ずかしい。
もがこうとすると、三人共がより力を込めて抱きしめてくる。動けばより苦しくなるだけだと判断し、俺はひとまず三人の気が収まるまで待つことにした。
こういうときによくある、息がふさがれるといったことが無くてよかったと、本気で思った。この状況で呼吸を止められてたら、たぶん俺は死んでいただろう。
異世界に住んでいたということは既に話したので、ついでに性別が変わっていることも話すことにした。
あまり人に言うことじゃない気もしたが、何となくこの三人には隠さない方がいい気がしたからだ。
「へぇ~、ハルちゃんは元々、男の子だったんだ」
「別に隠しても居なかったけどな。大体、この口調でそういうのって、気づかんか?」
「え?いやぁ~、おね~さんギャップ萌え~とか思ってたから、ぜんぜん」
……なんでこいつが、あのフォルの姉なんだ?
前々から思っていた疑問が、再度浮上する。ひょっとして、フォルも成長するとこんな風に……いや、止めよう。そんな未来は考えたくない。
というか、こいつ。俺が元男だと知ってもなお、相変わらず頭を撫で続けてくるし。
「なぁ、セルニアは元男だなんて気持ち悪い。とか、思わないのか?」
「ほぇ?ぜ~んぜん。そんなの思うわけ無いじゃん。ハルちゃん、こんなに可愛いんだからさ」
そういって、にっこりと笑うセルニア。……頬が若干熱を持ったので、軽く顔をそらす。
「ハルちゃんが、男の子で女の子?でもハルちゃん、女の子だよね~?」
「あらあら~、ハルちゃんって男の子でもあったのね~。お姉さん、びっくりだわ~」
そして目に付いたのは、頭からはてなマークを飛ばすフォルと、頬を染めてイヤンイヤンと顔を振るイセリナ。
……まて、フォルはともかく、イセリナは何を考えてるんだ?何か、やたらと熱い視線をこっちに……って、ちょっと待った、何故こっちに近づいてくる?その行動には何か、嫌な予感がするのだが!?
ガバッ
突然、イセリナが俺を押し倒して来る。俺の頭を撫でていたセルニアが、イセリナの様子に驚いてその場から離れる。
「もう、ハルちゃんってば、そんなに教えて欲しければ、最初っからそう言えばいいのに~。大丈夫、お姉さんがじっくり教えてあ・げ・る♪」
ぞくりと、寒気が走った。
「だっ誰もそんな事言ってねぇっ!!って言うか、何言ってんだ、何してんだこのバカッ!ちょっ離せ、マジで離せっ!!」
「うふふふふふ、お姉さんがちゃんと脱がせてあげるから、心配しなくていいのよ~?」
そんなことを言って、衣服を脱がせ始めるイセリナ。何とか抵抗するも、このままでは直ぐにでも剥がされてしまいそうだ。
「わっちょっちょちょ、イセリナさん!?いきなり何をっ!!あわわわわっ」
突然俺を襲いだしたイセリナを見て、セルニアがあわてだす。いや、いいからこいつを止めてくれっ!
「ふふふふ、あわてるハルちゃんってば可愛い♪ちゅっ」
「ひゃっぅ……な、な、何をっ……やめっ」
「えっと、何やってるの?おししょうさま~。ハルちゃん、嫌がってるよ~?」
「うふふ、フォルちゃんにも教えてあげる♪ハルちゃんはね、決して嫌がってるわけじゃないのよ?」
「そうなの?ハルちゃん」
「その馬鹿の言うことを、真に受けるなっ!あっちょっ!?そこは止めっ!!」
フォルでは止めれないようなので、セルニアに視線を送る。頼む、お前が最後の砦だ!
「あ、あうあう、その、えと。べ、勉強させていただきます!!」
「こ、この裏切り者おおおおおぉぉぉぉ!!」
すべてが終わったあとには、ぐったりとして身動きの取れない俺と、肌に妙な艶を帯びたイセリナが残された。
ぅぅ……いつか仕返しを……覚えてやがれ。この変態めぇ……。
「じゃあ次は、フォルちゃんとセリーちゃんがやる番ね~。お姉さんがお手本を見せたんだから、大丈夫でしょ~?」
……マテ、今とんでもない爆弾発言が聞こえたんだが?真に受けたりしないよな、二人とも?
一縷の望みをかけて、二人に視線を送る。……二人は、顔を真っ赤にして……。
こくり と 頷いた。
絶望に揺れる視界。ゆっくりと近づいてくる足音を聞きながら、俺はこういうときに良く使われる言葉を思い出していた。
どうして……こうなった……ぐすっ。
直接的な描写はほとんどありませんが、念のためにR15。
これくらいなら、別にR15のタグは無くても良いかもしれませんね。もし期待した方がいらっしゃったら申し訳ありません。
相変わらず、話は中々進みません。
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