第7話 仮病の使い魔
「はい、ハルちゃん。あ~ん」
「いや、そこまでしなくてもいいって、フォルちゃん」
あれから俺は、気絶したままフォルとセルニアに家まで運ばれる事となった。
幸いなことに、命に別状はなし。どうも、軽い日射病にかかっていただけだったようで、1日もたたずに起き上がれるようにはなっていた。
……いや、それにしたってそこまで暑かったわけでもなく、時折木陰で休んでもいたはずなのに倒れるとは。やはりまだ、外に出るのは危険なんだろうな。
「だ~~め。ハルちゃんはまだ病気なんだから、ちゃんとご飯を食べないと」
「いや、自分で食べれるって話なんだけどな?」
相変わらず、フォルは絶妙な所で人の話を聞いてくれない。3~4日程は外に出れないといったら、勝手に病人扱いにされてしまったし。
……まぁ、病気じゃなきゃ外に出れるって考えられるぐらいなら、病気と考えてもらった方がいいかもしれん。さすがに、次倒れたらまずいだろうし。
「そうよ~?ハルちゃん病弱なんだから、おとなしくフォルちゃんとお姉さんの言うことを聞きなさい?」
……いつの間にか、イセリナからは病弱設定にされてしまった。いや、頼むからもうちょい考えろ。病弱な使い魔なんて居て……いや、どこかには居るのかもしれんが。
ん?ちょっと待てよ、俺の肌は青白い。そして、俺は外に出て数時間程度で倒れ、そのまま家に担ぎ込まれている。
……十分病弱の要素があるじゃん。いやまぁ、安心して外に出れるようになれば、急に倒れたりすることはなくなるはずだから、次第に病弱のイメージは無くなっていくと思うけど……。
考え事をしているうちにも、フォルが目を輝かせてスプーンを構えていた。……観念して、口を開けることにする。
フォルが息を吹きかけてきちんと冷まし、ゆっくりと口の中におかゆを入れる。
もぐもぐ……うん、やっぱり二人の料理は美味しい。
「美味しい?」
「ああ」
俺の言葉に満足そうに頷き、再度おかゆを口に運ぶ。
「たくさんあるから、いっぱい食べて、早く元気になろうね~♪」
「……ああ。そう、だな」
誤解を解けないのなら、あわせた方がまだマシか、と口を開ける。ちゃんと食べやすい温度に冷やされたおかゆが、再度口の中に入れられた。
意に沿わない形で数日間、病人扱いされてしまった訳だが、それほど退屈になる訳ではなかった。
元々、1週間は外に出れない訳だったし、今のうちに本を読んでおいて、知識を深めておくつもりでもあったからだ。
さすがに病人ということで、イセリナもフォルも頻繁にぺたぺたと引っ付くことは無くなった。
……ひょっとして、病気が治った(事になった)後に、今引っ付けない分引っ付いてくる事になるのか?いや、その事はあまり考えないようにしておこう。
ともかく、特に邪魔が入ることも無く、俺は本によって知識を深めていくことが出来た。
その内容はというと……
この世界は、人と動物と魔獣、悪魔や果ては竜まで存在する紛れも無いファンタジーの世界である。
人間や上位の魔獣、そして悪魔や竜は、魔法を使うことが出来る。特に悪魔や竜は膨大な魔力を持ち、ほぼ無制限に魔法を撃ち続けることができると言う。
その魔法についてだが、魔法の使い方といった詳細が書かれた本は、やはりこの家にはなかった。まぁ、以前探したときにも無かったし、期待はしてなかったけど。
そして魔法とは別に、錬金術という技術が存在する。これは元の世界での科学のようなもので、さまざまな道具や薬を作ることが出来る。
……さすがに、バターやケーキの作り方からいくつかの料理のレシピまで、錬金術の本に書いてあるとは思わなかったが。残念なことに、鉛を金に変えたりするような記述は無かった。
ちなみに、この家にあった錬金術の本のタイトルは『錬金術入門』……入門だから料理のレシピも書いてあるのか?いまいち良く分からん。
それ以外にも冒険者ギルドやら錬金術師協会、宗教や大陸の国家とその特徴、地理といったものをさらっと頭に入れた。もっとも、まだそこまで重要な情報とは思えないが。
ついでに、山奥の秘境や森林の聖域と呼ばれるような場所に現れる、凶暴な魔獣や竜といったものに関しても、詳細を調べてみた。
ざっと調べた感想。うん、見かけたら全力で逃げよう。全長30mの竜だの、1撃で巨木を吹き飛ばす(なぎ倒すではない)熊だの、勝てるわけねぇだろ。
そのあたりの退治はまぁ、お国の近衛騎士様とか宮廷魔導師様とかのお仕事だろう。俺みたいな、脆弱なただの一使い魔が相手するような代物ではない。
そういえば、ファンタジーの世界ではお約束のようにある伝承が、この世界にもあるようだ。といっても、神様がどうのとか言う宗教じみたものでも、勇者や魔王がどうのといった定番ものではなく、魔法の祖が居るという話。
その名前はアリス。……千年以上も前の伝承の割には、わりと詳細に残ってる気がする。まぁ、名前を見た時点で、不思議の国かよとか突っ込みをいれそうになったが。
何でも彼女は、何も知らない人々に文字と魔法を教えて行ったのだそうだ。それだけならまぁ、伝承というより記録に残るぐらいなのだろうが、彼女は何と千年も生きたらしいのだ。
……で、今から千年ほど前に突如姿を消したらしい。その詳細は不明。さすがに千年単位ともなると、壮大だなぁ……としか思えん。つかアレじゃね?実はエルフだったとか、そんなオチじゃね?この世界でも、エルフって長寿らしいし。
と、そこまで考えたところで頭を振る。まぁ、伝承とか伝説とかの話は面白いが、真に受けたり真面目に考えるほどのものではない。第一、千年前の人物が今の俺に関係するとは思えんしな。
「ハルちゃ~ん。お姉ちゃんが来たよ~」
「やっほ~ハルちゃん。おおっパジャマ姿も、可愛いですのう」
セルニアが来たと言う事で、読んでいた本をたたむ。セルニアは若干非常識なところはあるが、一応命の恩人には違いないし、無視するのは失礼だからな。
「こんにちわ、セルニア。そっちは元気そうだな」
「うむうむ、可愛い女の子を一目見れば、お姉さんは一発で元気いっぱいになるからね」
こいつが言うと、冗談なのか本気なのか判断付かん。
「それで、今日は何の……はぁ、いちいち頭をなでなくていいから」
「え~?いいじゃん、いいじゃん。減るものじゃないでしょ?」
突然近寄ってきて、頭を撫で始めるセルニア。相変わらず遠慮が無いというか、こういうところが無ければ、きっと引く手数多だろうに。
改めてセルニアの容姿を見る。フォルをそのまま大人にしたような容姿だが、短髪ではなくポニーテールであるところが違いか。明るい雰囲気は、姉妹そろって変わらない。
……せっかくだから、冗談でも言い返してみるか。減るものじゃないとか言われたら、何かしら言い返すのが礼儀と言うものだろう。
「そうでも無いぞ?髪の毛の耐久力が減るからな」
「!?」
いや、実際そんな訳は無いのだが、何故かセルニアはびくりと肩を震わせてその手を止めた。
……本気にしたのか?
「……冗談だ。でも、少しは遠慮を覚えてくれると、俺としてはありがたいんだがな」
「はぁ~、びっくりした。もぉ、ハルちゃんってば。お姉さんをあまりからかっちゃだ~め」
そういって強めに頭をぐりぐりとされた。ちょっと痛い。
「それで、今日は何の用事できたんだ?」
「んにゃ?お姉さんは特に用事は無いよ?あえて言うなら、ハルちゃんに会いに来たのだ」
「あらあら~、ハルちゃんったらもうセリーちゃんとも仲良くなったのね~。おね~さんは感激だわ~」
セリーちゃんってセルニアのことか?う~ん……まぁ、セルとかニアよりはマシか。それだと、どこぞの少年誌の登場キャラになってしまうしな。
それはともかく、ただ会いにきたって……セルニアは暇か?暇なのか?後、イセリナ。いちいち感激しなくて良い。別に俺はイセリナの子供というわけでは……。
あ、いや。一応、使い魔は召喚主にとっては子供のようなものになるのか。むぅ……イセリナが母親?何か頼りねぇ気がするなぁ。
「んっふふふ~。お姉さんは、ハルちゃんの為なら毎日通いつめてもいいよ?」
「……要は、暇なのか?」
あ、空気が凍った。
「い、いやいやいやいや、ひ、暇ってどういうことカナ?どういうことカナ?お姉さんは、ハルちゃんの為に来てるのであって、そんな暇とかそういうわけじゃ」
「いや、毎日来るとか言ってる時点で、暇だろ。ひょっとして、仕事とかも無いのか?」
ピシッと、何かにひびが入った音が聞こえた気がした。
「そっそそそそんにゃことにゃいよ?お、おお姉さん、ちゃんと仕事やってるし、報酬とかもちゃんともらって」
「ん?……ああ、そっか。定職に就いてる訳じゃなくて、報酬がって事はセルニアは冒険者だったのか?」
他にもそういう職業があるのかもしれないが、俺が知ってる限りでは、その条件を満たす職業は冒険者ぐらいしかない。
「にゃにゃ?!ハルちゃん、にゃんで分かったの!?お姉さん、まだ何も言ってないのにっ」
「ああ、本当に冒険者だったのか」
ピキッとセルニアが凍りつく。……こいつって何か、自爆して喋ってはいけないこととか喋りそうなタイプだな。
「それで、冒険者のランクは?セルニアの年なら、DかCランクぐらいか?」
「…………ランクぅなのぉ」
「悪い、聞こえなかった」
「……Eぃ、ランクなのぉっ!」
ちなみに冒険者は最低ランクがFで、そこまでなら一般人でもなろうと思えば簡単になれるのだそうだ。
そこからEランクやDランクになるのに、必要な平均日数は……いや、考えるまい。
「あ~……すまん、何か悪い事したな」
「あやまらないでぇ……おね~さん、悲しく、なっちゃうからぁ」
きっとまだ、冒険者になりたてなんだろう。うむ、俺がそう決めた。聞いてないし聞くつもりも無いけど、そう決めた。
落ち込むセルニアに、フォルが「おね~ちゃん、元気出して?」と慰める。実にいい姉妹だ。俺の妹も、あんな妹だったらなぁ……としみじみと頷く。
「でも~、セリーちゃんってばもう1ね」
「それ以上喋るな、このあらあら女ぁっ!!」
余計なことを言いそうになったイセリナを、何とか阻む。これ以上セルニアを落ち込ませたら、再起不能になりかねん。
「ん~確か、大体普通の人なら2ヶげ」
「黙ってろといってるだろうがぁっ!!!」
……本当に、フォローをするだけでも大変だわ。イセリナ、頼むから天然で場を引っ掻き回すのは止めてくれ。
これから先、この世界で生きていくことを考える。……主がこれで、本当に生き延びれるのか?俺。
突如湧き出てきた不安に対し、少し悩んだ後、考えるのを止める。今更だな、こりゃ。
そんな不安なんぞ、それこそ初日から感じてしかるべきものだったんだし。いやそれもどうよって気はするが。
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