第3話 使い魔が着る物
「そういえば、自己紹介をしてなかったわね~」
ようやく開放された錬金術師の女が口を開く。さっきまでふて腐れていたのに、今ではもう笑顔だ。
「私の名前はイセリナ。イセリナ・アールテールよ。よろしくね」
「……あ、ああ」
若干引き気味の俺の様子に、イセリナが首を傾げる。
「どうしたのかしら~?そんなにおびえちゃって……お姉さんのこと、怖いのかしら~?」
そりゃあ、初対面でいきなり襲われりゃ、怖がるのは当たり前だろうが。
俺はそう突っ込みたくなるのを何とか抑えた。下手に突っ込むと、また暴走しそうな気がするし。
「でも、おかしいわね~。使い魔ちゃん、ミハルって言ってたわよね~?」
「……ああ、そうだが」
「まだ名前も付けても居ないのに、何で名前が~……?」
……?意味が良く分からないが、俺が名前を持ってるのは当然で、それを不思議がったりするのは……
ああ、アレか。ひょっとして、ネットで良く見かけるファンタジーな小説とかの話みたいに、名前は召喚主が決めるとかそういうアレか。
冗談じゃない。
「良く分からんが、俺は美晴で間違いないんだ。そう呼んでくれ」
「あら~?不思議だけど~、使い魔ちゃんがそういうのなら~」
……どうやら、イセリナは人の話を聞かない人種のようだ。
「使い魔ちゃんじゃなくて、美晴って呼んで欲しいんだがな……それで?そっちは何て呼べば良い?」
一応、年上に対しての敬意は見せるべき……か?正直、最初の変態っぷりで既に評価は激下がりだが。
「私の事は、イセリナって呼んでくれればいいわ~。あ、でもセリちゃんって呼ぶのもありかも~」
「分かった。イセリナと呼べばいいんだな」
その見た目でセリちゃんは無いだろう。年甲斐も無い。
「あらあら~?何か、不穏なことを考えなかったかしら~?」
「い、いやっ……何も、変なことは考えて無いぞ?」
突如、イセリナから鬼神のようなオーラが立ちのぼるのが見え、思わず目をそらす。……年のことに関しては、タブーらしい。
「ねぇねぇお師匠様~?何でハルちゃん、マントしか服着てないの~?」
びくり、と肩を震わせる。確かイセリナは、俺の裸を見て暴走してきたはずだ。
恐る恐る、再度イセリナに視線を向ける。
「あらら~?そういえば、まだお洋服とかちゃんと着せて無かったかしら~」
「お師匠様ってばだめでしょ~!こんな姿じゃ、ハルちゃん風邪引いちゃうよ~?」
「あらあら~、大変ね~。直ぐに取ってくるわ~」
だが、思ったような事態にはならなかった。……ひょっとして、俺が最初に見たのは幻覚か何かだったのだろうか?そういえば、起きたばっかりで意識もはっきりしてなかった訳だし……。
そのときの俺は、そんなことばかりを考えていた。だが、俺は直ぐにでも、服を取ってくるの意味を考えるべきだったのだ。
「は~い、これ~。きっと、ハルちゃんに似合うわよ~?」
「……は?」
そういって渡されたものを見て、俺は思わず呆然とする。
黒い、ゴシック調で彩られたワンピース……って言うのか?ひらひらとした装飾とスカートは、着る人が着ればきっと映えることだろう。
……が、そんなものは俺が着るべきものじゃないだろう。常識的に考えて。俺は男……あ、しまった。俺、今女の子だったんだ。
「早く着てみて?きっとハルちゃんに似合うわよ~」
「あ、その服私が欲しかったのに、ちょっとうらやまし~な~。でも、ハルちゃんならしょうがないかな?」
とても乗り気なイセリナに、俺は思わず頭を抱えそうになる。つかフォル、別に欲しけりゃもってって構わんから。
「いや、そういうのじゃなくて……その、ズボンとかシャツとかは無いのか?」
「あら~?私は男の子が着るような服は、着たりしないわよ~?」
「……」
いや、あるはずだろ。ファンタジーなんだから、旅用の服とかそういったのが。
「お師匠様~、ハルちゃんひょっとして、色が気に入らないんじゃないかな~?」
「あらあら~、じゃあピンク色の服の方が」
「いやそれで構わん!それを着るっ!!」
冗談じゃない。黒でもきついのにピンク色なんて、本気で洒落にもなってない。
「じゃあ、お着替えさせて上げましょうね~」
「へ?」
「んっふふ~、きっとハルちゃんに良く似合うよ?今から楽しみ~♪」
「は?いや、着替えぐらいは自分……で……」
そこまで言って気づいた。二人とも、目が正気の色を帯びていない。
突如として訪れた貞操の危機に、俺は後ずさる。だが、
ガシッ
「なぁっ!?」
「えっへへ~、ハルちゃん。逃げちゃだ~め♪」
フォルの拘束を何とか振りほどこうとするも、力が強くて振りほどけない。そして、
「さぁ、お着替えタイムよぉ~?」
「ぎゃあああぁぁぁああぁぁっ!!」
「ぅぅ……もうお婿にいけない……」
「ハルちゃん、ハルちゃんは女の子だから、お嫁さんだよ~?」
突っ込みたい。激しく突っ込みたいのだが、実際体が女の子になってるので突っ込めない。
「あらあら~、じゃあひょっとして、私が責任を取らないといけないのかしら~」
「いちいち頬を染めるな!くねくねと体を動かすなっ!!」
強制的に着替えさせられた以外のことはされていない。されて無いんだが……色々と、その、見られ……ああもう!
「ったく……それで、ここはいったいどこなんだ?」
「あら~?そういえば、今日のご飯はどうしようかしら~?」
「お師匠様、今日はハルちゃんが生まれた日なんだから、お祝いしなきゃだよっ!」
「おい、人の話を聞け」
確かに食事のことは重要かもしれんが、今はそれより聞きたいことがあるんだ。
……タイミング悪く腹の虫がなったが、とりあえず黙殺する。
「今のハルちゃん?お腹すいてるの~?」
「あ、いや、だからその、その前にっ!」
「恥ずかしがらなくても、いいんだよ~?私だって、ご飯食べないとお腹すくしね~」
「あらら~、それじゃあお姉さん、張り切ってご飯作らないといけないわね~」
こ、この天然娘共は……人の話を聞く気は無いのか!?
「じゃあ、ご飯の材料買ってくるから、ハルちゃん待っててね~?」
「お祝いなら、あれにしようかしら~?それともこれのほうが~?」
「あ、おい、待っ」
俺の制止の声もむなしく、二人が外に出て行く。追いかけようにも、さすがにこの服のままで外に出る度胸も無く……結局俺は、二人が帰ってくるのを待つしかなかった。
一話使って単に服を着替えただけ。
……話がぜんぜん進みません。
なお、服飾に関しては細かいことは考えていません。
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