第30話 もう一つの記述法
「むぅ……」
手を差し伸べた先で、ガチガチとかみ合わせる木の実。
指定された品物の中で、俺たちはとりあえずガブリの実をとることにしていたのだが、中々その実を採取することが出来ないでいた。
「やっぱ、そう簡単には見つからんな」
「うん。でも、頑張って探すしかないよ?僕の鼻でも、本物の実を探すことは出来ないし」
ガブリの実は、一つの木に数十個の実がなっている。そのほぼ全てが噛み付いてくるフェイクなのだが、一つだけ本物の実が混ざっているのだ。
ちなみに本物をもぎ取ると、偽物のうちの一つが徐々に本物へと変わっていくのだそうだ。本物のガブリの実は、栄養価の高い美味しい高級果物として需要がある。
「色とかが変わってるわけでも無いしなぁ……」
「簡単に取れたら、きっと高級品じゃなくなってると思うよ?」
本物が見分けづらく、見分ける作業も面倒。さらにもぎ取ったばかりの木の場合、本物が存在しないということすらありうる。
正直、自分で食べるために取りたいとは思わない。俺自身は果物は結構好きなんだけどな。
さっ……ガチガチ
さっ……ガチガチ
さっ……ガチガチ
……面倒くせぇ。
「魔法とかで、ちゃっちゃと見つける方法とか無いんかねぇ」
「【探知】の魔法なら分かるかもしれないけど、1個1個の実を調べていくのは結局同じだよ?」
「まぁ、そうだろうな」
こういうのは、重複魔法やったところで一つの実を何度も調べまくるだけだしな。重複魔法の意味がまったく無い。
せめて、範囲を拡大とか出来れば良いんだけどな……範囲を極限まで拡大して森中を探索……とか。それか魔法の制御がちゃんとできれば、1回で何個か調べれそうだけど。
まぁ、無いものねだりをしていてもしょうがない。
さらに地道な探索を続ける。地道すぎていい加減、少しうんざりして来る。
「あっ」
「ん?どうした?」
ミルト君が急に声を上げたのでそちらを向く。……何か噛まれてた。
「おいおい」
「いたたた!っと……抜けた」
まぁ、油断でもしてたんだろうけど。ちょっと怪我をしてるな。
「大丈夫か?」
「うん、これくらいなら大したこと無いよ」
そういって魔法を使い始めるミルト君、まぁ、【小治癒】ぐらいなら自分で出来るだろうし、俺は実を探しておくか。
そう思って、再度実を探し始める。……やっぱり地道でつまらん。
「ね、ねぇ」
「ん?まだ治療しないのか?軽い怪我って言っても、そのままじゃ痛いだろ?」
「え、えと……ミハルちゃん、【小治癒】使える?」
少し情けない表情で、そう聞いてくるミルト君。……使えないのか、あるいは失敗したのか?
「使えるけど……ミルト君はまだ覚えてないのか?」
「え、えと。【小治癒】は初級魔法の中でも、だいぶ難しい方だと思うけど……」
いや、フォルやメイさんやゼノ君は、当たり前のように使ってたけどな……。
って、そうか。メイさんやゼノ君はクラスで1、2を争う成績だし、フォルは元々魔法をある程度使いこなしてて別格みたいなところがあるから、それと比べるのは間違っているのか。
だからと言って、俺に頼るのもどうかと言う気はしないでもないが。
「あ~……。まぁしょうがないか」
そう言って、俺は魔法ウィンドウを開いて【|minor healing《小治癒》】と記述し、発動させる。
ミルト君の体が軽く光に包まれ、怪我が治っていく。
「あ、ありがとう」
「良いよ別に。でも、それぐらいは直ぐに出来るようになった方が良いぞ?」
そういって俺は苦笑する。魔法使いになる以上、治癒魔法の成功率を上げておくのは重要だ。緊急で怪我を治療しなければいけない機会など、これからいくらでもあるかも知れないのだから。
「う、うん。そうだよね……でも、ミハルちゃんは本当に凄いよね。たった二日で、こんな魔法を一発で使えるなんて」
「そうか?まだメイさんやゼノ君には全然届かんだろうし、フォルに至っては何かいろんな魔法を乱射してたぞ?」
あさっての方向に、いろんな色の光弾を打ち出していたからな……ただし重複魔法じゃなくて、連続して撃っていただけなんだけど。
「そ、それでも」
「持ち上げてくれるのは嬉しいんだが、多分俺自身の才能はそこまで大したこと無いって」
何せ、半分ズルしてるようなもんだしなぁ……。同じ条件なら、多分俺はまだまともに魔法を使えて無いだろう。
何やら納得がいかない様子のミルト君だったが、これ以上言っても無駄だと思ったのか、軽くため息をついて再度本物の実を探し始めた。
俺もこれ以上言うことは無いので、ミルト君に続いて探し始める。本物の実が見つかったのは、それからしばらくたってのことだった。
「なぁ、きのこはミルト君の鼻で分かるのか?」
「え?う~ん……実物が無いと、ちょっと難しいかも」
まぁ、鼻が良いといっても、全ての匂いを覚えてる訳ではないか。
「じゃあ、一つ目は地道に探していくしかないか。周囲に狼は?」
「…………うん、いないよ」
「よし、じゃあ探し回ってみるか。」
直ぐに集まれる範囲で二手に分かれて、木の裏などを探し回る。食用キノコなどは見つかったが、お目当てのクロガサタケやワライゴロシは見つからなかった。
まぁ、クロガサタケもワライゴロシも生えてる数は少な目だからなぁ……と、思ったところでミルト君の方から歓声が上がる。
「見つかったのか?」
「うん、二つとも。これで、匂いで探れるよ!」
嬉しそうにこちらを振り向くミルト君。そして直ぐにキノコの匂いをかいで、ある方向へと振り返った。
「こっち、こっちの方から匂いがする!」
そう言って、突然駆け出し始める。……ちょっと待て、いきなり単独行動に走るな。
「お、おい、ちょっと!……行っちまったか」
軽くため息をついて、ミルト君の後を追いかける。あの様子じゃあ多分、狼に対する警戒とかも忘れているだろう。
何もなければ良いんだが……と考えて思わず苦笑いした。何も無いわけが無い。何せアレだ、よくある言葉で言えば、これはフラグが立ったという奴なんだろうからな。
「う、うわああぁああぁっ!!」
奥のほうから、ミルト君の声が聞こえてきた。言わんこっちゃ無いと思いつつ、走るスピードを上げる。
ワードッグの特徴なのかは分からないが、ミルト君はやたらと足が速く、簡単に置いて行かれてしまったのだ。少しは、俺の走れる速度というものも考えて欲しかったのだが。
森の先に、ミルト君らしき人の姿を見つける。せめて追いつくまで何とか逃げ回ってくれれば……と思いながら、その状況を確認する。そして、俺はその甘い考えを直ぐに後悔することになる。
俺の視界に映ったのは、ミルト君が既に何匹もの狼達に囲まれて、追い詰められている姿。
ぞくりと背筋に悪寒が走った。このまま走るだけでは、絶対に間に合わない。
狼が、彼の喉笛を噛み千切る姿を幻視する。先ほどまで一緒に歩き、話していた人物が、無残に食い殺される姿が目に浮かぶ。
喉の奥から、吐き気がこみ上げた。そんな事は絶対に許容できないし、許容したくない。なら……どうする?
敵は狼が数体。驚かせれば逃げるかもしれないが、その手段は限られている。
あるとすれば魔法だ。この状況で、俺が使える魔法は【魔法の矢】のみ。でも、単発では絶対に足りないし、重複魔法でも数を作るには時間が掛かりすぎる。
いくら焦っても、答えは出ない。ついに、狼達が獲物を食い殺す為に飛び掛かる。
俺はまだ、誰かを守ったりすることは出来ないのだろうか……。これから目の前に起きるだろう惨劇から逃げるように、俺はギュッと目を閉じる。
『後押しをしてあげる』
その時、聞き覚えのある誰かの声が聞こえた気がした。そして、俺の頭の中に、ある文字列が閃光の様に走った。
【for 1 to 20 magic arrow next】
閉じていた目を開ける。杖を握り締めてウィンドウを表示させ、即座に思いついた文字列を魔法のウィンドウに叩き込む。
『前と同じ、おまじない』
【auto trace】
さらに思い浮かんだ単語を、迷わず属性を記述するウィンドウに叩き込む。そして、すぐさまそれを発動させた。
俺の周囲に浮かび上がる、いくつもの光る球体。俺は、即座にそれらを全ての狼へと撃ちだす。
ドドドドンッ
「ギャァゥ!!」
【魔法の矢】による衝撃を何度も受け、鈍い音を立てて吹き飛ぶ狼達。俺はその狼達には目もくれず、ミルトのそばへと駆け寄った。
ミルトは、木を背にするような形で倒れていた。ピクリとも動かないので一瞬慌てたが、目立つ怪我が無い事に気づいて落ち着きを取り戻す。
恐らく、襲われた恐怖で気絶してしまったのだろう。特に命に別状は無いと判断し、俺はほっと一息を付いた。
……いや、まだだ。
狼達にまだトドメを刺してないことを思い出し、直ぐに気を張りなおす。
恐らく狼達は手負いになっており、より凶暴化しているだろう。またすぐに襲ってくるかも分からない。
ウィンドウを開いて【魔法の矢】をいくつか発動し、襲撃に備える。だが、いくら待っても狼達が襲ってくる様子は無い。
逃げた……のか?
念のために、【魔法の矢】を2発ほど森の中に撃ち込んでみる。木に命中して破裂音が響くが、それに対する反応は……無い。
とりあえずこれ以上狼による襲撃はなさそうなので、俺は再度張り詰めていた気を緩めた。全身から一気に力が抜け、その場に座り込んでしまう。
両手と両足の震えが止まらない。どうやら思っていた以上に、俺は緊張していたらしい。
初めて戦ったとはいえ……ミルト君が襲われていた状況だったとはいえ、狼数体でこれだ。俺には、戦闘などは向いていないのかもしれないな……。
ひとまず、怪我をしているミルト君を【小治癒】で癒す。そして、彼が目を覚ますまでの間、俺は再度辺りを警戒することにした。
ミハルの初戦闘……でも微妙です。非常に微妙です。
あと、ミルト君がかませ犬に……可愛そうですが、これも展開のためと言うことで諦めてもらいました。まぁ、ワライゴロシなんていう怪しい毒キノコの匂いを無防備に吸って、何も起きない訳が無いということで。
この魔法の記述方法に関しては、前々から考えていたものでした。と言うか、これを書きたいがために、この小説を作り始めたと言っても間違いではありません。
この記述方法にピンと来た方は、細かいところに突っ込んだりせずに生暖かい目で見守っていてください。ちなみに、言語等は固定されていません。
……既に同じような魔法の記述法で、小説を書いてる人とか居ないと良いのですけど。い、居ない……ですよね?
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