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第29話 最弱のパートナー
 
「納得いきませんわ!!」
「そうだ、納得いかない!何故僕がミハル君と一緒じゃないんだ!!」
 
 辺りに、メイさんとゼノ君の叫び声が響き渡る。それに驚いたのか、森の中から何羽かの鳥が飛び立った。
 さて、何故この二人が叫んでいるのかというと……まぁ、実習のパートナーの組み合わせが気に入らないらしい。読めていたオチだと思うんだけどな。
 
 初めての錬金術の材料採取実習。実施場所はトレイアの森。
 森の入り口周辺での採取なので、魔獣に襲われたりといった危険はあまり無い。精々が、ひょっとしたら狼数体に襲われるかもしれない程度か。
 今日は特に霧が発生している様子も無く、迷う危険もほとんど無い。まぁ、余程運が悪く無い限り、怪我すらしないような状況である。
 
 ……とはいっても、今の俺にとっては狼数体は中々厳しい。色々と対策は考えてあるが、それでもあまり出会いたいとは思わない。
 
 あの二人は、恐らくその辺りを考慮して異議を唱えているのだろう。嬉しいような情け無いような、なんともいえない気分になってしまう。
 だが、それを通すわけにも行かない。なぜならそれは、俺のパートナーとして選ばれた相手をけなしている事にもなってしまうからだ。
 
「二人とも、そこまでにしておけ」
「し、しかしだね」
「これは先生が決めたことだ。授業の内容である以上、それを生徒が覆そうとするのは良くない」
 
 俺の言葉に二人が黙り込む。やれやれ……俺以外はこの森での採取には慣れてるはずなのだし、余程俺が足を引っ張らない限りは大丈夫だと思うんだがね。
 
「こうなったら、先生を脅してでも……」
「止めろっての。今先生は真面目に授業をやってるんだから、んな事したら怒るぞ?」
「ぅ……ごめんなさい」
 
 思考が怪しい方向に走り始めたメイさんを、説得して止める。つか、そんな事をやってたらただの暴君だろうが。
 
「というわけで先生、予定通りのパートナーで問題はないぞ」
「は……わ、分かった、ミハルさ……ミハル君。」
「……とりあえず、先生は早めに元の口調で慣れてくれ。頼むから」
「はっ、う、ああ」
 
 先生はアレから、どうやっても口調が元に戻りそうに無かったので、一度裏手に呼び出してご褒美と言葉攻めを繰り広げて無理やり口調を元に戻させた。
 初めは抵抗しようとしていたが、口調を元に戻さなかったら二度とご褒美をしない、と言ったらあっさりと応じてくれるようになった。……そんなに欲しいか?ご褒美。
 まぁ、俺だけひいきをされているなどとは思われたくないし、何より平常時に先生からああいう態度を取られるのは、俺が気に入らない。俺は女王様とかそういった趣味は無いのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「えっと、それじゃあよろしくね」
「ああ、確かまだ互いには自己紹介してなかったな。俺はミハル・トウマだ、よろしくな」
「え?う、うん。僕はミルト・クルトゥナ。よろしくね」
 
 俺が笑顔で自己紹介をすると、ミルト君は若干顔を赤くして返してきた。
 実際に喋ったことは無いが、何度か顔を見かけたことはある。俺の前の席に座っていた、大人しめの男の子だ。
 
「ん?どうした?体調でも悪いのか?」
「う、ううん。大丈夫だよ。トウマさんの方こそ、いつも顔色悪そうだけど大丈夫なの?」
「俺のこれは元からだからな。あ、あとトウマじゃなくてミハルって呼んでくれ」
「え?……う、うん。分かったよ。ミハルちゃん」
 
 いきなりちゃん付けかよ。まぁ良いけどさ。
 ってそんな事よりも、やはりミルト君の顔が赤くなっている気がする。ううむ……まぁ、咳やくしゃみをしてるわけでも無いし、風邪のようには見えんのだが。
 
「僕の事は、ミルトって呼んでくれて良いから」
「ああ、それじゃあこれからの森での採取、よろしくな?ミルト君。俺は採取の実習は初めてだから、色々と教えてくれると助かる」
 
 ミルト君は、どうやら見た目通りの大人しい性格のようだ。緑色の短い髪の毛と翠色の眼。他の男の子と比べて低めな身長は、どこか小動物のような印象を思い起こさせる。
 とは言っても、採取実習を経験していることは間違いない。それに、どんな力の弱い奴でも俺より弱くは無いはずだし。
 
「あう、ちょっと自信ないけど……」
「何言ってんだか。ミルト君は俺と違って、何度も実習を重ねてるんだろ?もっと自信を持って行けば良いだろ」
「で、でも、僕は森の中で狼と戦ったこと無いし……」
 
 おろ?戦闘未経験者だったか。でも、大抵の奴は森の採取の最中に一度は狼と交戦してるって聞いたけど。
 
「僕は狼をいつも避けてるから……だから、そんな自信なんてもてないんだよ」
「おいおい、何を言ってるんだ?それはつまり、狼に遭遇する前に避ける方法を持ってるって事だろ?それは十分すごいことじゃねぇか」
 
 俺の言葉に、ミルト君が口に手を当てて驚く。
 
「戦闘何て言うのは、回避できるんなら回避した方が良いんだよ。お前は下手に狼と戦うよりも、よっぽど上策をとってるんだからな」
「でも、みんなは僕の事臆病って言うし」
「臆病で結構じゃないか。むしろ俺は、お前が臆病であってくれると非常に助かるんだからな」
 
 俺の言っている事の、意味が分からないといった様子を見せるミルト。俺は別に、間違ったことを言っていないと思うんだが?
 
「俺は、狼とまともにやりあえば多分負けるんだよ。だから、ミルト君が事前に避けられる力を持ってるんなら、それは俺にとって非常にありがたい事なんだ」
「え?え?でも、ミハルちゃんはクラス長さんやゼノガルド君や、先生にだって凄い認められてるよね?」
「あれは、あくまで俺の力が認められてる訳じゃないからな。むしろ、俺は過大評価をされてると思うぞ」
 
 実際あれは、過大評価だろう。メイさんやゼノ君は俺を妹にしたがってるって言うのもあるだろうし、先生は……まぁ、紳士だからなぁ。
 
「だから、ミルト君の力で出来る限り狼に出会わないようにしてくれると、俺としては非常に助かるんだ」
「う、うん。分かったよ」
 
 自分の力が認められて嬉しいのか、初めてミルト君が自然な笑顔を見せる。不覚なことにその笑顔は、男の子であっても可愛いと思えてしまった。
 
「へぇ……ミルト君って結構可愛いんだな。っと、すまん。男がそんなこと言われても、嬉しくないよな」
「え?う、ううん。べ、別に気にして無いから……」
 
 そう言ってミルト君が顔をそらす。ひょっとしたら、少し怒らせてしまったか?失敗したかもしれんな。
 
「あ~、次はミハルさ……君とミルト君だな。準備は出来てるか?」
「ああ、俺のほうは大丈夫だ」
「……う、うん。僕も大丈夫です」
「ん?何かミルト君の顔が赤い気がするが……ま、大丈夫か。よし、これが今日採取してくる物の内容だ。それじゃあ、気をつけていって来いよ」
 
 そう言って採取内容の書かれたメモが渡され、先生が俺達を送り出す。こうして、俺の初めての採取実習が幕を開けた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「集めてくるのは……クロガサタケ5つとワライゴロシ5つと……げ、ガブリの実かよ」
 
 歩きながら採取内容を確認する。というか、毒キノコ二種類とか、だいぶ偏ってるなこれ。
 
「なぁ、この二種類のキノコの生えてる場所って……ってあれ?」
 
 てっきり隣を歩いているものと思っていたのだが、気がついたらミルト君がそばを離れていた。
 後ろを振り向くと、少し遠くの位置で何やら立ち尽くしている。……眼を閉じてるようだが、何をしているんだ?
 
「お~い、どうしたんだ?」
 
 とりあえず駆け寄って声を掛けてみる。すると、俺に気づいたのか、その両目を開けてこっちへと向き直った。
 
「あ、うん。ごめん。今ちょっと狼の位置を確認してたから」
「ああ、そうだったのか。悪いな、置いていきそうになっちまって」
「ううん、僕こそ急に立ち止まったりしちゃってごめん」
 
 なぜかお互いに謝りあう。うん、先ほどから気になってたけど……こいつってひょっとして、俺の知り合いの中では数少ない常識人なのではないだろうか?
 
「次からは、ちゃんと声をかけてから確認するね」
「ああ、悪いけどそうしてくれ。気づかないうちに離れてしまったりすると、危ないしな」
 
 うん、やっぱり常識人っぽい。まぁ、今までが個性豊か過ぎたって言うのもあるかもしれないんだが。
 
「あ、あの……」
「ん?」
「どうかしたの?その、ミハルちゃん……何か嬉しそうだけど」
「ああ、ちょっとな。気にしないでくれ」
 
 俺の返答に対して、不思議そうな表情を見せるミルト君。いかんいかん、顔に出てたか。
 
 
 
「あ、ちょっと待ってて、もう一度確認するから」
「ああ、よろしくな」
 
 しばらく進んだ後、ミルト君から制止の声が上がったので俺は足を止める。ミルト君が眼を閉じて、何かに集中し始める。
 頻繁に、何かを探るような様子で頭を動かすミルト君。時折、スンスンと何かを嗅ぐような音が聞こえてくるのだが、これは……?
 
「うん、近くに狼はいないみたい。……って、どうしたの?」
「ん?あ、いやその、どうしたのって……」
 
 ……言うべきか?でも、本人は隠してるつもりなのかも知れんしなぁ。
 いや、本人はいつも狼を回避していたって言ってたし、それならその時のパートナーはこれを見てたって事になるし、絶対これってパートナーの人にばれてるよな?
 隠すつもりが無いんなら、確認するぐらいは良いよな?……一度、どういうのか見てみたいって言う気持ちもあるし。
 
「ミルト君、ちょっとかがんでくれるか?」
「?う、うん。良いけど……」
 
 訝しげな表情を見せつつ、その場にかがむミルト君。頭の天辺周りをじっくりと観察するが、特に変わった様子は無い。
 ためしに頭を撫で回してみる。すると、ビクッと肩を震わせてそのまま尻餅をついてしまった。
 
「わわっ!?わわわわわわわ」
「わ、悪い、驚かせるつもりは無かったんだが……」
 
 顔も真っ赤に染まっているし、今のはさすがに唐突過ぎたか?だが、目的を果たすのに十分な効果はあったようだ。
 
「い、いきなり何するのっびっくりしたよっ」
「本当に悪い。ちょっと確認をしたかっただけなんだけど、まさかそこまで驚くとはさ」
「確認って、何を……え?ま、まさかっ!?」
 
 慌ててミルト君が自分の頭に手を乗せる。そこには、見事なふさふさの犬耳が姿を見せていた。
 
「何となくそうじゃないかって思ってたけど、やっぱ犬人種(ワードッグ)だったんだな。初めて見たよ」
「う、うそっ……あ、ああっ」
 
 ん?何かミルト君の様子がおかしいな。顔を青ざめて、何かを恐れるような……。
 
「お、おい、大丈夫か?ひょっとして、さっき尻餅をついたときにどこか強く打ったのか?」
「え?……だ、だいじょう……ぶ」
「そっか、でも、顔色が真っ青だぞ?ちょっとここで休憩しておこう」
「え?え?ど、どうし……て……?」
 
 青ざめた表情のまま、尋ねてくるミルト君。いやどうしてって、そんな体調悪そうな表情見せられたら、休憩させたくもなるだろうが。
 
「どうしても何も、そんな体調悪そうにしてる奴に、無理なんてさせられないだろうが」
「そ、そうじゃない、そうじゃないよ」
「……?じゃあ、何が分からないんだ?」
「だ、だって、僕、ワードッグなんだよ?」
 
 
 …………ああ、なるほどね。良く分かった。確かに本を読んで知ったときも、そんな事が書いてあったな。
 
 ふざけんな。
 
 
「だから何なんだ?俺がその程度(・・・・)で差別するような屑どもと同じように、お前に危害を加えるとでも思ったのか?」
「ひっ!?ち、違うの……?」
 
 む?いかん。思わず殺気を込めてしまった。別にミルト君は悪くないし、俺にはミルト君を怖がらせるつもりも無いのだから。
 軽く深呼吸をする。……うん、大丈夫。まだ若干行き場の無い怒りはあるけど、ミルトにぶつけてしまうようなことは無いはずだ。
 
「俺はそんなことはしない。そもそも、そんなことを言ってたら、俺は使い魔なんだがな?」
「そうなの?……で、でもさっき凄く怖かったし」
「ああ、あれは……まぁ、俺はそういう理由だけで、迫害する屑どもが本気で嫌いなんでな。すまん、つい殺気がもれたかもしれん」
 
 呆然とした様子で、こちらを見るミルト。う~む……やはり簡単には信用されないか。
 
「ま、すぐには信用しなくて良いよ。これから先、ゆっくりと俺を見定めていけば良いさ」
「……君も、不思議な子だね」
「不思議……ねぇ、そんな事滅多に言われたこと無かったが」
 
 何故女の子じゃないのか、不思議だと言われたことは多々あったが……いや、よそう。正直思い出したくないし。
 
「それに、『も』って言うことは、俺以外にも同じようなことを言った奴が居るんだろ?」
「う、うん。君の前にパートナーだった人」
「だったら分かるだろ。前例があるんだから」
 
 数の多い少ないは別として、亜人を迫害することに反対している人は居るはずだ。俺は、そのうちの一人でありたいとは思っている。
 
「はは……そっか。うん、そうだよね」
「へ~……やっぱお前は笑顔の方が良いな。かなり可愛いわ」
「え?え?ええ!?……あ、あぅ」
 
 そういって顔をツンツンと突付くと、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。ちょっとからかいすぎたか?
 
「悪い悪い、可愛いからちょっとからかっちまった。さて、ちょっと休憩してからまた探し始めるか?」
「え?ぁぅぅ……もう。でも……うん、そうだね。ちょっと休憩したら、また頑張って探そう!」
 
 
 
 どうやら少し元気が出てきたようだ。……先ほどのやり取りで分かったが、多分こいつは何か暗いものを抱えているんだと思う。
 ……俺にはそれを消すことも支えることも出来ない。それでも、こいつは笑うと可愛いんだから、少しは笑顔にしてやりたいとも思う。
 
 だから俺は、少しでも早くこいつと友達になっておきたいと思った。あの騒がしい輪の中に入れば、少しは笑顔も増やせるはずなのだから。
 あいつらならきっと、亜人である事ぐらいで差別をしたりはしないはずなのだから。
 
新たな人物登場です。臆病な少年です。下手すると、ミハルより女の子っぽいかもしれません。

若干コメディ分が不足気味?


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