ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第28話 重複魔法
 
 昼食後の休憩時間。
 
 俺は昨日疑問に思っていたことを実行するために、人目の少ない図書館裏へとやってきた。
 途中でメイさんやセレスさんに出会ったのだが、何故か付いてこようとする二人は何とかまいた。正直今回のこれは、あまり人には見られたくない。
 
 ゆっくりと手に持った杖に力を込める。浮かび上がったウィンドウに、イメージしていた魔法文字(えいご)を打ち込む。
 
【lamp《灯火》】【lamp《灯火》】【lamp《灯火》】
 
 ……とりあえず3つほど記述したところで止める。この間約3秒ほど。
 そして再度杖に力を込めて、発動させる。
 
 ポッという音とともに、俺の周囲に3つの灯火が浮かび上がった。
 ちゃんと発動していることを確認し、直ぐにその灯火を消す。灯火とはいえ、燃えやすいものが近くにあれば燃え移ることもあるからだ。
 
 やはり、俺が予想していた通りの結果となった。この世界の魔法は、限りなく無駄の多い方法で使われているようだ。
 簡単にそれを実証できてしまったことに、俺は思わず頭を手で押さえた。というか、これで俺は難しい技術であるはずの重複魔法を、2日で出来るようになったと言うことになる。
 それを迂闊に周囲に知られてしまえば、恐らく相当目立つことになるだろう。……あまりそれは好ましくは無い。
 
「……それにしても、何かしっくりこないんだよなぁ」
 
 先ほどの重複魔法について、こう、何ていうか頭に引っかかる部分があると言うか、何かこれにも無駄がある気がするというか。
 何か、これよりもっと効率の良い方法を知っているような気がしてならない。同じものをいくつも書くことに、違和感が……?
 
 
 
 重複魔法とは、一回の魔法使用でいくつもの魔法を発動させる技術の事だ。
 昼食までにいろんな人に聞いてみたところ、それは非常に難しい技術らしい。
 
 いくつもの異なる絵を描く必要がある上、どの魔法が発動するのかが描いた本人でも分からない。
 重複魔法を実用レベルで使用できるのは、この国でも居ないとされている。確実に出来るのは、同じ魔法をいくつか発動させることぐらいだが、それなら上位の魔法を覚えたほうが余程マシだろう。
 さらに、発動しなかった分の魔法の魔力は無駄になる。重複魔法が魔法の失敗を前提としているため、必然的に単発の魔法より魔力の消費が跳ね上がってしまう。
 
 以上の理由から、あまりにもハイリスクローリターンであるとされ、使い手がほとんど居ない技術となってしまったのだ。
 この技術は精々変わり者が覚えるくらいで、大半の魔法使いはこの技術を覚えようとしないらしい。覚えたとしても同じ魔法を並べる程度で、魔法の成功率が高いことを示すバロメータ程度にしか考えられて無いそうだ。
 
「この状況は好都合ともいえるけど、確実に目立つんだよな」
 
 俺は魔法語を読める関係か、魔法の精度は非常に高く、記述もそれほど遅くは無い。
 重複魔法を使いこなせば、恐らく一般的な魔法使いに対して大きなアドバンテージになるだろう。……問題は、それをすると非常に目立つと言うことだが。
 
 それに、もう一つ疑問がある。この魔法を使っていて俺は妙な違和感を抱いたのだが、俺はこの世界に来てからしか魔法を勉強していない。読んだ本だって特別なものは何一つ無い。
 それなのに、俺は一体どこに違和感を抱く要素があるというのだろうか?俺が無意識にしか気づいていない何かが、この重複魔法の中にあると言うのだろうか?
 
 【light ball《光の球》】【light ball《光の球》】【light ball《光の球》】
 
 違和感を確かめるため、今度は【光の球】を3つ発動させてみる。光る球が目の前に3つ生まれたが、違和感については何も分からないままだった。
 いっそ何個も書いてみれば、その違和感の内容に気づくことが出来るのだろうか?いや、それはまずい。いくら人目が無いといっても、あまり派手に魔法を使えばその魔法自体が人目に付くようになってしまう。
 
 ……というか、光の球なんぞ何十個も生み出したら、そりゃあ確実に騒ぎになるわな。
 
 頭に思い浮かべていた計画を断念し、生み出していた光の球をかき消す。ならば次は、違う魔法を組み合わせてみるか?
 そんな事を考えていたら、
 
 
「すばらしいですわっ!!」
 
 突然後ろから現れたメイさんに、俺は押し倒される事となった。
 
 
「……あの、メイさん?」
「す、すみません。その、つい」
「いや、うん。いきなり押し倒されたのも問題だけどさ。それより……何でここにいるの」
「そ、それはその……」
「申し訳ありません、ミハルさん。その、私が……」
 
 そういって物陰からセレスが姿を見せる。……どうやら、俺が迂闊だっただけのようだ。
 
「あ~なるほどね……まぁ、良いや。で、見ちゃったわけね?」
「はい、それはもうすばらしい光景でしたわ」
「本当に素晴らしいです。まさかここまで早く、重複魔法を成功させてしまうなんて。これは、学園が始まって以来の出来事に間違いありません」
 
 ああ、やっぱり。こうやって無意味に評価を上げたくないから、二人には……というか、誰にも見られたくなかったのだが。
 
「やはりミハルさんは、聖女様で間違いありません。まさか、聖女様のそのお力をこの目で見ることが出来るなんて、思いもしませんでした」
「ミハルさんが、聖女?……でも、そうですわね。昨日初めて魔法を覚えた人が、今日になってもう既に重複魔法を使えているんですもの、聖女と言われてもおかしくありませんわ」
「いや、おかしいから。俺が聖女っておかしいからさ。大体重複魔法と言ったって、【灯火】だの【光の球】だのをたった3つ作れただけだろうが」
 
 二人の飛躍し始めた思考を何とか正す。聖女とか呼ばれて偶像化されたりするのは、俺としては出来ればお断りしたい所なのだ。
 聖人や聖女と呼ばれ、偶像化されてきた人たちが辿って行った末路は、そのほとんどが悲劇で終わりを告げている。……俺は好んで、その足跡を踏みたいとは思わない。
 
「し、しかし」
「しかしも何も無い。俺は前から聖女では無いと言っているし、これからも聖女になるつもりも無いんだ」
「……ミハルさんがそこまで否定するなら、私が言うことは何もありませんわね。ミハルさんなら、聖女もぴったりだと思いますけど」
「め、メイさん」
「セレス。私は貴女の信仰心を存じているつもりですわ。でも、それをミハルさんに押し付けるのは、違うと思いますの」
 
 抗議をしようとするセレスさんに、メイさんが真っ向から反論する。
 
「ま、どうしてもというのなら止めはいたしませんわ。ただし、それにこだわっている間に私がミハルさんを妹にしてしまっても、文句は聞きませんわよ?」
「っ!?……ま、負けません!!」
 
 ……何ていうか、宗教が掛かってるのに良いのかそれで。いや、それで収まってくれるなら俺としてはありがたいけど。
 
「まぁ、それはそれで良いけど、とりあえず俺が重複魔法を使えたことを他の人には言うなよ?」
「え?何故ですか?ミハルさんの素晴らしさは、それこそ国中に広めるべきものだと思いますが……」
「そうですわよ。ミハルさんであれば、成長していけば宮廷魔導師長ですら夢ではありませんわ。むしろ、ミハルさん以外の宮廷魔導師長などありえませんわよ」
 
 まぁ、二人はそういうだろうと思っていたけど。
 
「軍に従事するとか、それこそ俺はお断りだから。大体、二人とも俺が使い魔だって事忘れて無いか?使い魔が宮廷魔導師長とか、なれるわけが無いだろうが」
 
 俺の意見に、二人が不満そうに黙り込む。ひょっとしたらセレスなんかは、自分の権利を駆使してでもやりかねないのだが。
 前例が無ければ前例を作ってしまえば良い……とか、暴走されても困るんだけどな。他の宮廷魔導師達からすれば、使い魔に指示されるのは屈辱だろうし。
 
「それと、俺自身があまり目立ちたくないというのもある。だから、二人にはこの事は黙っていて欲しい」
「……分かりましたわ」
「はい、それがミハルさんの頼みであれば。私は誰にも言いません」
 
 俺の頼みならば仕方なし、と言った様子で返事をする二人。二人が了承してくれたことで、ようやく俺は安堵の息を漏らす事が出来た。
 俺はこの世界で目立ちたいとは思っていない。少なくとも、目立たなければ目立たない方が良いと思っている。
 
 その理由は簡単だ、俺の体が脆弱すぎるから。
 
 その気になれば、俺は簡単に有名になることが出来る。俺が持っているいくつかの知識、それは間違いなくこの世界では破格の情報なのだろう。
 だからこそ……ろくに自衛策も持たないまま、その知識による力を見せてしまうのは危険なのだ。確かに、一般に広められている情報の中に、この知識は存在しない。
 
 だが、この世界の権力者達が、この知識を知らない保障がどこにある?そして、その知識を抑え、権力を保っている可能性は……決して無いとは言えないだろう。
 確率は低いかもしれない。だが、万に一つそうだとしたら、巻き込まれるのは俺だけでは済まない。
 そう考えれば……この知識を広めたりするのはしばらくの間は待つ必要がある。少なくとも、この世界についてのある程度の知識や、力を持ってからにしたほうが良い。
 
 
 とりあえず、重複魔法を練習する場合は誰も見ていない場所で練習する必要があるだろう。この二人はともかくとして、他の誰かに見られてしまった場合は、その話が流れることを防ぐ手立ては無いのだから。
 
 
 
 
「しかし、本当にお見事でした。先ほどミハルさんはまだ魔法を覚えて二日目との事でしたが、一体どちらでこの重複魔法の事を教えてもらったのでしょうか?」
「ああ、それは俺の主からだな」
 
 と言っても、俺は(イセリナ)の言ったとおりにはやってないわけだが。
 
「さすがと言うべきですわね。たった1日で、単一の魔法とはいえ重複魔法を覚えさせてしまうその教育法。魔法学園に教師として呼ばれていないのが、不思議で仕方ありませんわ」
 
 本人は、教えるのが苦手だって言ってたしな。まぁ、何も言うまい。
 
「と言うか、別に単一の魔法なら何十個も並べてしまえば出来ないか?」
「……もしそれをしているのだとしましたら、ミハルさんは素晴らしい根気をお持ちと言うことになりますが」
「たとえ【灯火】や【光の球】だとしても、何十回ぶんの魔力なんて……私でもそれなりにきついですわよ?」
「ああ、そういえば俺は魔力を結構持ってるらしくてな。その辺りで結構無駄遣いも出来るんだよ」
 
 そう言うと、二人が若干怒ったような表情でこちらを睨んできた。
 
「ミハルさん。魔力はあまり無駄遣いをしないように、よろしくお願いします」
「魔力は減らしすぎるとろくに体も動かせなくなりますし、空になれば気絶してしまいますわ。私達を心配させないためにも、そんなことにならないようにお願いしますわ」
「あ、ああ。分かった」
 
 どうやら、二人に心配をさせてしまったらしい。まぁ、いくらあったとしても減る時は減るんだし、俺としても気絶何ぞしたくない。
 
「そ、その、どうしてもというのなら、私の目の前でしたら……その、私が介抱して差し上げても構いませんわ!」
「わ、私もです!ミハルさんを膝枕で介抱する準備なら、いつでも調っていますから!」
「いや、気絶するつもりは無いから。……あ、でもこれからは、重複魔法を練習する時は二人に声を掛けた方が良いか。二人がいれば、今回みたいに誰かに見られないように、見張ってもらうことだって出来るだろうし」
 
 既に二人には知られてしまってる以上、二人に黙ってやる理由は無い。それに、万に一つ気絶してしまった場合の助けも必要だし。
 
「そ、その通りですわ!私、ぜひともミハルさんの練習に参加させていただきたいですわ!!」
「私もです、私もぜひ、ミハルさんの重複魔法を間近で見させてください!!」
 
 いや、そこまで期待されても、あまり派手なことをする気は無いんだけど。
 まぁ、懸念だった二人にとって迷惑じゃないか?と言う事に関しては、どうやら二人にも利点があるようで問題ないようだ。
 
「そういえば、二人はもう重複魔法は出来るのか?」
「私は単一の魔法でしたら、少しは出来ますわよ」
 
 そういってメイさんが一歩前に出る。魔法のウィンドウを出して、集中し始める。
 しばらくすると、ポッポッと二つの灯火が浮かび上がった。メイさんがそれを確認し、すぐにかき消す。
 
「私が出来るのはこれくらいですわね」
「2個中2個か。結構精度高くないか?」
「いくらなんでも、それは過大評価に過ぎますわよ。私は10個は記述してましたもの」
 
 ……げ、それじゃあ成功率は2割程しかないのか。それならさっき言った何十と記述して3つと言うのも、結構現実味を帯びてる訳だ。
 メイさんはクラスの中では一番優秀な訳だし、やっぱりあまり重複魔法は使わない方が良いかもしれん。迂闊に何十個とか【光の球】を発動してなくて、本当に良かったと思う。
 
「セレスさんは?」
「申し訳ありません、私はまだ重複魔法を一度も成功させたことがございません」
 
 セレスさんは使えないか。セレスさんも優秀そうに見えるんだけど、やっぱ重複魔法の成功自体が難しいと考えた方が良いな。
 
「まったく、あれだけ成績優秀だというのに、何で重複魔法を未だに一度も成功できないのか。理解に苦しみますわね」
「えっと、メイさん?」
「……何でもありませんわよ。貴女はただ、私のライバルとしてもっとしっかりすれば良いのですわ!」
 
 何だか突然ツンデレらしいものが発動しているけど、とりあえずは放っておくか。
 
 ひとまず、重複魔法に関しての情報はある程度手に入った。まぁ、少なくとも、魔法を使い始めた俺が人前で使って良い代物では無いだろう。
 そうなると、当面の戦力として使えるのは単発の魔法……それも、簡単な魔法のみである。
 
 さて、その条件でいかにしてアレを切り抜けるか……正直悩みどころである。パートナーがいるとは聞いているので、そのパートナーに任せるのも手なのだが、魔法を覚えた以上は少しは役に立ちたいと思う。
 何とか、手持ちの魔法と知識を上手く利用していくしかないか。そう考えて、俺はいくつか問題が発生するパターンとその対処を思い浮かべていく。
 
「ミハルさん?今度は、何を考え込んでいらっしゃるのですか?」
「ん?ああ、次の時間は森での錬金術の採取実習だから、その対策をな」
 
 二人の表情がピタッと止まる。そしてセレスさんは何故か絶望の表情に、対するメイさんの方はうっすらと笑みを浮かべ始めた。
 そして始まる言い争い。まぁ、何を言おうが他クラスであるセレスさんに、俺と一緒に森に入る機会は無い。
 
 
 
 もっとも、大体こういう時って、勝利宣言しているメイさんと一緒にはならないんだけどな。
 
 俺は何となく今後のオチを先読みしながら、再度森の中でのいろんなパターンに対する対策を練っていくことにした。
 
 
 
 
と言うわけで、次は再度森が舞台となります。

え?先読みされたオチですか?……まぁ、気にしないでください。読んでいる大抵の人が先読みしていると思いますし。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。