第27話 疑問と違和感
【lamp《灯火》】
魔法を記述して実行する。イメージに従い、俺の指先から小さな火がポッと生み出される。
「あらあら~。ハルちゃん本当にもう魔法を覚えてしまったのね~、すごいわ~」
「ほんと凄いよ。おね~さんは、いっくらやっても初級魔法すら使えなかったからねん」
現在時刻は夕方、場所はイセリナの家。
俺は今日、魔法を使えるようになったことをイセリナに報告していた。ちなみにセルニアは何故か初めからイセリナの家に居た。
フォルは勉強で疲れたのか、寝室で一休み中である。多分一時間もすれば、起きて来て元気な姿を見せてくれると思う。
……というか、セルニアは冒険者の仕事をしてなくて大丈夫なのか?とちょっと心配になる。まぁ、腕自体は悪くないらしいので、心配するだけ無駄なのかもしれんが。
「覚えたといっても、まだ大した魔法を覚えてないけどな」
「いやいや、この短い時間に一発で成功させるだけの技術を身につけたことが凄いんよ。おね~さん、まだ一回も成功して無いしさ」
それは多分記述をミスってるんだと思う。一文字でも間違えると失敗するみたいだし。
「一応、この初心者用の杖で発動できる魔法は全部覚えてる。まだ使い慣れてないから、実戦は難しいと思うが」
「あらあら~、ハルちゃんってば本当に凄いのね~。おね~さんハルちゃんみたいな使い魔を持って、鼻が高いわ~」
いや、頼むからイセリナももう少し努力を……まぁ、最近は少しは錬金術師として動いてるみたいだが。
「それでまぁ、魔法の先輩としてのイセリナに、ちょっと聞きたい事があるんだが」
「あらあら~、でも私は誰かに魔法を教えるのは苦手で~」
「いや、答えるだけで良いから。この魔法記述部分は、ひょっとして2つ以上の絵を描けるのではないか?もう一つ、属性は本当に【非殺傷】以外に無いのか?」
俺の言葉にセルニアが首を傾げる。無理もない、魔法を使えるようになって一日も経ってない人間が、疑問を抱くようなものでは無いだろう。
だが、元の世界でインドア気味だった俺には、魔法を記述した際に残る大きな空白が非常に気になっているのだ。そこには別な何かを記述できるような、そんな気がして仕方が無いのだ。
「ハルちゃんは、何故そう思ったのかしら~?」
「ただ何となくそう思っただけだが。宮廷魔導師候補だったイセリナなら、何か知ってるんじゃないかって思ってな」
そう、一般的な魔法使いと比べれば、宮廷魔導師候補のイセリナは魔法に対する知識が深いはずである。
なら、そういったことに関して何かを知っているのではと思ったのだ。
……ちなみに、この事はメイさんやゼノ君達には聞いていない。というか、聞き損ねたというのが正解である。
「そうね~ハルちゃん、確かに魔法記述部分にはいくつもの魔法絵が記述できるわ。でも~、ハルちゃんがそれをするには、まだ早いんじゃないかしら~?」
そういって、自分の唇を人差し指で押さえるイセリナ。何か難しいこととかあるのだろうか?
「ハルちゃんが言っているのは~、重複魔法といってね~?いくつも絵を描いてようやく起動する技術なのよ~。それも、あのカルナさんでも失敗することだってある技術なのよ~?」
いくつも記述して、ようやく起動する……?つまり、何か修飾語などが必要なのだろうか?
「それに~、発動したい魔法が発動しなかったり~、発動して欲しくなかった魔法が発動したり~、危険なのよ~?」
……どういうことだろうか?そもそも記述していない魔法は発動するはずも無いし、いくつか描くだけならそんな……。
「それって、どういうことだ?」
「たとえば【火の矢】と【氷の矢】を同時に使うとすると~、その際に【風の矢】と【水の矢】と【雷の矢】を記述する必要があるのよ~」
そんな馬鹿な。何でそんな無駄をする必要が……?
「それでも時々失敗して、【風の矢】が発動してしまったり、何も発動しなかったりするのよ~?」
…………いや、これはもしかすると。
ありえるかもしれない。イセリナ達がもし、象形文字のようなアルファベットばかりをイメージしていて、そのイメージを実際にウィンドウに記述される文字とは別物だと思っているとしたら?
成功率は格段に落ちるし、狙った魔法を起動することも出来ないだろう。それに、重複魔法の場合はいろんな誤認が起きていてもおかしくは無い。
……イセリナに伝えるべきか?いや、まだ早いか。少なくとも、伝えるのは自身でそれを実証してからの話だろう。
「そして、属性に関しては【非殺傷】以外の属性は知られていないわ~。カルナさんに聞いても、きっと同じ答えよ~?」
ふむ、元宮廷魔導師長でも知らないのであれば、イセリナが知っているはずは無いか。……しかし、1種類しかないというのも不自然な話だが。
「わかった。イセリナ、教えてくれてありがと」
「うふふ~、ハルちゃんにお礼言われちゃいました~」
そう言って、嬉しそうに微笑むイセリナ。……使い魔にお礼を言われて嬉しがる主か。何かが違わね?
その後、休憩を取って元気になったフォルも加わり、夕食の時間となった。
学校で起きたことや、俺が魔法を沢山使えるようになって驚いたこと、新しい姉候補が出来たことなどを話ながら、夜は更けていく。
……うん、セレスさんの話のくだりで、イセリナとセルニアの目つきが若干変わった気がする。するんだが、まぁ気にしないようにしておこう。
その後もお風呂に入ったり、一緒に入ろうと言ってきたイセリナやセルニアを睨んだり蹴り倒して黙らせたり、風呂上りでいきなりフォルに後ろから抱きしめられたり、それにイセリナとセルニアが便乗したりして時を過ごしていった。
「えへへ、ハルちゃん大好き♪」
「…………」
フォルの直球な親愛表現は正直照れる。普段から可愛いし、信頼しているだけに、その照れをどうしても隠せなくなってしまう。
俺のフォルへの感情って、ひょっとしなくても恋愛感情混ざってるよな~……うん、俺ってロリコンだったのか。正直落ち込む。
フォルのほうは俺を女の子と認識してるだろうし、多分親愛って感じなんだけどな~。
「えへへ~、ハルちゃん顔真っ赤で可愛い♪」
『フォルのほうが可愛いと思うけど』とか、とても今そんなことは言えない。相手はまだ10歳前後だと言うのに、俺は俺自身がここまで初心だとは思わなかった。
そういえば、まともな恋愛って経験したこと無かったんだよな。まぁ、元の世界の周りに居た連中を考えれば、当たり前のことか。
夢の中に潜る。
初めてこの世界で夢に潜ってから、俺は毎日いろんな夢に潜っていた。
もちろん、あの公園の少女にも何度も会いにいった。名前も、顔も、輪郭すらも覚えることはできないが、何故かとても可愛いのだと言うことだけは覚えている少女。
彼女はまるで俺の事を見透かすかのように、いろんなことを知っていた。でも、何故か俺はそのことに対して嫌悪感を抱くことは無かった。
まるで俺の心を覗き見られているような感覚があるのに……あの少女ならそれも良いと、あの少女ならそれが当たり前だとすら思えてしまっていた。
今日も彼女に会いに行く。ただし、目的はいつものようなおしゃべりでは無い。
「いらっしゃい、今日もまた私に会いに来てくれたのね、嬉しいわ」
「ああ、今日はちょっと君に聞きたいことがあってね」
いつもの様に、現代の公園で立つ少女。その表情が、ゆっくりと笑みに変わっていく。
「クスッ魔法が使えるようになったのね。おめでとう」
「ありがとう。といっても、まだ簡単なのしか覚えていないんだけどさ」
「貴女なら大丈夫。難しい魔法も、複雑な技法も、きっと直ぐに上手に使えるようになるわ」
そういって笑う少女。俺が納得するような根拠は無いようだけど、この少女が言うと何故かとても説得力があるように聞こえて来る。
「それで、魔法について不思議に思ったことがあるのね?でも、それを私は直接教えることが出来ないの」
「そうか……まぁ、それはしょうがないかな」
少しだけ期待していただけあって、ちょっと気落ちしてしまう。だが、前にも同じ事を彼女は言っていたので、仕方ないのかもしれない。
「落ち込まないで……貴女が悲しむと、私もとても悲しくなってしまうの」
そう言っていつの間に近づいてきたのか、俯いた俺をそっと抱きしめて来る少女。
「貴女なら、きっと自分で見つけることが出来るわ。貴女なら、きっと自分で気づくことが出来るの」
「自分で……?」
「そう。だから、私が少しだけその後押しをしてあげる。前と同じ……おまじない」
少女が俯いた俺の顔を上に向ける。ゆっくりと少女の顔が近づいてきて……。
ふわりとやわらかい感触が、唇を包んだ。
朝一番の、小鳥の鳴き声が聞こえる。
鶏の鳴き声じゃないんだな……とか、訳の分からない事を考えながら俺は体をゆっくりと起こす。
ふと、夢の内容が思い起こされる。……夢の中の出来事だと分かっていても、思わず唇を指で押さえてしまう。
頬が熱くなっているのが分かる。俺って、こんなに純情だったんだな~とか、意味の分からないことをちょっとだけ考えた。
ふと、隣ですやすやと眠っているフォルが見えた。可愛い寝顔で眠るフォルの、小さな唇が……。
「って、何考えてんだ俺は?」
慌てて視線をそらして頭を振る。あの夢の後だったからだろうか、妙にフォルを意識してしまっている気がする。
軽く深呼吸をして、気分を落ち着かせる。気分が落ち着いてきたところで、フォルへと視線を戻す。
幸せそうに眠るフォルを、可愛いと思う気持ちは生まれても、それ以外の変な感情が生まれなくなった。うん、どうやら俺も冷静になることが出来たようだ。
「で、こんな朝方に何のようだ?セルニア」
「え?いや、その、別にハルちゃんの寝顔が見れるかな~とか、そんなことは思ってないんだけど」
思ってたんだな。というか、セルニアの気配のようなものは感じていたんだが、今声がしたの上だぞオイ。
「いい加減、蜘蛛の真似事はやめようとか思わんか?」
「いや、天上って結構警戒されにくいから、色々と便利なんよ?あたしが居るのに気づかれたのも、ハルちゃんが初めてだし~」
……おい、セルニアは普段から何か犯罪行為でもやってるんじゃないだろうな?
「良いからとっとと降りて来い、あ、間違っても俺やフォルの真上に降りてくるなよ?」
「はいは~い」
そういってセルニアが降りてくる。……俺の真後ろに。
「お、おまっ!?」
「んっふふ~、油断大敵よ?ハルちゃん」
そういって、後ろから抱き付いてくるセルニア。完全に不意を付かれた形で、抵抗する事も出来ない。
「いきなり真後ろに落ちてくるなよっ!危ないだろうが!!」
「んふふ、おね~さんの落下技術を甘く見てはいけないのだ。はぁ……久しぶりにハルちゃんを独占♪」
そういって、すりすりと頬擦りをしてくるセルニア。とりあえずため息はつくが、抵抗する気が起きないのでやりたいようにやらせることにした。
「あり?ハルちゃん、いつもみたいに抵抗しないの?」
「たまには良いだろ。暑苦しいけど、襲ってくる訳じゃないのならそこまで気にはせん」
まぁ、後ろからだから視界や呼吸が確保できてるって言うのもある。こいつら時々、俺を殺そうとしてるんじゃないかと思う時があるし。
「そっか、これからはハルちゃんに思う存分抱きついても良いのねん♪」
「たまにはっつっただろうが。後、やるにしても視界と呼吸だけは塞ぐなよ?アレは下手をすると本気で死にかねん」
「あははっは~い。了解しました、お嬢様っ♪」
そういって頭を撫でてくるセルニア。むぅ……悔しいけど、ちょっと気持ち良い。
「あ~、おね~ちゃんハルちゃんに抱きついてる~。私も私も♪」
いつの間に起きたのか、そこにフォルが加わる。……まぁ、フォルが見たらこうなるって分かってたけどさ。
その後、出てこない事を不審に思ったイセリナが様子を見に来て、さらに加わってしばらく団子状態になったのは言うまでも無い。
……ついでに遅刻しそうになった。朝っぱらから学園まで駆け足とか、本気でこの体だときつかった。
……そろそろガールズラブの注意書きとか必要ですかね?
実際ミハルは、心は男の子なので違う気もするのですよ。見た目は女、頭脳は男。めいt……失礼しました。
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