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第26話 妹と呼ぶために
 
 授業が終わり、休憩時間に入る。
 
 休憩時間に入るなり、俺は軽いあくびをしてしまっていた。学園での生活にも慣れてきたこともあり、少し緩みが出てきたというところか。
 ちなみに隣のフォルもやや眠そうである。昼食後の授業だったということも、その原因の一つかもしれないが。
 とは言っても、まだまだ着いて行くのがやっとという身では勉強に手を抜くことは出来ない。今手を抜いて、また勉強会を開く必要が出来てしまったら二人に合わせる顔が無い。
 
「ミハル様~、ミハル様はいらっしゃいますか~」
 
 
 ……その声は、そんな真面目なことを考えていた俺の思考を軽くぶち砕いた。
 
 
「あ、ミハル様の席はそこなのですね」
 
 そういって駆け足で近寄ってくる少女。言わずともがな、先ほど会ったセレスである。
 
「セレス……何かあったのか?」
「いえ、休憩時間になりましたので、これはミハル様の元へと赴かなければと思いまして」
 
 ……休憩時間になるなり赴くって、お前は俺のメイドか何かか。
 
「ハルちゃん。この女の人、だぁれ?」
「ああ、こいつはセレスだ。少し前に出会った知り合いだな」
「そうなんだぁ、私はフォルカ・エティールド。よろしくね♪」
 
 フォルが笑顔で挨拶をする。……?何やらセレスがプルプルと震え始めたが、
 
「か、可愛いですわ……」
 
 そう言って突然セレスが音も立てずに歩み寄り、フォルを抱きしめる。若干フォルが混乱した様子を見せるが、悪意が無いと分かったのかしばらくすると抵抗を止めた。
 
「こんな、こんな可愛らしい子がいらっしゃったなんて……私、全然知りませんでした!」
「……何やってるのですの?セレス」
「あ、メイフィールドさん」
 
 そんなセレスを見てか、呆れた様子でやってきたメイフィールドさん。
 
「貴女の可愛いもの好きは知っていましたけど、まさか違うクラスにまで来てまで、そんなことをするとは思いませんでしたわ」
「メイフィールドさんは知り合いなのか?」
「知ってるも何も、私とセレスはライバルですわよ。……ってセレス、聞いてるんですの!?」
「はぁ……フォルさんったら、本当に可愛らしいのです!!」
 
 メイフィールドさんに気づく様子も無く、フォルを抱きしめたまま恍惚の表情を浮かべるセレス。……可愛い物好きにしたって、限度があるだろ。
 
「おいセレス、いい加減フォルを離してやれ。後、メイフィールドさんを無視してやるな」
「はっ!?申し訳ありませんでしたミハル様!」
 
 俺の言葉に慌ててフォルを手放すセレス。フォルは抱きしめられてた事自体は気に入ってたのか、ちょっとだけ残念そうな表情を浮かべる。
 
 ……まぁ、フォルが気に入ってたんなら、別に良いか。
 
「セレス、フォルに抱きついても良いけど、呼吸と目だけはふさがないように後ろから抱き付いてくれ」
「え?……その、よろしいのですか?」
「フォルが喜んでるなら止める理由は無いしな。良いんだろ?フォル」
「うん♪セレスおね~ちゃん、とっても柔らかくていい香りだったし、優しい感じがするから好き!」
 
 フォルの笑顔にやられたのか、再度セレスがフォルに抱きつく。ちゃんと俺が言った事を守って、今度は後ろから抱き付いている。
 
「……それで、いつになったら私の事を認識してくださいますの?」
 
 その様子を見て、何やら青筋を立ててプルプルと震えだすメイフィールドさん。……そういえば、こっちのフォローをしてなかったな。
 
「あら、申し訳ありませんメイさん。それで、どのようなご質問でしたでしょうか?」
「はぁ……もう良いですわよ。貴女の可愛いもの好きは、私の常識をはるかに超えていたということですわね」
 
 呆れたようにため息をつくメイフィールドさん。どうやら怒りを通り越して呆れに入ったようだ。
 
「しかし、セレス君がこちらに来るなどとは珍しいじゃないか。君はいつも、クリス先生の手伝いで忙しいはずだろう?」
「はい、そうなのですが、今日はミハル様にお会いするためにこちらへお伺いしたのです」
「ミハル……様?」
「そういえば、さっきもそう言ってましたわね」
 
 不思議そうな顔で、メイフィールドさんとゼノガルド君がこちらへと振り向く。
 
「なぁ、セレス。やっぱそれ止めないか?」
「いくらミハル様のお願いであっても、それは聞き入れることは出来ません」
 
 やはりきっぱりと断られた。何というか、本当に頑固な人だ。
 
「ちょっとちょっとセレス、どういうことですの?貴女、ミハルさんと何かあったんですの?」
「そうだよ。しかもミハル君は、君の事を呼び捨てにしてるじゃないか。僕等どころか、フォル君ですらそんなことは無いというのにっ」
 
 ……?何かずれてないか?ゼノガルド君の言い方だと、目上の人に対しての敬意が足りないとかじゃなくて、むしろそう呼んで欲しいっていう風に聞こえるんだけど。
 
「そうですわよっ!私ですら、いまだにメイフィールドさんと呼ばれているのに、どういうことですの!?」
「それは、私がミハル様にそう呼んでいただけるようお願いしたからです。お二人も、ミハル様にお願いしてみてはいかがでしょうか?」
 
 …………は?
 
「ちょっと待てセレス、二人はお前とは違うんだから」
「ミハルさん!私の事はメイと呼んで欲しいですわ!!」
「ミハル君!僕のことはゼノと呼んでくれたまえ!!」
 
 オイ。それで良いのか二人。
 
「私も、ハルちゃんならフォルって呼び捨てにしても良いよ?」
「あ、ああ。フォルに関しては、フォルが良いんならそれでも良いけど……」
 
 元から、心の中では呼び捨てにしていたしな。フォルは親しみはあるけど、可愛いのと一応年上っぽいのでちゃん付けしてたんだけど。
 
「わ、私も!」
「いや、メイフィールドさんとゼノガルドさんはまずいだろ?二人とも明らかに目上なんだし」
「そんな事関係ありませんわ!私が呼んで欲しいと思ってるのですから、呼んで欲しいのですわ!!」
「その通りだ!ミハル君がどう考えていようと、君にはそう呼んでほしいのだよ!!」
 
 ……はぁ、まぁどうしてもって言うなら良いけどさ。
 
「じゃあ、メイさんとゼノ君……で良いか?俺としても、名前が長くて呼びづらかったからありがたいんだけど」
「まだですわ、ちゃんと『さん』をつけずに呼び捨てで呼んで欲しいのですわ!!」
 
 いや、さすがにそれはちょっと……恋人じゃああるまいし。
 そう考えていると、ゼノ君が何やら思いつめたような表情で一歩前に出た。
 
「ミハル君……僕は君を妹にしたいと思っている。だから、まずはその一歩として『さん』をつけずに呼んでくれないか?」
 
 
 ん?その呼び方にそれを絡めるのか?……だったら、こう言えば良いか。
 
 
「なるほどね。だけど、俺が妹になることに関しては条件が決められてるよな?」
「あ、ああ」
「俺はまだ二人の妹になることを了承していない。その時点で、ゼノ君は一歩を踏み出せというのか?」
 
 ゼノ君の全身が衝撃が走ったかのように震える。メイさんも同じように、全身を震わせている。
 
「そう、その通りですわ。呼び捨てで呼んでもらう事を、妹とするための第一歩と考えるのなら、今の私ではまだ足りてはいないかもしれません」
「そうか……僕は、焦るあまりに順番を取り違えてしまっていたのかも知れない。すまないミハル君。僕はまだ、その呼び方でも満足するべきだったんだ」
 
 いやまぁ、そこまで仰々しく考える必要は無いんだけどな?というか、人を妹にすることだけに一体どれだけ真剣なんだよ。
 
「あの、ミハル様。妹というのはどういうことなのですか?」
「ん?ああ、あの二人はどうも俺を妹としたがっているらしくてな。俺が認めたら、二人の妹になることになってるんだ」
 
 といっても、妹になるったってどうすれば良いのかも分からんけど。仮の妹とか義理の妹とかそういうのかね。
 妹ごっこをすれば良い、というレベルじゃないだろうしなぁ……二人の真剣っぷりを見てると。
 
「そ、それは……私も参加できるのですか?」
「は?……何だ、参加したいのか?」
 
 ピンと来た。俺の口元が、かすかに邪悪の笑みを浮かべる。
 ……って、参加して良いのか?こいつ俺のこと聖女とか言ってたよな?聖女を義理の妹にって、結構不遜な考えだと思うんだが……宗教的には大丈夫なのか?
 
「はい、それはぜひとも参加させていただきたいです!」
「なっ!?ちょっと待ちなさい!!貴女が参加する権利はっ!!」
「メイさん、これは俺の意思が一番関わっていることだ。だから、その参加する権利があるかどうかは俺が決める。違うか?」
「ぐ、それは、そうですけど……」
 
 ゼノ君にもちらりと視線を向けるが、不満はあれども意見は無いようだ。改めてセレスに振り返る。
 
「さて俺を妹にするということだが……当然参加する以上は、セレスもメイさんやゼノ君と条件を同じにしなければならない。分かるか?」
「は、はい。ですがそれが…………ま、まさかっ!?」
 
「参加する場合は、俺はセレスの事をさん付けにする。あと、セレスも俺の事を様付けじゃなくてさん付けにすることだ」
 
 セレスの表情が段々青ざめていく。条件を同じにすると聞いたからか、メイさんとゼノ君の不満そうな表情は一気に和らいで行った。
 
「し、しかし……それは……その」
「セレス。セレスは俺に、セレスだけをひいきをしろとでも言うのか?」
 
 それは、暗に聖女に対して不誠実を要求するのか?という問いにもなる。
 これはセレスにとっては、耐えられない事だろう。……妹にするのは良いのか?とも問いたくはなるが。
 
「そ、そんなことは言いません!わ、分かりました。ミハル様の言うとおりにしますので、ぜひとも私にもその権利をお願いします」
「ミハルさん……だよ。セレスさん?」
「は、はいっ!ミハル……さん」
 
 交渉が上手く成立したようなので、俺はセレスさんに笑いかける。セレスさんも、若干引きつってはいたが、俺に笑顔を返してくれた。
 
「二人とも、それで良いよね?」
「ええ、それは構いませんけど」
「何というか、セレス君が少し哀れに見えてしまったよ」
 
 何とでも言うが良い。とりあえず尊敬する年上の人を軽々しく呼び捨てにするのは、俺の信念が許さんのだ。
 
 
 え?イセリナとセルニア?あの二人は別に尊敬して無いし。
 
 
「えへへ~、これでハルちゃんのおね~ちゃんとおに~ちゃんが三人になったんだね」
「いや、まだ認めて無いからな?」
 
 確かに認めるつもりはまだ無い。出会ってから、一月も経っていない相手を、兄や姉と呼ぶのは抵抗がある。でも……ふと思う。
 
 
「?どうしんですの?ミハルさん」
「僕等に何か用かい?ミハル君」
「何かあればおっしゃってください、ミハルさん」
 
 
 俺はこの三人を尊敬している。それは恐らく間違いない。
 だから、今では無いけど遠い未来。彼らを兄や姉と呼ぶ、そんな可能性があっても悪く無いかもしれない。
 
 とても優秀で見た目麗しい三人の兄姉候補達を見て、俺は柄にも無くそう思ってしまった。
 
 
「で、そろそろ授業始まるけど、セレスさんは大丈夫なのか?」
「はっはうぅっ!?」
 
 ……まぁ、若干抜けてる人も居るけどそこはご愛嬌か。
 
 
というわけで、妹争奪戦に一人追加です。

普通王族の場合、宗教関わりそうな偶像だと思っている人を義妹にしようとは思わない気はしますが、そこは彼女の若気の至りと作風によるコメディ効果ということで。あんまりドロドロしたのは作者が好きじゃないですし。



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